はい?


「……どうするかな」



天然水をテイスティング、ダンスのステップを踏みながら思考する。


『初音さんともっと仲良くなるには』。


まず話したい。が、教室での距離は大きく離れている。

俺の席は窓際の後ろ。

初音さんは廊下側の前。正反対じゃないか……(憤怒)。


十分休憩の時間に話しに行くのは結構難しい。というか隣席の魔王から逃れる事も難しい。

そもそも俺は悪目立ちする。

急に前の方に移動したらどんな視線を受けるか……怖い。


とすれば昼休みは?

如月さんと楽しく話して過ごしている。

あの中に突入……はかなりキツい。何より如月さんに悪い。初音さんにも悪い。


放課後は初音さんは部活。

確かバスケットボール部だったかな。

どこで知ったんだっけ……ああそうだ、帰る途中に校舎をランニングしてるところを見たんだった。


……。


俺の中のインド人と関西人も沈黙中。

これは本当に――


「無理じゃん、っと!」


ああダメだ。

踊りのステップは決まったが計画のステップが何も決まらない(は?)。


もう学外か。休日? 誘えと? 

無理だろ、連絡先すら知らないし(チキン)。



……こういう時は散歩して考えよう。

ついでにスーパーで買い物でもするか。今夜はチキンカレーにしよう――




「おかし、かってー!」

「あっこら戻しなさい! かのん!」


と思っていたら、遭遇した。

初音さんの親友である彼女に。


丁度俺がいる鮮魚コーナーから、お菓子コーナーにて駄々をこねるかのんちゃんの声で気付いた。子供の声ってよく届く。


当然あっちは気付いていない。

……如月さんは初音さんの親友。

良い機会だし、彼女について聞いてみてもいいかもしれない。



「……」



と思ったが、ここで話しかけたら流石に迷惑じゃないか?

買い物中だし。といかストーカーみたいになってない?(今更)。


うーん、でも――



「――あ!!」

「あ」


「……あ」


そんな『あ』が3つ。

気付けば2つの視線が虹色頭を捉えていた。


どうやら、また俺はこのレインボーに救われたらしい。



「ごめんなさい、かのんがまた……」

「にじいろー!!」


「だ、大丈夫」


買い物を終えて。店から出て。

背中にかのんちゃんをおぶりながら、また彼女の家へと向かう。

まさか2日連続でこうなるとは。


……ちなみに、如月さんの美し過ぎる顔を見るとまともに話せないのでずっと前を見ています(陰キャ)。

後ろから俺の髪をわしゃわしゃされるのも今は助かっている。


「……すぅ」


あ、寝ちゃった。

まあ振動で眠くなるんだろう。

電車と同じ理屈だ。


「かのんったら、すっかり味占めちゃって……」

「別に良いよ。悪い気はしないから」


クラスメイトの男子からしたら、とんでもないご褒美だろう。

子供に好かれるのも素直に嬉しいし。

ただ腰はちょっと痛くなるけどね(爺並感)。


「……そういえばさ」


かのんちゃんが寝た今。

俺は切り出す。


少し迷ったが――今聞かなきゃダメだと思った。


「如月さんって、凄い初音さんと仲良いよね」

「? ええ」


……ここからどうしよう。


変化球で聞き出すか。

直球で打ち明けるか。


「……俺、初音さんと仲良くなりたくて」

「!」

「その、彼女について聞かせてくれたらな、なんて……」


選んだのは後者だった。

如月さんに申し訳ないし、何より友達の事だし。


そもそも会話をあんまりしない俺に変化球とか無理だ、コントロール出来ずに事故るのが目に見えている。


「ぇ……」


今、無言の彼女から選択を間違えたかと思うけれども。


「だ、だめかな」

「あっごめんなさい。驚いちゃって」


「へ?」

「昨日同じこと桃が言ってたから」

「!?」


思わぬ言葉で思考が追い付かない。

昨日って……それは、公園で彼女達に会う前の事か?


混乱と共に、凄く嬉しいような――


「ふふ、何でも聞いていいわよ」

「っと……(目眩)。それじゃ、初音さんの趣味って?」


唐突な彼女の微笑みにより意識を失いかけたがセーフ。


「漫画とかアニメとか映画とか――色々創作物が好きね。ただ小説は苦手みたい」

「なるほど」


「あとバスケが得意ね」

「なるほど……」


とりあえず深くは考えず質問をぶつける。

……うん、良かった。全く知らない分野じゃない。


マンガでバスケの知識はある、大丈夫。


「彼氏とかは……」

「聞いたことないわね」


うん良かった(安心)。

一応聞いとかないとね。

男友達なんて彼氏からしたら嫌だろうし。


「えっと……じゃあ嫌いな事とか苦手な事とかは?」

「古文とか数学は嫌いって言ってるわ」

「……な、なるほど」


まさかの科目。

プラスに捉えよう。多分嫌いな事も苦手な事もあんまりないんだろうな。


えっと他、聞きたい事聞きたい事――


「――ね。東町君」

「! は、はい!」

「桃って意外と寂しがりやなの。意外でしょ?」

「え」

「この前、一緒に買い物行った時……はぐれちゃって。見つけた時には桃が涙目でね――」


聞いた事のない、少し高くなった彼女の声。

楽しそうな表情だった。

俺はそれに耳を傾け、頷いて。


実感するんだ。

本当に如月さんは、初音さんと仲が良いんだと。


そしてほんの少しだけ――羨ましいと思ってしまった。



「その……二人って、親友って感じだね」

「うふふ、そうかしら?」

「うん。あ――着いたかな」



話していたらあっと言う間だ。

この家も昨日ぶりだな。


「かのん! 起きて!」

「……すぅ」


しかし、この反応は昨日と違う。

家の前に着いたらすぐ起きてたからな。


……どうしよう。


「あー、ごめんなさい。とりあえずかのんを受け取るわ」

「ああうん。ど、どうぞ」


「……すー……んっ」

「ちょ、もう……」


俺が屈んで、後ろに回った如月さんがかのんちゃんを抱えようとする。


しかし――離さない。

まるでコアラの様に、かのんちゃんの手がクロスされている。

そして締まる俺の首(酸欠)。

ギリギリ、ギリギリと。


とっても苦しいです(死)。



「ぐえ(蛙よりも汚い声)」

「!? ごっ、ごめんなさい!」



ひたすら格闘する如月さんが動きを止める。

大丈夫大丈夫。まだ死んでない。

生きてる。彼女と距離が近すぎて天国かと思いましたけれどもね(不審者)。


「……ごほっ、ど、どうしようか」

「困ったわね。とりあえず家の中まで来てもらってもいいかしら……」

「はい?」


はい?



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