「急いでるんだけど」
キーンコーンカーン――
そんな、今日の授業全てが終わったことを知らせる鐘の音が鳴った。
「……♪」
そして、隣にはとっても上機嫌な椛さんが居る。
一体何があったといえば――
『それじゃ、また明日』
今日『20回目』ぐらいの、ノートの切れ端を椛さんに滑らせる。
「……!」
それを蹂躙出来るのが嬉しいのか、また顔を綻ばせる彼女(悪魔)。
そう。俺はこの美術時間中、ひたすらに隣席にノート端を献上し続けたのだ。
『復讐は悲劇を産む』――そんな偉人の教え通り、俺はただただ書き続けた。
それが消しゴムで消されようが、彼女のポケットの中で握り潰されようが、特にアクションが無かろうが――めげる事は無かった。
そりゃ、最初は怖かったよ。
でも三回目からは明らかに彼女が喜んでいると分かったから怖くはなかった。
むしろ途中からは楽しくなったね(適応能力↑)。
「……」
何も言わず立ち上がる。
俯く椛さん。今まであげた紙は、結局そのポケットの中。
……何だか印象がかなり変わってしまったな。
しかしきっと――椛さんは悪い人じゃないと思う。
「……ぁ。その……」
「えっ」
なんて事を考えていたら。
その声に、俺は一拍遅れて気が付いた。
「——っ」
「え、ちょ……」
と思ったら――走っていってしまう彼女。
分からない。分からないが、椛さんもきっと何かと戦っているのだろう。
己に巣食う悪魔的な何かと。コレまでの行動もきっとそれが原因だ(憶測)。
なら、俺も諦めない。
……誓った。
あれ?(正気に戻る)。
☆
「えーと、連絡は特にないですね――それじゃみんなまた明日!」
六限終了。そしてすぐにホームルームも終わり――
ようやく一日が終わる。
授業中が一番平和で楽。そんな異常事態だった為かこの6限まで一瞬だった。
普通逆だからな!
「はぁ……」
悪魔と魔王.feat夢咲さんにより疲弊した身体。
限界寸前。いやもう既にリミットブレイク。
「じゃ、とーまちバイバーイ☆」
「……じゃあな」
「あ、ああうん……また明日」
隣席の二人は俺と対照的に元気だった、まるで自分の体力を吸われている様に。
いやいつもあんな感じだったね。
陽キャさんはすごい(尊敬)。
「……」
あれ。
そういえば、学校にてこういう風にお別れの挨拶言うの初めてだ。
思い出したかのように心の中が温かくなる。
ああ……凄く疲れたけど、色々からかわれたけど。
案外悪くない、か――? なんて。
「……帰ろ」
そんな感傷に浸るのは後で良い。
席を立ち、騒がしい教室を歩いていく。
とりあえず家に帰ろう。
早くボトルシップ作りたい。ってその前に作り過ぎたナンを消費しないと。
あと今日の授業の復習も――
「……あ」
「あ」
そう思って、鞄を持って教室のドアから出ようとした時。
不意に――クラスで一番背の高い彼女と鉢合わせる。
「……初音さん」
思い出す。
日曜日、公園。
昨日の夜の事を。
《――「わたし、いっちと友達になりたい!」――》
その台詞を。
思い出すだけで――嬉しくなってしまう、そんな一瞬。
でも。
「! なっ、なに? 急いでるんだけど」
「あ――いや、ごめん。何でもない、ごめんね」
帰ってきた言葉は、
思わず謝り、ささっと教室から出る。
騒がしい廊下も、今はそれに救われる。
「っ」
……ああ。何を浮かれてんだよ俺は。
クラス一の美少女の親友。
陰キャなぼっちにも優しくしてくれて。
明るくて、話してて楽しくて。
ドン引きするような趣味も全く引かずに興味を持ってくれるような。
そんな魅力的な彼女にとっては――自分なんてミジンコ以下の存在なのに。
ああ、クソ。
隣席の二人から弄られる時よりも。
謎の無口少女に拒まれた時よりも。
初めて出来た友達――そんな彼女とは、あまりにも己の価値が離れている事を再確認したこの瞬間。
今日。今が一番――精神を削られた。
▼作者あとがき
いつも応援本当に感謝です。
おかげさまで日間ランキングにも出るようになってました。
お礼も兼ねて、今日はもう一話夜に投稿します。
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