文学少女は難しい



「…………」



空腹状態のまま図書室へ。

人間は、一日三食を始めたのは最近のことだという。過去は一日二食でずっと過ごしていた。


だから問題ない。

腹が鳴るのだけは勘弁してくださいお願いします(祈願)。



「……」



普段、勉強しかしないせいで何をするか迷う。

でもここは図書室。やる事は決まってるよな。


そうだ、本を読もう!(今更)。



「……お」



この前見た、クソ実写化映画原作……の、作者の別作品を手に取る。

図書館で見たものとはまた別。


ジャンルも推理モノからファンタジーモノになっていた。

この人、色々書いてたんだな。それもすべて本になってるから凄い。

スレで決めた通り、いつか小説書きも趣味としたいから、勉強半分娯楽半分で読んでいこう。


流石に自習するわけじゃないから、一人用の自習机には座れない。

読書用である、四人用の縦長テーブルで読むことにしよう。



同じ作者であると、例えジャンル違いであっても癖が出る。

作風とも言えるだろう。


例えば、この人は文学少女系のヒロインを登場させる。

コレまで見た三作品すべて。

……あの実写化映画で彼女がどうなったって? 何と金髪ブロンドの陽キャになりました(理解不能)。


本当に記憶を抹消したい。

……いつか。俺が絵を描ける様になった時は、もう一度このヒロイン達のビジュアルを書き直そう。

決めた――


「……!」


なんて決意を固めた時。

不意に、俺の前の席の椅子が引かれる。



そして、そこに居たのは。


「――っ……」


もみじさんだった。本屋ぶりの。

控えめに本を開いて、静かにソレを読み進めている。


「……」

「……っ」


と思っていたが。

ずっと視線を感じるんだよな。


長い前髪のせいで分からないけれど――明らかに前からだ。

俺の感覚がそう告げている。

というか、頭の動きでチラチラこっちを見ているのが分かる。


「……ぁ」


そして気付く。

彼女が、俺と同じ作者の本を持っている事に。

それも前図書館で読んでいたやつ!


「……」

「……」


鼓動が早くなる。

嬉しいんだ。この作者の良さが分かる人が居るのが。


初音さんと一緒に映画を見た時に分かった。

感想を『共有』出来る楽しさを。



《――「わたし、いっちと友達になりたい!」――》


《――「今のとーまちは違うよね」――》



彼女達は、そう言ってくれた。

ずっと一人だった俺が、その台詞の様に変われたというのなら。


勇気を出して、椛さんに声を掛けてみたいと思ったんだ。



「……」

「……」



しかし、どうすれば良い? 


場所は図書室。

話しかけて良いものなのか? 

周りはコソコソ話してるけど、彼女は嫌かもしれないし。


……とにかく勘違いだったら終わる。

一回席を立って、また注目されてたら話しかけよう(チキン)。

あわよくばもうあっちから話しかけてもらおう(ビビリ)。



【>>5で俺は変わろうと思う Pert6】


110:名前:1

急募 本好きの人から興味を持たれるにはどうすれば良いでしょう


111:名前:恋する名無しさん

場所は?


112:名前:1

図書室です 騒ぐのとかはなしね


113:名前:恋する名無しさん

ビッグマッ〇を食べる


114:名前:恋する名無しさん

ムーンウォークで入室


115:名前:恋する名無しさん

本上下逆にして読書(なお、逆立ちとする)


116:名前:1

OK分かった 全部やってくる


117:名前:恋する名無しさん

やめろーーーー!!!!


118:名前:恋する名無しさん

ごめんなさいごめんなさい


119:名前:恋する名無しさん


120:名前:恋する名無しさん

1はマジで“やる”男やぞ(恐怖)


121:名前:1

え? やらなくていいの


122:名前:恋する名無しさん

ほんとごめん


123:名前:恋する名無しさん

心が痛くなってきた


124:名前:1

んでどうすればいいかな(仕切り直し)


125:名前:恋する名無しさん

ジャンルによるけど とりあえずコアで知る人ぞ知る的の本を読もう


126:名前:恋する名無しさん

その本好き君は何を読んでるんだ?

系列的に ファンタジー? 歴史?


127:名前:1

ミステリー系だね


128:名前:恋する名無しさん

おっ んじゃアレとかどうだ――





「……っ!」



スレを閉じて戻っても、彼女は居た。

椛さんの前の席――ではなく、適当に空いていた席に座った。


俺がスレ民と相談して出した答え。

それは――本好きじゃないと知らない様な、珍しい本をこれ見よがしに読む。

ただの有名どころではいけない。コアな奴らじゃないと知らないそれを読んでいる所を見せつければ、普通なら興味を持たれる。


「その本読んでるの? やるじゃん」的な感じで行けるはず(希望)。



「……っと」



いうことで。

席に着いた場所は、彼女から三席分離れた――斜め先の椅子。


そして手に持つその本を開く。

まさかあるとは思わなかったが。

それはいわゆる、『奇書』と言われるやつである。



「――っ……」



う、うわあ。

めちゃくちゃこっち見てる。


もうコレ確定だと思うんだけど。

……調子乗るのもアレだし、せっかく手に取った本だし。

今は読んでいこう。この本を――





「うっ……」



きつい。

まず読みにくい。そしてとにかく、読んでいて辛い。


『アンチミステリー』、この本のジャンルはそう呼ばれるらしい。

推理小説でありながら守らなければならないルール――例えば、構成である起承転結の崩壊。筋の通らないトリック。読者が犯人だとかのたまったり。

そんな本。


当然、素人の俺が読んでも面白いと感じれる訳がない。この本が悪いわけじゃない。

手に取った自分が悪いのだ。



「…………」


やばい(恐怖)。

めっちゃ見てるよ……めっちゃくちゃ見てるよ椛さん。

ちょっと心地良い(変態)。


そう、この本は『推理小説』を多く読んできた者達にとっては面白く感じれるはずなんだ。

俺からすれば、ミステリーとしても小説としてもよく分からないものだが。

彼女からすれば、コレまで読んできた推理小説の知識が現れるこの本はとても面白く感じれるのだろう。


……多分(不安)。

実際、今彼女は俺の持つ本に釘付けになっている。

本当に椛さんは、たくさんの本を読んできたんだろうな。



「……」

「……っと」



そう考えると彼女に大きく劣る己が恥ずかしくなってきた。今更だけど。

この本はいつか、ミステリ経験値がたまったら挑戦しよう(RPG並感)。

流石にそろそろ限界だ。

席を立ち、本棚に戻そうと歩いていく中で。


未だに――椛さんの視線が突き刺さっていた。

背中越しでもそれは分かる。



「……よし」



話しかけられることは無かった。


だが。

ここまで俺に興味を引けたのなら大丈夫だ。

行こう。

図書室といえども、軽くなら問題ない。


その世界三大奇書を装備(APP魅力+5)、彼女の元へ歩いていく。



「……!?」

「……」



本を戻し、椛さんに近付いていく。

気付いた彼女は――驚いた様な顔をした後、逃げる様に本の中へ視線を移した。


……え、これ大丈夫?


と思ったが後には引けない。

今を逃せば明日の俺も逃げてしまう。



「ちょ、ちょっと良いかな――」



だから俺は声を掛けた。

本に目をやる、静かそうな彼女に向けて。


ああ、俺がもし――椛さんに少しでも好意を持たれていたのなら。

同じ作品を語り合える友が生まれるんだろう。


だが。

この世界は、非情である。



「――っ! ご、ごめん、なさ……っ」


「え」



消え入りそうな声だった。

そして、震えた声だった。


明確な拒絶。

そのまま彼女は席を立ち、哀れな虹色頭(輝度低下)が一人取り残される。


何かが削り取られた気がした。

遠くにあった『私語厳禁』の看板が、ようやく俺の目に映った。

そして——


キーンコーンカーン——



「…………」



休憩残り時間5分を示すそれが鳴る。

今からトイレ行って教室に戻れば、恐らく3分。


そこから教科書とか色々出してたらきっと昼飯を食う時間なんて無いだろう。

ごはんたべたーい! たいたい!(ショックにより幼児退行)。


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