逃避
「はい、今日はここまで。宿題は――」
一、二三限と終了。
時間にして11時頃。
空腹状態に耐えながら、何とか息をつく。
授業には付いていけている……いやむしろ授業の方は天国だ。
勉強が好きとは言わないが、ひたすらに知識を詰め込む作業は楽しい。
テスト、先を言えば大学入試。しっかりと目標もあるからな。
そして何より。
静かなのだ――――
「ねーとーまち!」
授業終わり、飛んで来る柊さん。
さっきの一二限の休憩もそうだったが、ずっと彼女は俺の机にやって来る。
「……」
そして斜め横には夢咲さんが席に付いたままこちらを監視。
マジやばくね?
何時もの――先週までの俺と違い過ぎる。
そしてこの状況は、決して良いものではない。人との会話というのは、ぼっちを貫いて来た俺には難易度が高すぎる訳で。
「とーまちって、ずっと一人だけど友達居ないの?」
「……」
そして分かった事がある。
柊さんは容赦がない。
そして夢咲さんは、意外と笑う……特に俺が慌てている時とか。
「……ふッ」
今みたいに。
「友達、か……」
「ふははは! 何その儚げな表情!」
そして魔王(柊さん)はもっと笑う。
箸が転がっただけで笑いそうとはこの事だ。
この場合箸じゃなくて俺が転がってんだけど。彼女達の手のひらの上で。
「逆に居ると思う?」
「居ないでしょ! だってずっと一人で勉強してて、面白そうな人って感じじゃなかったし」
「心折れそう(うん、確かにそうだね)」
「ぎゃ、逆ッ、フフッ……」
魔王の隣、吹き出す彼女。
夢咲さんが楽しそうで何より。
「でも、実は居るんだよねコレが」
「……?」
「え」
「……それが普通でしょ?」
「――(心停止)――」
「フッ、フフ……だ、ダメ……」
もうだめだ。
彼女達といると寿命が縮んでしまう。
ちょっと困らせてやろうか!
「じゃあ何で柊さんは、そんな『つまらなそうな』俺に話し掛けてるんだよ」
「えっ」
もうヤケクソである。
自虐ネタというよりただの自虐。
というよりも——ずっと気になっていた事だった。
「今のとーまちは違うじゃん?」
「え」
「ずっと下向いてたけど、今はリオの顔見て喋ってるし」
「あ、ああ」
「何か違うよね! ね、苺!」
畳み掛ける彼女に、俺は反応できなかった。
「……ふんッ」
「苺もそう思うって!」
すげー今の肯定なんだ。
でも、『違う』か――そう言われて悪い気はしないな。
「ありがとう」
「じゃあ今度、合コン誘っちゃうね!」
「はい?」
「とーまち居たら面白くなりそうだし!」
「いやいやいや」
「彼女欲しくないの?」
「え……」
濁流の様に流れる柊さんの言葉。
彼女、彼女……。
考えようと思った事も無かったから、答えに詰まる。
それは男女の終着点。
いや違うな。何だ?
そもそも友達だって昨日まで居なかったし。
彼女とは。
考えれば考えるほどわけが分からなくなる。
「彼女、彼女……彼女って何だ……?」
「ふはははは! とーまち壊れちゃった!」
「フッ、ふふ……」
キーンコーンカーン――
やがて鳴る鐘の音。
フリーズしたままの俺を見て、笑いながら席に戻る彼女達。
そして決意を固める――次の昼休みは、絶対に二人から逃げて平穏に潜もうと。
☆
四限。
俺の得意科目である数学を取り組む。
休み時間で疲弊した(?)俺の脳は、羅列された数式によって回復していく(?)。
謎の逆転現象に震えながらも、楽しい授業は過ぎてしまう。
何事も心地よい時間は過ぎ去っていくのが早い。
これが相対性理論か。アインシュタインってどんな恋愛するんだろう。
キーンコーンカーン――
「それじゃ今日はここまで」
「――!」
鐘の音色。
クラスメイト達が立ち上がろうとするのに合わせ、鮮やかなステップ(自称)により席をいち早く立つ。
柊さんがこちらに来るまでの時間は平均4秒。
よって――3秒あれば十分。
言いたかっただけじゃない。
カウント3。
足を滑らせる様に席の斜め前へと踏み出す。
カウント2。
一斉に立ち上がるクラスメイトの動きを予想しステップ、ステップ。
切り抜ける。
カウント1。もはや、俺の姿は柊さんから消えている。
カウントゼロ。
既に俺は、教室の扉が眼前にある。
残念だったな魔王柊。
この勝負、俺の勝ちだ――
「――あ――いっ……――」
教室から早足で廊下に。
……後ろから、どこか俺に向けて声がしたような。
きっと気のせいだろう。
☆
「……はぁー……」
息をつく。
「……ぁ……?」
そして、気付く。
教室から出るのに必死過ぎて、手ぶらで来てしまった。
あの売れ残り菓子パンも、図書室での勉強道具も全て教室に残したまま。
「終わった……」
仕方ない。
ある程度平穏を食らい尽くした後、教室に戻って食べてしまおう。
とりあえず一瞬だけ中庭の一人用ベンチ(俺専用)に座る。
まずは、このキツすぎる現状をスレ住民達に――
□
【>>5で俺は変わろうと思う Pert6】
1:名前:1
辛い……
2:名前:恋する名無しさん
おっどうしたどうした
3:名前:恋する名無しさん
どしたん? 話聞こうか?
4:名前:恋する名無しさん
やはり虹色の髪は辛かろう……
5:名前:恋する名無しさん
スキンヘッドは良いぞ(決してハゲではない)
6:名前:恋する名無しさん
どっちも同じだろ
7:名前:恋する名無しさん
辛辣で草
8:名前:恋する名無しさん
気にせず1は悩みをどうぞ
9:名前:恋する名無しさん
最近眠りが浅くなってきて……
10:名前:恋する名無しさん
1の悩みだって言ってるだろうが!!
11:名前:恋する名無しさん
早くしないと1 ここ睡眠相談スレになるぞ
□
やばいちょっとうれしい。
一部はアレだが、平日昼間にこんな俺の悩みを聞いてくれるなんて。
思えば彼らが居たからここまでこれたんだよな。
やはりインターネットは暖かい。
これが令和のヌクモリティか(
□
12:名前:1
隣席のギャルと、もう隣のギャルがずっと俺に話しかけてきてさ……
13:名前:恋する名無しさん
……………………
14:名前:恋する名無しさん
>>9
最近良い枕見つけたんだよね
15:名前:恋する名無しさん
腰とか悩んでるやつはマットレスが良いぞ 高いやつな
16:名前:恋する名無しさん
やっぱ仕事終わりの熟睡が一番だよね
17:名前:1
みんな無視しないで
別に自虐風自慢とかじゃなくてさ
18:名前:恋する名無しさん
良いスレ見つけたな ココが睡眠相談スレか
19:名前:恋する名無しさん
そうだよ
20:名前:恋する名無しさん
! こ の ス レ で は 眠 り に 悩 む 男 性 を 応 援 し て い ま す !
21:名前:恋する名無しさん
虹色に染めるどっかの奴は自分の髪色で寝付けなくなってしまえ
22:名前:恋する名無しさん
草 まーアレ、ツラいなら本でも読めば(適当)
□
「……」
知ってた(無敵)。
図書室行って来ようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます