「――大好き!」

違う朝


「……ふぅ」


朝五時。

目覚ましが鳴る前に目覚めて、俺は昨日のインドカレーを温める。


その間にナン(失敗作)をレンジでチン。


「いただきます」


それを平らげたら、お湯を沸かして珈琲を淹れる。

豆を炒るところから始めます(ドヤ顔)。


「3点」


まっず!!!

やっぱりまだインスタントの方がおいしい。

ナンもコーヒーもまだまだ未熟。



《名無しの映画レビューブログ》


『気になってた映画なので助かりました!』

『こんなに丁寧に解説してくれているブログ、初めて出会いました! いいねしておきます』

『くっそ真面目にクソ映画レビューしてるの草』



「……コメントありがとうございます、と」



珈琲を飲みながら、立ち上げたそのブログのコメントに返信を打つ。

スレで声があったから適当に書いてみたけど、意外に反応があって驚いた。


ちょっと嬉しい。

もちろん、元の作品があってこその集客だろうけどさ。



折り紙に読書、今日の授業の予習を終えて。


「……うわっまずいまずい!」


気付けば登校する時間だった。

それも結構遅めの。


走って駅に向かって、電車に乗る。

そして到着、学校まで歩く。


もちろん視線が痛いが――もう慣れた(と思いたい)。



――「アレ注意無しかよ」「東町っていうらしい」「確か学期末五位だったよな」――



登校中、聞こえてくる声。

名前が売れてきたね。人気者は辛いね(泣)。


でも確かに、この髪色でも許されるのは意外だった。令和万歳。

何かもう虹色が気に入っている自分が居る。

綺麗だし。



「――あっ! とーまちじゃーん!」


「えっ」


校門を通った辺りで見知った声が掛かる。

後ろを振り向けば、手を振った柊さんと――


「……ッ」


顔を横向きに反らした夢咲さんが居た。


「おはよーとーまち!」

「お、おはよう」


「……おう」

「どうも……」


キッとした目線がこちらに向く。

夢咲さんは圧が凄い。


だが、いつもより優しい気がした。



「――ねぇリオ、変な事喋んないでよ」

「えーどうしよっかなー」


「……」


背中で広がる二人の会話を聞きながら、教室へと向かう。


混ざるなんてとんでもない。

多分死に至る(陰キャ)。


「ねーとーまち! 昨日のこと聞かせてよー!」


と思ったらお声が掛かった。

昨日って、あのクラブの事だよな。


……どこから言えばいい?


「ぜんっぜん苺が話してくれなくてさー」

「……ッ」


背中の声に振り返ったら、夢咲さんは思いっきり俺を睨んでいた。

あっこれ言ったら殺される奴だ。


《——「結構イケてたから」——》


そりゃそうだよね、あんな事言ってくれたのは気の迷いだっただろう。

彼女の黒歴史を掘り起こすのもアレだし、とにかく話題を変えなければ(使命感)。

話題話題——。


「き、昨日の合コンはどうだったの?」

「え?」

「……何で知ってんだよ」


合コンというワードを出した瞬間、一気に夢咲さんの目付きが鋭くなる。

俺死んだ?


「あー、あちゃあ」

「いやあの、昨日別れ際に聞いたんすよ……何かまずかったかな」

「色々最悪だったからね☆」


ウインクをして、笑う柊さん。

かわいい(かわいい)。

そして夢咲さんに睨まれる。怖い。


「大学生と会ってたんだけど、集合した後凄いお酒頼んで酔っちゃってね? 声でかいし話もあっちが勝手に盛り上がるだけだったし」

「……へ、へぇ」


想像するだけで地獄だ。

ただ、彼らも色々あったんじゃないだろうか。


例えば――


「ねーそんな男、とーまちはどう思うよ?」

「……」


思考を回していると、不意に質問が飛んでくる。


うーん、どうするよこれ。

下手なことを言うと夢咲さんに殺されそうだ(必死)。

こういう時は、掲示板のレスを思い出せ。

あれはまだ如月さんに恋していた時の事。

恋愛板――モテ男スレでの内容を――


637:名前:('∀`)

うわああああああああああああああモテたいモテたいモテたい彼女欲しい彼女欲しい


638:名前:('∀`)

とりあえず女性と会話する事から始めようね


639:名前:('∀`)

話すってどうすりゃいいのよ……(会話苦手部)


640:名前:('∀`)

とりあえず共感しとけ


641:名前:('∀`)

そうは言うが、何でもしたら良いって訳じゃないんだなコレが


642:名前:('∀`)

???


643:名前:('∀`)

例えば、その子が愚痴言ってたらどうよ

友達とか彼氏とかの


644:名前:('∀`)

……普通にそうだよねー分かる分かるって言っとけばよくない?


645:名前:('∀`)

ダメダメ

彼女達にとって仲が良い相手の愚痴は共感しないが吉 自分がその子とまだ仲良くないなら尚更

そういう時は、嘘でもいいから実体験を交えて解決法を提示する

そうすれば同じ様な体験してるんだ! ってなって仲間意識が芽生える


646:名前:('∀`)

は?


647:名前:('∀`)

あとは共感って程度も大事だよね

何事もすればいいって訳じゃなくて、相手がとにかく共感してほしいって事だけに頷けば良い 過度な共感は軽い男のレッテルを張られる


勘違いされがちだけど ただのイエスマンは不甲斐ないし逆に好感度下がるぞ

しっかり話を聞いてやれ 女の子は難しい


648:名前:('∀`)

やっぱ二次元って最高だわ


649:名前:('∀`)

>>648 諦めんなw



……危ない危ない。

とにかく共感しようとしてたよ。


まずは話と二人の関係性を聞かないと!



「……どしたの?」

「あーいや。えっと、その人達の名前はなんていうの?」


「え、木谷きたにさんと古田ふるださんだけど」

「そっか……どこで出会ったの?」

「へ? 古田さんはリオのバイト先の先輩だよ。木谷さんは彼の友達。二人共真面目っぽくてイイ感じだったのになぁ……」


「なるほど」


話が読めてきた。

柊さんは二人に好印象だったんだな。

じゃあ――


「夢咲さんは全く面識無かったんだ」

「え、うん」


多分、確定。

後はそれとなーく柊さんに伝えよう。

俺から言うのは緊張するので(ビビリ)。


「……二人はよっぽどお酒に頼りたかったんだろうね。極度の緊張で」

「うーん……? 古田さんってリオとバイトで会ってるし。木谷さんだけなら分かるけどお酒に逃げる意味って……あ」


やっと気付いてくれた。

そうだ。彼ら二人がそうなった理由は、柊さんの隣に居る彼女である。



「……なに」


「えっと、多分だけどね? 昨日の二人は苺が原因かなって」


「は? アタシのせいだって?」

「あ、あー……悪い意味じゃなくて……」



低くなる彼女の声。

怖い(怖い)。


しかも柊さんが困ってる所なんて激レアだぞ。



「と、とーまちが説明してくれるって!」

「え」



と思ったら投げられたキラーパス

めちゃくちゃ睨んでくる夢咲さん。


腹を括れ東町一。

別に何も悪口を言うわけじゃない。むしろ逆、良口だ(言語能力崩壊)。

ちなみに醤油は薄口派(意味不明)。


「た、多分だけど」

「……」


「あー、夢咲さんって凄い美人で、かつ目力が強いから。多分その、萎縮しちゃって」

「ッ……!」


「だから彼らは悪気があったわけじゃなく、お酒の力を頼ってでも、夢咲さんと盛り上がりたかったんじゃないかな……と思います」



言い切った。

とにかく男性二人は悪者ではないと強調、かつ夢咲さんにも配慮した。


ギャル×ヤンキーな彼女は迫力満点、本当に目が合うだけで萎縮する。

陰キャレベルマックスの俺なんて、一瞬で石化状態だ。


彼ら二人は思うよう喋る事が出来ず、そこにあった魔法おさけに手を伸ばしてしまった。そんな所だろうか。


「……はッ、そうかよ」


というわけで、夢咲さんはそう呟き窓の遠くの景色を見る。

その横顔には、先程までの苛立ちは見えなかった。お美しい。


……会話、むっず……。


「すごーいとーまち! 苺の機嫌治った!」

「……良かった」


多分今の数十秒で朝ご飯全てのカロリーを消費した。

陰キャは陽キャに比べ会話に十倍以上のカロリーを消費する(陰キャ連合スレ調べ)。


そして間もなく我らが教室。


……まだ授業前ってマ?(ギャル並感)



「……あ!」

「え」


「でっでっ、昨日の話聞かせてー!!」



我らが学び舎、2-Aの教室に入ると同時に柊さんがそう叫ぶ。


「要らねー事言うなよ」

「は、はい」


「要らない事喋っていいよ☆」

「はい?」

「はいじゃねーよテメェ!」

「あっ(思考停止)」

「ふっ、ははははは! とーまち面白ーい!」



魔王(柊さん)とヤンキー(夢咲さん)に囲まれながら席へと向かう。


周りからの視線がカットされているのは幸か不幸か――





キーンコーンカーン――


「はーい皆さんホームルーム始めますよー、起立!」



アレから数分して、待ち望んでいたチャイムが鳴る。



「じゃあねー☆」


「うん……はっ、はっ……」



そしてようやく、柊さんが夢咲さんの向こう側に行ってくれた。

結局ホームルーム開始まで質問攻めである。


いつクラブに来たのかとか。

いつ夢咲さんに会ったのかとか。

一緒に踊ったのかとか。


『喋ったらぶっ殺す(意訳)』なんて目線をぶつけてくるYさんに配慮しながらボカシにボカして話していた。


疲れた。

ナン10枚分ぐらい消費した。

ここでインド人を右に! カレーを……カレーを作ってくれ……(幻覚症状)。



「……あれ」



そんな勢いで右を向くと、夢咲さんがすぐそこに居た。


何を当然の事を――なんて言われるだろうが、いつも彼女はもっと遠くに居るのだ。


そう、いつもなら隣の柊さんの席側に寄せているはずなのに。



「……んだよ」


「い、いや」



ホームルームが始まって、終わって。授業が始まる時間になっても。

その席は、近いままで。



今までと違う学生生活が始まった――そんな気がした。









▼作者あとがき

新章入ります。八時超えちゃってすいません。代わりに少し長めになりました。

おかげ様で昨日からアクセス数と☆がいっぱいで超うれしいです!

ありがとうございます。






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