マジで?
「……ただいま」
小さな声が、玄関で木霊する。
家に帰ると今日一番の静寂があった。
先程までの、特にクラブでの喧騒がもはや愛おしくなる程の。
控えめに飾った、
「寂し……」
思わず漏れる。
両親は海外で働いている。
妹もそれに付いていったが、高校が決まっていた俺は一人暮らしを決行。
親も快諾してくれて、結構良い所に住まわしてくれた。
未だにこのマンションの一室は慣れない。
だが今の――趣味? のせいでごちゃごちゃした部屋は好きかもしれない。
「……買い物リスト作ろ」
今晩の夕食はカレーです。
本格的なインドカレーね。つまり大量のスパイスが居る。
ただ、一度に使う量なんてたかが知れてるから……また雑品が増えてしまうな。
誰にも怒られないから別に良いんだけど!
もう
☆
「……こんなもんか」
リスト内のスパイスは全て揃った。
後は野菜とかも買えたし、後は帰るだけ——
だったんだが。
「……お」
初めて見る天然水を思わず手に取ったり。
「こんなとこに生きてたとは」
明らかに売れ残り品である、くたびれたカップ焼きそば(チーズケーキ味)をカゴに入れたり。
「これ通販じゃなかったやつだ……」
ちょっとレアなコーヒー豆を見つけたりして。
☆
「思ったよりいった……」
買い物袋の中は想定より2倍程多くなった。
カレーの材料だけ買いに来たはずなのに!
「……」
でも。
そうして無駄な買い物をしていると、さっきまでの寂しさは消えていた。
この二日間で思ったことがある。
『趣味』なんて、軽い気持ちで始めていいんだ。
「っぶな」
横断歩道、白の所だけ歩きながらそう思う。
これは趣味と言えるのか分からないが――大事なのは楽しむ事である。
長い長いこの土日も、もう日が暮れてしまう。
悲しい。
……いいや。
また、来週も再来週もこの休みは続いていくんだ。
それがとても嬉しい事の様に思える。
こんなこと、今まで思うことなんて無かったのに。
さっきから。
何かが、疼いて、仕方ない――
「あっ、そういやアリの巣――」
スーパーの帰り、公園でアリの巣を見つけなくてはならない。
普通に通り過ぎるところだった。
危ない危ない――
「――にじいろのおにいちゃん!」
「!?」
なんて、公園の入り口で立ち止まった時。
聞こえてきたのは、覚えのある子供の声だった。
「ぐうぜん!」
「うおっ……え? え?」
駆け寄ってくる彼女。
理解が追い付かない。
いや、かのんちゃんだよな?
って事は――
「わっ! わ~! また会った~」
「こんばんは」
如月さんと初音さん。
当然の様に二人が居た。
気のせいか、初音さんの反応が大きい。
「ど、どうも……?」
日曜の夕方。
また、思わぬ遭遇だった。
☆
「ま、今から帰るとこなんだけどね~」
「そうだったんだ」
「ごめんなさいね、かのんが」
「わーわー!」
「べ、別に良いよ」
かのんちゃんを胸に抱えて、如月さんが謝る。
「……で、何しに公園に? そんな荷物持って、鉄棒とかじゃないでしょ~?」
「あーちょっとアリを……捕まえるために見ようかなって。視察みたいな」
「?」
「……?」
「ありさん!」
同級生の二人は頭を傾げる。もう一人は……うん。
そりゃそんな反応になるよな。
でも、おふざけではない。これは趣味だ(ドヤ顔)。
……でも公園をひたすら観察するところを見られてると、緊張で心臓おかしくなりそうだし助かったな。
ちょうど帰るところだったんなら助かった――
「――ほんと~?」
「え」
初音さんがイタズラな笑みを浮かべる。
このままでは俺がクラスメイト二人のストーカーみたいになっちゃうぞ(RIP)。
良かろうならば見せてやろう、このアリ飼育キット2999円を。
スマホ、ア○ゾンの購入履歴を初音さんに見せる。
「……これ、アリ飼育キット」
「うわ~!」
液晶のソレを見ると、大げさに反応する彼女。
引かれるとそれはそれで辛い。
ただ、アリの飼育はかなり奥が深い。
まず女王アリを捕まえなくてはならないが、それがまず大変だ。
色々方法はあるが……とにかくアリの巣が多い場所を探す事から始めなくてはならない。
「五月だから。結婚飛行って言ってね、交尾が終わった女王アリが地面に下りてくるんだ」
「……はぇ~」
「……」
「その降りてきた女王アリを捕まえてもいいんだけど、巣の中に居る
喋ってて違和感しかなかった。
クラスの女子二人に何を話しているんだろうか。
冷静に考えておかしい人だよこれ。
「アリさんココ居るよ~!!」
「!」
さっきから静かだった、かのんちゃんがアリの行列を見つけて地面に蹲っていた。
……天使かな?(嬉死)。
助けを求める様にそこへ向かう。
見れば、せっせと穴の中にアリ達が餌を運んでいた。
「お……完全にアリの巣だね」
「やったー! ほめてー!」
子供ってのは、本当に素直だと思う。
だからこそ眩しい。
「ありがとう。凄いよかのんちゃんは」
「わー!」
アリの巣を前に、二人で屈んでいると――不意に彼女が立ち上がる。
そして、背中への衝撃。手が首に回っていく。
「おんぶ!」
「えっ」
「ちょ、かのん!」
「あはは~、まあ良いんじゃない?」
「にじいろ!」
「……ど、どうすれば良いでしょうか」
思わず敬語になる。
超絶美少女の妹さんを背中に俺は背負っている。
……立ったまま死ねばいいですか?(弁慶並感)。
「このまま帰っちゃえ~!」
「いやいや駄目よ――って」
「え?」
「あ、かのん、まさか……」
「……すぅ……」
背中。小さな彼女は既に寝息を立てていた。
……マジで?
マジで?
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