陽キャな二人



「……ほら、苺が来たいって言ってたのに!」

「だ、だって」

「直前でチキってんじゃん?」


騒々しいクラブのフロア後方。

そこでは、二人の少女が話していた。


一人は茶髪で、この場所に随分と慣れた様子。

一人は金髪で、見るからにココが初めてといった様子。



「ねー君達今――」

「あ……」

「――いまはナンパお断りでーす☆ ごめんね?」


「マジかよ! 次行くわ!」

「頑張ってね☆」

「おう!」



クラブに彼女達二人が現れて、早十数分。

掛けられた声は10を超えていた。


「もー、何が怖いんだか」

「だっだって」


「お、リオじゃん久しぶり!」

「んっシンジじゃんおひさー!」

「あ……」



行き慣れているのか、さっきから茶髪の少女を知った男が話しかけている。

対して金髪の少女……夢咲苺はただただオドオドするのみ。


ココフロアの後ろに居たらダメなのは分かってるけど)


足が動かない。

彼女は男目的でこの場所に来たのではない。

苺は音楽が好きだった。


特にドラムンベース、テクノ、トランス――そんな電子ミュージック。

それに合わせて踊れる場所に、莉緒りおにお願いして連れて来てもらったのだった。



(……帰ろうかな)



でも――いざ目の前にすると、萎縮してしまう。

当然のことだった。目を覚まさせる様な大音量に、合わせて踊る人々。


この中に入っていく勇気は、大半の者が持ち合わせていない――


「今日暇なの?」

「んーリオちゃん暇じゃないよ~☆ ごめんね?」

「良いじゃんちょっと話そうぜ、ココ居るって事はソレ目的だろ?」


「それもそっか……苺、ちょい行ってくるね。何かあったら連絡してー☆」

「あ……」

「リオが居ると一生ソコに居そうだしー? じゃ頑張って。17時には出口集合ね――」


「ちょ……うう」


行ってしまう二人を尻目に彼女はフロア前方を眺めていた。

そんな時。


「ぇ――」


苺は目を疑う。

気のせいだと思った。

瞼を閉じて、開いても見間違いでは無い。




(東町じゃね? アレ……)




隣席。勉強ばかりして、常に一人。

毎日をつまらなそうに過ごして――突如として髪を虹色にしてきた意味不明のクラスメイト。


それが。

今、フロア前方に居る。



「――――」



ダンスについて、詳しい事なんて分からない。

でも、確かに彼は踊っていた。


地響きの様な重低音のサウンドが、東町の身体と共鳴している。

小さく足を踏み、手を動かす――そんな風景。


金曜日。

挙動不審の様子とは全く異なるそれ。


(アイツ……何であんなに)


気付けば彼女は見つめていた。

まるで朝と夜の様に、何もかも違うはじめの姿を。


ユニコーンの髪色から覗いた、彼の輝くその瞳に――



「――ねっ君、オレの事ずっと見てたけど?」

「……」

「おーい?」

「えっ、な、なに」


しかし。

その視線が災いしたのか――東町のすぐ近くで踊っていた見知らぬ男が近付いてくる。


横にも縦にも長い大男。

全くソレは、彼女のタイプでは無かった。


「?」

「い、いやアタシは――ね、リオ……あ」


「――奢ったげるよリオ」

「あざ☆」


気付けば、茶髪の親友は近くのバーカウンターで飲み物を男に買ってもらっていた。

頼れる仲間がいない。


「――ね。そこのテーブルで話そうぜ」

「いや、だから――」


「恥ずかしがらなくて良いって。ここ初めて?」

「い、いや」


「じゃ――」

「ご、ごめんなさいトイレ行ってくるから!」

「お、おい――チッ」



《――「『トイレ脱出』、変な男に絡まれたらそれ使ってね☆」――》


莉緒の教えてくれた通りに、彼女はそれを実行していた。

ただ、走る。

お手洗いの方向へ。


「はぁ、はぁ……」



(十分ぐらいしたら出よ。それなら大丈夫でしょ……)



しかし。

彼女は気付かない。


今――その女子トイレ前に、先程話しかけてきた男が向かっている事を。



▼作者あとがき

今日は17時頃もう一話投稿します。

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