古の世界
日曜日、朝6時。
豆から
「
なんだこれ。カチカチなんだけど。
あのふわっふわなナンは何だったんだい?
こんなのとアレを一緒の名前で呼ばないでほしいな(心中のインド人の声)。
……まあ最初はこんなもんだ、仕方ない。気を取り直してダンスタイムと行こう。
食後の運動ね。
☆
「……うわぁ」
ダンス入門書にある通り、腰を落としたり脇を開いたり。
身体を引いて前に押し出したり……自分の動きを録画して反省するのがコツとあったので、とりあえず見てみたが。
『陰キャが無理して踊ってる感(最悪)』があって三秒で見るのを止めた。
コレはマズい。本気で練習しないといけない。一応ダンスは人並みに出来ると思ってたけどだめだ。真剣にやるとボロが出る。
「鉄棒もダンスも難しいって……」
机に並べた天然水を一口ずつ飲みながら、反省点をノートに並べる。
こう趣味が多いと、趣味ごとにノートが必要になってしまう。
「……でも、楽しいな」
思わずそう呟いてしまう程に、鉄棒もダンスも楽しかった。
身体を動かす事は、勉強ばっかりしてるせいか勝手にキツいだろうと思っていたけれど。
実際は真逆だ。むしろ好きかもしれない。
それが見苦しいモノだとしても、誰にも見られてないし。
「これは――いろ○す」
目をつむり、選んだペットボトルを滝飲み。
ドヤ顔で呟けば――パッケージには『スズメの雫』。
……利き天然水もコツコツやろう。
□
500:名前:1
ダンスって難しいね
501:名前:恋する名無しさん
そりゃそうだろ
502:名前:恋する名無しさん
最近の高校じゃダンスが必須科目ってマジ?
503:名前:恋する名無しさん
ウチはフォークダンスやらされたな 男子校なのに
504:名前:恋する名無しさん
地獄で草
505:名前:恋する名無しさん
意外と楽しいんだよなコレが カップルも生まれたし
506:名前:恋する名無しさん
?????
507:名前:恋する名無しさん
いっち、早くムーンウォークとか出来る様になって
508:名前:1
頑張ります
あと俺はいろんな愛があって良いと思うぞ
509:名前:1
あ、図書館着きそう 破損本だっけ? どこにあるんだろ
510:名前:恋する名無しさん
図書館か~、中古本売り場とかなら多いんだけどな
511:名前:恋する名無しさん
まあ綺麗に修復されてたりするよね 気付かないレベルで
512:名前:恋する名無しさん
最近の技術は凄いからな
513:名前:恋する名無しさん
やっぱ古書じゃない? もう年期入り過ぎて茶色になってるやつ
514:名前:1
了解 読書ついでに探してみる
515:名前:恋する名無しさん
全く1は土日を読書に費やしてるのに俺達は掲示板に張り付いて……
516:名前:恋する名無しさん
たまには積み上げた文庫本読むか……
517:名前:恋する名無しさん
セールで買った電子書籍本1ページしか読んでねぇwwww
518:名前:恋する名無しさん
たまには執筆するか
□
《――○▲図書館前です――》
アレから。
バスを降りて、その目的地に到着。
市立の大きな図書館だ。
実際ラインナップは豊富で……自習室もあるし、なんならプラネタリウムとかもある。
もちろん図書室自体もデカい。
「……ふう」
とりあえず自習室で勉強を一時間やろう。
そこから読書&落書き探しと破損本探し(?)だ。
世の中には色んな趣味を持つ人がいるんだな。
ただ、正直図書館の本で落書きがあったらそれはそれで困るんだよ。
……見つけ次第職員さんに差し出そう。
☆
「……なんか感じるな」
アレから自習室の机でひたすら自習。
途中から、背中に視線が刺さっていた。
この髪色だし、仕方ないのは分かるんだけど。
それにしてもずっと、同じ方向から――
「気のせいか……」
時計を見れば、もう既に一時間。
図書館の静かな雰囲気もあって、集中度合いが全然違うな。
もうちょっと家が近ければ毎日来たいぐらいなんだけど。
最近は電子書籍とかがあるが、俺は断然『紙の本』派だ。
それに囲まれるこの場所は居心地が良い。
ぼっち陰キャの俺には、本はもはや友達だからね(一方的な愛)。
「あ、これ」
自習机の席を立ち、適当な本を読もうかと散策。
趣味についての本でも良いが、今は何か物語が読みたい気分だった。
そして偶然見つける、その作者の名前。
……昨日見た実写化映画の、原作者の本だった。
「……色々書いてるんだな」
ズラッと並ぶ同じ作者名。
シリーズものもあるが、一冊で完結するものもある――俺はその中の一つを手に取った。
☆
「……」
めちゃくちゃ面白いんだけど。
なにこれ?
カタコト俳優のボイスが一瞬脳内変換されたが、すぐに爆破処理して元に戻した。
衝撃的なラスト50ページも、途中のキャラ同士の友情も。
時間を忘れる程に面白かった。
次コレを映画化する時は、普通に原作そのままで頼むよ。
「……ま、一応古書の方も」
あっという間に一つ
古そうな本だったらページ破れとかはあるかな。
「……!」
歩いていくと、国語の教科書に載っている様な偉人の本があった。
発行年を見ると年号が三つ程昔のモノになっている。
大昔だ。俺は当然生まれてない。むしろ三周ぐらいしてる。
……ちょっと見てみるか。
本棚のすぐ後ろにある、一人用の席。
そこに座りページを捲っていく。
「……」
ほのかに香るアーモンド、バニラを混ぜた様な匂い。白ではなく薄茶色の紙であっても、記している内容は色褪せない。
「あ……」
そして、見つけた。
専用のテープか何かで補修された跡を。
明らかにそこだけは新しい紙に複写されてあると分かるページも。
途中も何度も補修、複写されている場所があった。丁寧に――まるで
内容に目を通しながらそのページを捲っていく。
不思議と、その本の世界に吸い込まれていく。
きっとそれは――コレが生きてきた歴史の重みによるものだ。
内容も勿論だが、きっとその年月もこの深みに貢献している気がする。
「……良かった」
慎重に元の場所にしまい、一息付く。もうこんな時間か。
そろそろクラブに行く準備の為に家に帰らないといけない。
「ん?」
同じ古書の棚。
綺麗に並んだ本の列。その下に一つ異様な本がある。
可哀そうに床に落ちていたそれ。反射的に拾い上げた。
作者名を見れば、これも現代文の教科書に載っている作者のもの。
恐らく雑に戻して落ちたのだろう。全く、元の場所にキッチリ戻す事も出来ないのか? 罰当たり過ぎる。本が泣いてるぞ……。
「……あーあ」
落下したせいか、本の背紙が潰れてしまっている。
まあ良いや……帰るついでに持っていくだけ持って行こう。
☆
「!?」
「あー、どうも……」
受付、職員さんが俺を見て驚く。
もうこの反応慣れちゃったよ。
メンタルトレーニングにこの髪色は最適ですね(レインボー並感)。
「どうか、されました?」
「コレ落ちてたんですけど……背中がやられちゃってて。流石にこのまま戻すのはダメかなと」
「あー……」
「何とかなります? これ」
差し出した本を受け取る職員さん。
よく考えたら、俺が犯人と思われても仕方ないな。
今更遅いけど。
「――うん。これぐらいなら大丈夫です。すぐに治せます、一日あれば元通りですね」
「あ、そうですか……良かった」
「悪化する前に見つけて頂いて助かりましたっ……!」
「いえいえ。それじゃ、お願いします」
頭を下げて、受付を後にする。
今度来た時は――補修された後のソレを見に行こうか。
もし誰かが持って行っていたら、それはそれで嬉しいし。
また一つ小さな楽しみが増えた。
さあクラブだ(覚 悟 未 完 了)。
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