人生で、一番長い二日間
『こんなん出来たって何の意味も無いだろ』
「もう5時か」
起床。
ちなみに家族は全員海外だ。両親は仕事、妹はそれに付いていく形でGO。
だからこの1LDKのマンションには俺一人。
言い換えれば好き放題出来る。
アリを飼育しようが誰にも文句は言われない。
ペットは禁止だが、小鳥とかハムスターとかはOKなんだよね。
だからアリも大丈夫。
まずは鉄棒――そうと決まれば公園へ。
☆
「……ッ、あぶね」
そういえば、横断歩道の白から落ちたら俺は死ぬんだった(???)。
踏み外さないよう慎重に移動。
意外と楽しいなこれ。
☆
近所の公園は、朝五時という事もあり誰も人が居なかった。
そもそもこの場所自体、小学生以来かもしれない。
まず来る理由が無いからな。
春とあって、まだまだ明るいとは言えない空模様。
動きやすい短パンと通気性の良い白シャツに、パーカーを羽織ってここまで来た。
……早朝、1人だけの公園で鉄棒を掴む。
「――っ! うっ!!」
とりあえず逆上がりから。
しかし。
身体が、上がらない。
「はッ、はあ……嘘だろ?」
身体が全く回ってくれない。
そういや俺――この生涯で逆上がり一つ出来なかったんだっけ。
☆
スマホを手に検索。
【逆上がり やり方 コツ】。
やっぱり持つべきはネットだね。
「なるほど……」
流石に俺も四捨五入すれば身長170㎝(必死過ぎ)。
筋力もそこまで衰えてない、と思いたい。
なら後は心の問題か。
逆さまになる事への恐怖心。
確かに言われてみればそうかもしれない。
思い切って、行け!
「ぐぐッ……おふ」
情けない嗚咽を上げて、半分回ってそのまま元に戻る。
……まだまだ。
「趣味は鉄棒です」――なんて言う奴が逆上がり一つ出来ないなら笑い者だ。
6時までは後50分。まだまだ頑張ろう。
☆
思えば、俺は子供の頃からどこか気取っていた気がする。
例えばこの鉄棒。
――『こんなん出来たって何の意味も無いだろ』――
そう達観したフリをして、出来ない自分を正当化して。
『意味のある』勉強だけに打ち込んだ。
……そんな奴、魅力的な訳がないのに。
「――ぐぐっ……」
逆上がりの、この地面を駆け上げる動作ってかなりダサいよな。
それで失敗した時は尚更。
今なら分かる。俺はあの時、単純に恥をかくのが怖かったんだ。
挑戦して、成功するのなんて大概が失敗の後なのに――出来ていた『勉強』だけに打ち込んだ。
だから。
もう遅いかもしれないけど、今から『俺』をやり直したい。
「ぐっ――うおおおっ――!」
へそ当たりに鉄棒を付けて。
そのまま足を思いっきり上げて――後ろに回る!
「……でき、た……」
360度回ったその風景は、何も変わっていないはずなのに。
どこか、世界が変わった様な気がして――
「――あーお兄さん、ちょっと話聞かせてもらえる?」
目の前には紺色と水色の制服。
そしてそこには『POLICE』の文字。
「えっ」
なんといつの間にか警官が居た。
……世界、終わるかもしれない(絶望)。
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