人生で、一番長い二日間

『こんなん出来たって何の意味も無いだろ』



「もう5時か」



起床。

ちなみに家族は全員海外だ。両親は仕事、妹はそれに付いていく形でGO。

だからこの1LDKのマンションには俺一人。


言い換えれば好き放題出来る。

アリを飼育しようが誰にも文句は言われない。

ペットは禁止だが、小鳥とかハムスターとかはOKなんだよね。


だからアリも大丈夫。

まずは鉄棒――そうと決まれば公園へ。




「……ッ、あぶね」



そういえば、横断歩道の白から落ちたら俺は死ぬんだった(???)。

踏み外さないよう慎重に移動。

意外と楽しいなこれ。



近所の公園は、朝五時という事もあり誰も人が居なかった。

そもそもこの場所自体、小学生以来かもしれない。


まず来る理由が無いからな。

春とあって、まだまだ明るいとは言えない空模様。

動きやすい短パンと通気性の良い白シャツに、パーカーを羽織ってここまで来た。


……早朝、1人だけの公園で鉄棒を掴む。



「――っ! うっ!!」



とりあえず逆上がりから。

しかし。

身体が、上がらない。


「はッ、はあ……嘘だろ?」


身体が全く回ってくれない。

そういや俺――この生涯で逆上がり一つ出来なかったんだっけ。



スマホを手に検索。

【逆上がり やり方 コツ】。

やっぱり持つべきはネットだね。


「なるほど……」


流石に俺も四捨五入すれば身長170㎝(必死過ぎ)。

筋力もそこまで衰えてない、と思いたい。


なら後は心の問題か。

逆さまになる事への恐怖心。

確かに言われてみればそうかもしれない。


思い切って、行け!


「ぐぐッ……おふ」


情けない嗚咽を上げて、半分回ってそのまま元に戻る。

……まだまだ。

「趣味は鉄棒です」――なんて言う奴が逆上がり一つ出来ないなら笑い者だ。


6時までは後50分。まだまだ頑張ろう。





思えば、俺は子供の頃からどこか気取っていた気がする。

例えばこの鉄棒。


――『こんなん出来たって何の意味も無いだろ』――


そう達観したフリをして、出来ない自分を正当化して。

『意味のある』勉強だけに打ち込んだ。

……そんな奴、魅力的な訳がないのに。



「――ぐぐっ……」



逆上がりの、この地面を駆け上げる動作ってかなりダサいよな。

それで失敗した時は尚更。


今なら分かる。俺はあの時、単純に恥をかくのが怖かったんだ。

挑戦して、成功するのなんて大概が失敗の後なのに――出来ていた『勉強』だけに打ち込んだ。


だから。

もう遅いかもしれないけど、今から『俺』をやり直したい。



「ぐっ――うおおおっ――!」



へそ当たりに鉄棒を付けて。

そのまま足を思いっきり上げて――後ろに回る!



「……でき、た……」



360度回ったその風景は、何も変わっていないはずなのに。

どこか、世界が変わった様な気がして――




「――あーお兄さん、ちょっと話聞かせてもらえる?」



目の前には紺色と水色の制服。

そしてそこには『POLICE』の文字。


「えっ」


なんといつの間にか警官が居た。


……世界、終わるかもしれない(絶望)。




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