[Pre-Open] 1.6
「ジョージ・ランドとアンソニー・ランド、確かに双子の兄弟だな、兄貴のジョージが港湾クレーンオペレーター、弟のアンソニーがAKS港湾実業高校クレーンオペレーター講師」
「経歴にもお互い駐車違反くらいしか問題ないねえ」
バンとダイナは廊下を歩きながらそれぞれタブレットを操作し、届いた資料を読みながら移動していく。
「しかしお互いに高級セダン買ってきれいに維持してる年収じゃあねえな」
「車が趣味ってわけでもなさそうだけど、登録には問題ないね、ただ購入時にT&Tから出てる購入書類は書式が適当だから、その辺なにかあるかも」
「かもな、でも後回しだ、イシバシさん、2階ね」
金網丸出しの工事現場エレベーター内で作業していた工員にお願いして上へと移動させてもらう二人、揺れながら登るエレベーターはすぐに到着し、お礼を言ってフロアへ歩き出す。
「謎の消えたコンテナ、謎のアホ、謎の講師、謎だらけだな」
「この2人組は分かりやすくて助かったね」
2人はずらりと並んだ取調室へ到着する。
「どっちがどっちやる?」
「んじゃ私サイラスさんやろうか」
「オーライ、んじゃあたしゃ……ええと、ミスター、ロレンスのほうだ」
拳を軽く合わせてそれぞれの部屋へ入る、バンが入った取調室には手錠をかけられた鼠色のスーツ男が憮然として座っていた。
「なんにも喋らないし、そのうち連絡が来て俺は釈放される」
「ワオ、私が来たらいきなり喋り出したし、今のところ連絡はない」
バンに返されさらに押し黙る男、バンは手にしたファイルを見ながら話しを続ける。
「チャールズ・ロレンス、31歳男性、16歳から車両窃盗、18で沿岸防衛隊に、3年後傷害で不名誉除隊、25ときに武装強盗、っていうカバーストーリーか、よくある話だな」
「なんのことかわからないな」
男は無表情な顔を向けるが、バンは苦笑いして心配しないでほしいと伝える。
「うちのボスからあんたがPA(Port Authority. 港湾局)の潜入捜査官って聞いてるだけだ、任務の内容に興味はないし邪魔もしないけど、知りたいのは何であそこに居たかってだけ」
「さっさと解放してくれるのが条件だ」
「店で問題起こさずにおとなしくしてれば良かったんだぜ」
「相棒の要領が悪くてな、すまなかったよ、名前はリオ、公式書類には残してくれるなよ」
ロレンス改めリオは肩を竦める。
「手錠を外してくれ、握手もできないぜ」
「そもそも銃向けなきゃこんなややこしいことにはなってないんだぜシニョーレ?」
バンが手錠の鍵を取り調べ机の上に置くと、リオは手錠をされた手で器用に鍵を動かして一瞬で外し、バンに返した。
「バアちゃんがイタリア人ってだけだ、まあ宜しく」
「優秀な潜入捜査官ってのは嘘じゃなさそうだな」
「優秀かどうかは知らんけど真面目に働いてるぜ、店にだって潜入先の仕事で行ったんだからな」
「差支え無ければ仕事の内容を」
「あらすじだけならな、潜入先はワンカラーズファミリーでとある人間を追ってる、ファミリーより先に確保したい奴が居るんでな、T&Tに行ったのはファミリーの通常業務だ、疑われないように普通の仕事もしてる」
「ええと、潜入した先は不動産関連だったな、地上げにでも行ったのか」
「いや、構成員じゃないが、サイモンはファミリーお抱えの元整備士だ、円満退社で独立した後も、ちょっと前までファミリーの車両整備を依頼してた」
「じゃあ車検の相談にでも?」
「あのアホ、ブライアン・タニが出資して共同経営者になってからコストの関係でうちの委託は切られてる、それだけならサイモンの判断を尊重したんだが……」
「タニ自体に問題があったと」
「ああ、どうやらソルティズと繋がってるらしい、しかも最近あそこの地域にソルティズがちょっかい出してきてるから、警告のために行った」
「ソルティズ? アリゲーターギャングの?」
「そうさ、最近無理やり支配地域を広げてきてるからよ、いろんな店と業務提携して歯止めをさ」
「地域の店に援助して地盤固め、古風だな」
「古風なのは奴らさ、麻薬と金、それで駄目なら力づく、せっかく俺達が復興した町が滅茶苦茶になっちまう」
「まあ、復興してるのは地域住民の皆様と政府だ、ファミリーやギャングじゃない、ちょっと毒されてきてないか?」
バンはリオに不審な目を向けるが、リオは心外だとでも言うように手を広げた。
「まさか!ファミリーがやってることは分かってる」
「まあいい、うちには関係ないが、危ない橋の向こうに渡るなよ、渡っちまったのを何人も見た」
「俺もだ、線引きはしてる」
「じゃあいいや、ついでにこの二人見たことあるか?」
ロレンスに二枚目の写真を見せる、ランド兄弟の写真だ。
「見たことはあるな、名前は知らない」
「店でか?」
「店でだ、会社が車を引き揚げた後も、個人的に車の整備を頼んでたからちょくちょく店には言っていた、トレヴァーはアホの客だと言っていたが、良い車にのってたな」
「じゃあ結構な頻度で店で見るってことか」
「ああ、最後に見たのは先週だ、車検に出してた車を回収しに行ったらモメてた」
「車のことで?」
「そこまでは聞いてないが、アホが借りはきちんと返せって怒鳴ってたよ」
「借りか、なんか他には?」
「さすがにそれ以上はな、なあもういいだろ、そろそろ戻らないと今の上司に怪しまれる、結構怖いんだ、PAの上司よりも怖いくらいだ」
「十分かどうかはこっちが決めるんだが、ラッキーだな、もう十分みたいだ」
身を乗り出して抗議するロレンスだが、バンはタブレットに届いたダイナからのメッセージを見て返答する。
「今回は何も罪にはならないけど、今後銃を向ける相手はよく確認した方がいいぜ」
「そうか、よかった、全くそうすることにするよ、ほんと申し訳なかった、焦っててさ」
「気にするな、それより……もう不動産屋のお迎えが来てるみたいだぞ、イかした髪色に白スーツのオニーさんだ、ニコニコしてたぞ、いい上司だな?」
「……」
完全に硬直するリオ。
「帰りに地下の保管所で銃を返してもらえ、交換チケットはコレな、忘れるなよ」
バンはリオの胸ポケットに印刷されたチケットを押し込み、冷や汗を滝のように流すリオを残して部屋を出る。
「おう、そっちはどうだった」
「あー、まあ、似たような感じ」
部屋を出るとダイナが居てバンの居た取調室を覗き込み、リオの様子を見るとクスクス笑う。
「よほど上司が怖いと見える」
「これだけ耳と行動の早い上司だ、まあ気持ちはわかるがな」
コーヒーを飲みながら電話を二つ持ち忙しそうにしている柴田を見る、視線に気が付き笑顔で手を振る柴田を無視して喫茶ラウンジに向かった。
「とりあえずこっちはあの双子先生がT&Tと繋がりがあることは分かった、どっちがどっちかは分からんが、あのアホに弱みを握られてるってことくらいだな」
「こっちはね、タニがソルティズと繋がって盗難車ビジネスやってるかもってことくらいかな」
2人はラウンジに向かいつつ情報をすり合わせていく。
「成程、それならタニを保釈したのはソルティズの可能性が高いな」
「だね、タニが葉っぱを持ってたし、管理してるのがソルティズかな」
「もしくはタニがコンテナの中身を持ってて、ソルティズが買いたがってるのかもしれん」
2人はドリンクサーバーから風味の薄いラテを入れてうーんと唸る。
「いや、コンテナの中身がソルティズのもんならタニ程度のアホは要らないよな」
「それもそうだね、だとすると中身はタニが知ってる、んでそのタニはコンテナ港の関係者二人と知り合いだし貸しもある」
「とりあえずタニをもう一回引っ張るのが一番早そうだけど手がかりがない」
「ランド兄弟の方から当たるしかなさそうだね」
「私らは改めてジョージに会いに行こう」
「アンソニーは三人にお願いしようか」
決まれば早い、2二人はゴミ箱に紙コップを投げ込むと車両基地へと歩き出す。
「今度は壁と屋根のある車にしよう」
「ジュンが幌直してくれてるさ、多分」
◇◇◇◇
校舎から学生が吐き出されてくる、仲良し達と今日あったことを話しながらそれぞれの家路につく、買い食いする学生もいるだろう、今が23時という時刻を除けば普通の学校と変わらない。
「こんな時間に皆元気だねー」
ハンヴィーの上面ハッチから顔を出し、ニコニコと学生達を眺めるギン。
「よぉくがんばるよほんと」
カヤは運転席であくびをし、体を伸ばし、助手席ですやすやと寝ているメイを口笛で起こす。
「んー……もう時間?」
メイはしょぼしょぼした目を擦り回りを確認する、星が綺麗な港は24時間騒がしい。
「もう時間だよ、先生に話を聞きに行こう」
「でもなんて言って学校に入る? 正直に捜査だって言う?」
「そしたらおいおい港湾局の耳に入っちゃうんでしょ?」
「Heyがーるず、入らなくても良さそうだよ」
ハッチから車体をぺしぺし叩いてギンが下の2人に注意を促す、AKS港湾実業高校の入口からはガタイのいいスーツを着た黒人の男性が生徒と談笑している。
「行こう」
「いってらっしゃー、私は報告書書きながらお留守番しとくよー」
カヤとメイは車を降りると黒人の男性へ近づく、男性は2人に気が付くと話していた生徒を下がらせ、明らかな警戒を見せた。
「君らは?」
「CSISです、アンソニー・ランドさんですね?」
「あ、ああ、俺だ、でもちょっと待ってくれよな」
カヤがバッヂを見せると男性、アンソニーは1,2拍置いてから生徒を帰るように促した。
「場所を変えましょうか?」
「いや、別にやましいことをした覚えはねえ、何の用事だい?」
「お尋ねしたいことが幾つかありまして」
カヤは手帳を取り出して何枚かめくる。
「若いのに古風なメモだ、俺ぁ好きだねそういうの」
「どうも、なんとなく落ち着くんですよ、さてミスタアンソニー、簡単な質問から、お仕事は講師ですよね」
「ああ、クレーンオペレーターの夜間講師だ」
「今日は何時頃からお仕事を?」
「17時から来てるぜ、18時からの授業があったからね」
「お車での通勤ですよね、車はあちらですか」
カヤが駐車場に止められた白い高級セダンを指すとアンソニーは頷いた。
「T&Tでお車を購入されてますね、いい車だ、私らの月給では何年かかるやら」
いきなりの質問にジョージはむっとしながらも、気に入って探して貰ったんだと答えた。
「車に詳しいわけじゃねえけどよ、3月前に見てひとめぼれってやつだ、乗り心地もいい、気に入ってるよ」
「購入の依頼はタニに?」
「そうだ、いい人間とはいえないけど、ディーラーとしての腕は確かだ」
「ディーラーの腕以外には問題が?」
「自信過剰だし、独善的で傲慢だ、あと人の話を聞いちゃいない」
「噂は聞いてます、何かトラブルは?」
「特には、あー、いや、俺には、その、兄貴が居る、兄貴と同じ車を揃えたんだが、兄はタニとはソリが合わなくて、車の整備に行くといつも言い合いになってたよ、その程度かな」
「成程、タニを探してるんですが、最近接触は?」
「車を購入してからは月に一度の整備でT&Tに行ってる、先月の末が最後だな」
「2週間前の、土曜日ですね、質問は以上です、もしタニから連絡があったりしたらCSISまでご連絡を」
「タニが何かしたのか?」
怪しむように尋ねるアンソニーにカヤとメイは、捜査中なので申し訳ありませんと断り、ご協力どうもとその場を離れた。
「なんか2人から聞いた話とちがうなあ」
『昼間荒れてたらしい人間とは別人に見えますねえ』
カヤとメイが車に戻るとハッチからギンが、車内からは据え付けのタブレットで柴田が顎に手をやる同じポーズで待っていた。
「嘘ついてたのも気になるね」
「バン達がここでブチ切れジョージを見たのが14時過ぎだっけ? 3時間もズレてる」
『一番色商店街の下っ端が見た日からもズレてますね、タニとも繋がりがありますし、ソルティズとも関係が……』
「はい質問!」
皆の考察を遮りメイが車内で手を上げる。
「新参の私は皆のお話に出てくる組織がわからない!」
『あなたね……』
珍しく眉をひそめて柴田が画面の中からメイを睨む。
『資料渡したでしょう、曲がりなりにも治安機関に所属してるんですからきちんと目を通してですね……』
「一昨日貰った紙の資料なのはわかるけど、あんな大量なの短期間じゃ無理!」
「わかったわかった、説明してあげるから」
カヤがなだめるようにメイの頭をわしゃわしゃ撫でる。
「とりあえずなんたら商店街から! 商店街が犯罪組織なの?」
メイはカヤの腕を掴んでやめさせると丁度タブレットに表示されていた【一番色商店街】の項目を指で示す。
「一番色商店街、通称ワンカラーズファミリー、第一次沿岸防衛戦争は準備が整わなくて結構内陸までクソ機械共が押し寄せたのは知ってるね」
「私はその時は山梨に居たから聞いただけだけど……」
「戦力が圧倒的に足りなかったから、地元民にも志願者には武器をばら撒いて防衛線を張った、消防団、自警団、商店街、大抵は逃亡したり、連携が取れずにすりつぶされたり」
「この一番色商店街も?」
「いや、元々手練れが多かった商店街だった、元軍人、元犯罪者、そういう町の商店街だったから組織的に抵抗、でもクソ機械の降下艇がたまたま商店街を直撃、クレーターになって海の底に消えた」
「じゃあなんで犯罪組織に」
「彼らの戦闘団はたまたまその時他の防衛線へ支援に出てた、彼らはまだ後悔の中に居るらしい、贖罪のようにあらゆる防衛戦に傭兵として参加して、あらゆる防衛戦線に支援してたら、今じゃ裏物資の物流を牛耳る勢力になっちゃったって訳」
「悲しいだ、んじゃソルティズは?」
『引き継ぎましょう』
タブレットの中から柴田が引き継ぐ、顔のサイズが縮小され、タブレットには誰かのタトゥーが表示された。
「ワニのタトゥー?」
『正確にはクロコダイルのイリエワニ、額にSが入ったデカい人食いワニがトレードマークのギャング団です』
「凶悪集団?」
『昔はそんなに、最近は急に勢力を拡大、中央政府からもギャング認定されました、第三次渥美半島防衛戦に投入されたFカテゴリの囚人が中心の集団です。』
「日本人じゃない犯罪者が中心なの? 珍しいね」
『度重なる消耗に、最終手段として外国で軍務経験のある受刑者に限定して、刑期短縮、保釈が条件で投入されました』
「んじゃ逃亡兵集団ってこと?」
『いえ、逃げることも難しい戦闘でしたから……、正規に生き残った者がほとんどで、結束も強いみたいですね、防衛戦後に生き残りは寄り合い世帯に、まあそのあと順当に犯罪集団になるんですが。』
「んで一番色商店街とは仲が悪いと」
『過去何かあったらしいですが詳細は不明、あとミスタサイモンに聞いたところ、やはり個人的にも昔からワンカラーズとは付き合いがあったみたいですね、あの店は最近丁度ワンカラーズとソルティズの境界線になってしまったと』
「あれだけ広い土地だし車両基地みたいなガレージもある、防衛にも攻勢にも基地としてはいいチョイスね」
カヤが手持ちのタブレットに地図を展開し、ワンカラーズとソルティズの勢力図を重ねる、T&Tは丁度真ん中、境界線上に位置していた。
「ほうほう、ほうほうほう、なるほどなるほどなるほど」
ギンはハッチから全くわかってない顔で機械的に頷いている、カヤは苦笑いしながらタブレットに情報を纏めていく。
「まずソルティズが勢力を拡大中」
タブレットにカヤが建物を食べるカトゥーン調のワニを描く。
「おぉ、わかりやすい」
『以外な才能がありますね』
ギンがやっと興味を持ち、柴田が褒める、カヤはふふんと自慢げに鼻を鳴らし続きを描く。
「でも一番美味しそうなお店は敵が持ってる」
建物を齧ったサメの歯が割れて涙を流す。
「でもラッキー、店にはアホが居て、しかも葉っぱを捌きたいと来た、店も葉っぱも手に入れて一石二鳥」
もじゃもじゃの葉っぱを食べたサメは巨大化、建物は震えだした。
「仮説だけどね」
「わかった!」
『概ねそんなところでしょう、タニがどうやってコンテナと中身を入手したかはまだ分からないですけどね、おや?』
画面の中、柴田の後ろで何かのブザーが鳴る。
『おっとこれは不味い、そこから反対側にある例のコンテナが移動中ですね』
「直ぐ移動するね」
『お願いします、バンさん達も向かってる筈ですが到着の報告すらまだありません』
「急ごう」
「急げる車じゃないけどねー」
「伊勢湾岸道路も未だ復興ならず、現地までは大回りして20分くらいかな」
カヤがエンジンをかけ直しドアを閉める、ギンはハッチを閉めながら急げる車ほしいよーとディスプレイの柴田へ言葉を向ける。
『一応検討中ではあるので、出来ればさっさと現地に向かってください、可能であれば移動の阻止を』
「「「はーい」」」
『だれも間に合うとは思ってなさそうですね……』
真夜中の埠頭を走り出す、誰も走ってないし、緊急車両を示す赤と青の点滅灯もついている、アクセルはベタ踏みだ、それでも3人を乗せたハンヴィーのスピードメーターは100キロから先へは決して進まなかった。
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