[Pre-Open] 1.3
上空から見ると半島につながる赤子のような形状の人工島、民間のハブ空港として使用されていた人工島を接収、埋め立てを繰り返し滑走路を増設、港湾施設を設置、本土側からの橋を強化した共同軍の軍用空港として運用されている、正式名前は「共同軍中部第3空軍基地」、通称「ソラジマ」。
かつては空軍の打撃飛行隊と制空飛行隊が在籍するガチガチの対侵略機械相手の前線基地だったが、形だけとなった戦線が太平洋の遠くに押し込まれた今、復興の為に各地から輸送機が連日飛来する補給基地としての性格が強くなった。
とはいえ空母の訓練部隊も在籍している為、曜日と時間を選ばず騒音が支配する土地だ、今も訓練なのか2機のスーパーホーネット戦闘攻撃機が同じく2機のF-47A戦闘機を引き連れて離陸していく、後方の2機ははコクピットが無い無尾翼の無人機だ。
「無人機だー、前に付いてくひな鳥みたい」
「ぴよぴよ」
「最近のAIは気軽に会話もできるらしいからねえ」
地面から浮いたスーパーホーネットが機首を起こし、上昇しつつ旋回し洋上へ抜けていく、後続するF-47Aも同じ機動で追随して空へ消えていった。
「うちの本部にも補佐系のAI入れてほしいなー」
「そのためにはまず電算室入れた自前の管理施設作らないと」
「場所もお金もコネも無いですねぇー」
メイ、アリス、カヤの三人が無い無い無いと騒ぎながら暫く走ると、基地の入口、警衛所で事前に聞いていた基地の端にある倉庫へたどり着く。
元々大型航空機の格納庫だったと思われるかまぼこ状の建物へ車を寄せる、入り口の歩哨に尋ねると、建物の裏手で廃棄品と保管品に分ける作業中だから向こうに回ってくれと案内される。
倉庫は小型の自動カートが走り回る自動倉庫になっているようだ、トラックや自走ドーリーに荷物を載せたり下ろしたりしているのを横目に巨大な倉庫の裏手に回る。
「わぁ、急に埃くさいね」
ギンが鼻を鳴らす、巨大なカマボコ倉庫の裏には赤い屋根が連なるこれまた巨大な年季の入った鉄筋コンクリート建築の倉庫がそびえる、さらにその奥、小さな波止場になっている場所には段ボールと軍用のハードコンテナが乱雑に、しかも大量に並べられていた。
「クソでかフリーマーケットって感じね、ぶっそうなのも見えるけど」
カヤが車を端へ停めようとするが、近くに居た共同軍の兵士が受付を先にしてください、と建物前に置かれた白い天幕テントを示す。
案内に従いテントの傍に車を止め、降りるとバインダー片手に共同軍の制服を着た中年の女性が駆け寄ってきた。
「リサ・ヴィッカーズ伍長です、連絡のあったCSISのヒトだね?」
「CSISのカヤとギン、メイの三人でーす、払い下げ品の直接引き取りに来ました」
カヤが警衛所で発行された通行タグを渡し、CSISのバッジを提示する。
「かわいい子達で私も楽しいわ、それでご入用なのは何かしら?」
「私も綺麗なおねーさんの案内でうれしいね、軽量のプレートキャリアとマガジンポーチ、あとはAR系の程度の良い銃がそれぞれたくさん」
「重火器とかあったらいいなあ、あとヘリとか」
「あとなんか面白い物!」
三者三様に主張を行うが、リサは手慣れたようにわかったわかったと制し、それぞれを示す。
「重火器はあっち、おさわり厳禁、ヘリはあっち、これも見るだけ、面白いものはあっち」
「「わーい」」
メイとギンは示された方向へふらふらお上りさんのように行ってしまう。
「話の分かりそうなアナタは目録見ながらお話しましょうか」
「んじゃそれで」
カヤは目録の表示された大型のタブレットを渡され、装備系はこっちと歩き出すリサの後に続いた。
◇◇◇◇◇◇
「軽量系のプレートキャリアは黒ばっかりかー」
「色で言えばレンジャーグリーンとかは警察が纏めて持って行ってしまったわ、黒ならまとめて用意できる、ポーチ類も各種あるわ、あとは古いマルチカムのリグかしらね」
まー黒でもいいかーとカヤはデッドストックリストに片っ端からチェックを入れていく、天幕テントの中は日差しで暖められてはいたが、時折吹く秋風が良い換気になり涼やかだ。
「てっぽー部品も古いM4系ばっかりかな、これはこっちが助かるけど」
「SIGなんかの新しめの銃はまだ無いし、それ以外はそもそも用途廃止リストには無いから、あくまで一山幾らのジャンクパーツ扱いね」
リサは二人分用意したコーヒーの片方を啜り、そもそも今回の在庫整理はデッドストックの廃棄が目的なだけと続けた。
「ああ、防寒具もあるね、これは助かる」
各サイズの防寒ジャケットにチェックを入れていく、CSISって正式装備がまだなんにもないからと呟き、カヤも用意されたコーヒーを啜る、チープな味だが思考を邪魔するものではなく、今の状態には丁度良かった。
「重火器なんかは緊急時に供給うけるから、とりあえずこんなものかな」
「じゃああとは決定権がある人にサインを貰って頂戴、それで契約が成立するから、データ飛ばしてくれれば回収の準備はしておくわ」
「うん、うちの誰かがトラックで回収しに来ると思う、でも目録もう少し見せてもらっていい?」
「もちろん、なにか気になるものがあったかしら?」
カヤはうーんと唸りながら「vehicle」の項目を眺めていく、あの二人だけではなく自分だって航空機材は必要だと思っているので一応目を通しておこうと思ったのだ。
「あー、ヘリとか近接支援用の多用途機はほとんど無いわね、多用途機は港湾部、ヘリはそもそも引く手数多で全然ないわね」
反対側から覗き込んできたリサは申し訳なさそうな声を上げる。
売約済みのチェックが躍る欄に時折空きがあるが、ビジネス機ベースの軽輸送機が殆どで想定される用途に合致するものはほとんど無い、C-41やらC-130なんかは大きすぎるし、SR20は練習機にしかならないだろう、T-6Bを見つけたが、四国の野戦飛行場にある放置機体で直接引き取り前提だった。
「小牧まで行ってジャンク屋に当たるしかないか……お?」
以前柴田が呟いていた最終手段に思いを馳せたところで、AT-802Uという見慣れない機体の項目を見つける、監視、偵察、軽攻撃に使える低空で機動性の高い小さな機体、乗員2名、搭載量も十分、予備機材アリ、これだ。
「ラッキー、リサ、これアポ取りおねがいしまーす」
「はーい、向こうには連絡先伝えておくからあとはソッチで進めてね」
この時カヤはタブレットに表示されていた項目を読むべきだったかもしれない、リサも一応向こうの連絡先をカヤに伝えておけば良かったかもしれない。
「カヤしゃんー、大漁―」
大漁にナイロンギアの入った自分より大きな樹脂コンテナを、ずりずりと引きずってきたギンに気を取られたかもしれない。
「た、大量だけどこんなに車に乗らない……!」
同じようにがしゃがしゃとジャンク扱いのライフルが大漁に入った樹脂コンテナを、ギンと同じように引きずってきたメイに、貰いすぎだと注意しに行ったのが良くなかったかもしれない。
「あんたら遠慮と程度ってもんを知らないの」
「でもくれるっていうし!」
「でもサインしちゃったし!」
そして、えへへーと笑う二人の頬を掴んでタコ口にしながら説教にかかるカヤは、後日自分に降りかかる事態へ事前に気が付くタイミングを失った。
「元気ねー」
リサは微笑ましくその様子を見ながらカヤがチェックを入れた機体の引き取り先へメールを送る、何度もやり取りをしているのかコピペでテンプレートを貼り付け、カヤから先ほど貰ったメールアドレスだけを変えて送信する。
To:NorthAYAGANE-University-AI-lad.ac.jp、タイトル:受け入れ先が見つかりました。
「今度は上手くいくかしら」
送信から5秒かからず”ok! :))) ”とだけ帰ってきた文面を見てリサはため息をついた。
◇◇◇◇◇◇
「やったー、よくわからんPACAっぽいアーマーからおさらばだー」
「よくわからん使い古しの腰装備ともおさらばだー」
後部座席の二人がわーいと子供のようにはしゃいでるのがミラー越しに見える、さらにその先には満載の荷物、一人運転しているカヤはため息を吐いて、無駄とは知りつつ警告はしておく。
「自分用にまだ調整してないでしょ、今日のところはまだよくわからんのにしときなさい」
「「はーい」」
「幼稚園やってるんじゃないんだし、そろそろ着くよ」
低く古いビルが並ぶ地域の端、工場地帯との境界線にある下品なネオンが光る車両販売店が見えてくる、少し離れた路地に車を止め、3人は車から降りた。
「あれ、おギン何時ものウージーは?」
腕章をつけ、装備をチェックするギン、制服のスカート下、スパッツを履いた上、腰から下げたグロック19を抜き、確認するのを見てメイが声をかける。
「ばーちゃが必要だろうってこの前くれたの」
ギンはウージーは車に積んでると後部座席に置いたバッグを示す。
「レンさんもギンには過保護ねー」
「でもカッコいいよね、私もあんな感じに歳取るんだー」
三人が思い浮かべるのは白髪ロングをポニーテールにまとめた壮年の美女だ、カフェレストラン「好きっ腹」を取りまとめる地域の顔役は皆の憧れでもある。
「あんたが?無理無理」
カヤはメイの妄想を一刀で切り捨てて自分の準備を進める、腰裏のM9A1、手提げのスクールバッグに見えるIIIAクラスの防弾カバンにはテイザー銃と伸縮警棒がセットされている。
「そりゃ私は身長も無いけどさ、憧れて努力する分にはいいんじゃないの?」
切り捨てられぶーたれるメイはセーラー服を少しまくり上げ、へそ下に装備されたSIG228を確かめる。
「メーちゃんいつも気になってたけど、それおへそ出す服着るときどうするの」
「乙女だから着ない」
「乙女だー」
ギンの問いにシンプルな回答をしつつ、弾薬の装填を確認し元に戻し、辺りを見回すメイ。
「どう見ても違法占拠だけど、まあこんなとこで苦情は出ないか」
三人の視線の先には“ガレージ T&T”と雑に書かれた看板が掲げられている、広い駐車場と点在するコンテナ、整備用の大型ガレージ、おまけに隣の空き地も勝手に使用しているので広さはそれなりなようだ。
三人はてくてくと車の間を歩いて奥にあるコンビニのような店舗に近づく、安い車は野ざらしだが、良い車は敷地に並べたコンテナをガレージがわりにして展示しており、コンテナはそれぞれ側面が切り抜かれていて中々洒落た展示方法だ。
「お店の規模もおっきいし、ただのアホって感じはしないね」
「T&Tって書いてあったし、もう一人のTがやり手なんじゃない?」
最奥にある開放的なガラス張りの平屋な建物、ここが受付兼商談スペースになっているようだ、しかし誰も居らず入り口には雑に内側からcloseの札が下がっている。
「気配はあるね」
営業はしているはずだが誰もいない、古いブルースが流れている室内、奥を覗くとスタッフルームで人影が動いた。
「休憩時間には中途半端すぎるねえ、メイ、裏頼める?」
「はいよ、無線は入れとく」
メイは返事と同時に裏口へ回るために小走りに駆けだす。
「押し入った形跡はないけど、スタッフが居ないのは、ちと不味いかな」
「とりあえずはノックノックだね」
呼び鈴も見つからない為ギンは入口のガラス戸をバシバシ叩く、すると店の奥で何人かが蠢く気配が強くなり、黒いスーツの男が顔を出した。
「CSISです、ちょっと話が聞きたいんだけど」
細面で眼鏡をかけた縦縞スーツの男はカヤがガラス戸に押し付けたバッジを見る。
「……」
少し待てという意味だろうか、手のひらを軽くこちらに向けて男は奥へ下がった。
「開くと思う?」
「スキパラのコーヒーチケット賭けてもいいけど、開かないかなー」
そうギンが言い終える前に建物裏手からCSIS!と宣言する声が響き、銃声が続く。
「「Fu●●!」」
2人はハモりながら警棒のガラスブレイカーで入口ガラスを破壊し突入した。
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