第6話 恋の応援者
「なんだもう両思いではないか」
クスクスと笑うグウィエンにエリックはため息をついた。
「グウィエンの国でも、婚約者のいる者が未婚の女性に近づくのはよしとしないだろう、この国では尚更だ。だから慎重に事を進めなければいけなかった」
エリックは決意をし、レナンに向き直る。
「レナン嬢。この馬鹿が言ってしまったからきちんと伝えるが、俺は君が好きだ。カレン嬢と一緒になるつもりはない。父が勝手に決めた婚約で、俺は彼女を好きではない。先程の挨拶でもわかったと思うが、彼女は異国語の勉強もしていないし、王太子妃教育も受けてない。将来国母になるための必要な事をしていないというのは、彼女が王妃になることはないということだ。彼女を切り捨てる話は既に出ている。
レナン嬢は王太子妃候補に上がっている…いや、もう決定だ。君の父上とも話をした」
驚きに目を見開いた。まさか父にまで話が伝わっているとは。
「この馬鹿王子のせいで、こんな場所で伝えることになってしまってすまない。本来ならきちんと場を作ろうと思っていたが、誤魔化せば君からの信用を失ってしまうと思い、今伝えてしまった」
グウィエンを睨みつけるが、彼に悪びれた様子はない。
「だが、まだカレンとの婚約が解消されていない。それまで待っていてほしい。だいぶ回りくどくしてしまったが…」
深呼吸をする。
「愛している、レナン。俺が迎えに行くまで待っていて欲しい。他に婚約者を迎えないでくれ」
展開が早くて何が何だかわからない。
だが、エリックが自分を王太子妃にと望んでいるのがわかった。
本当なのかと疑ってしまうが、その心を見透かされたように援護が入る。
「エリックの言ってることだが、このシェスタ国第一王子グウィエンが保証する。レナン嬢は王妃に相応しい逸材だ。自信をもて」
何かあれば俺が味方しよう、と胸を張っていた。
「ありがとうございます…」
「それで、返事は?」
エリックがそう促すと、ニコラが駆け足で寄ってくる。
レナンは魔力を解除し、グウィエンがエリックとレナンの間に入り込む。
エリックは再び手袋をつけた。
三人共何食わぬ顔でニコラを待つ。
「カレン様がいらっしゃいます、かなりお怒りですね。あぁ、レナン様とのやり取りは見ていないはずなので、一人にされた事に対してのお怒りです」
そう言うと、少ししてカレンがドスドスと大股で来た。
不機嫌を隠しもしない失礼な態度に、各国の生徒も眉をひそめている。
「エリック様、なぜ私のところに来て頂けませんの?!私、ずっとお待ちしていたのですが!」
「交流会ですのでご、自由に話をしてもらって良かったのですよ。せっかくの機会、カレン嬢は気になる国とかございませんか?」
「宝石の原石が有名なパレス国が気になりますが、私一人では言葉もまだ難しいのです。エリック様がいないと、無理ですわ」
エリックの腕に縋ろうとしたが、すっとエリックが一歩身を引いた。
「そうそう、こちら紹介がまだでしたね、俺の友人のグウィエンです」
『シェスタ国の第一王子、グウィエン=ドゥ=マルシェです。お見知りおきを』
ゆっくりと聞き取りやすいスピードで話すが、カレンには聞き取れないようだ。
『それでは、こちらではどうでしょう?』
セラフィム語、ナ・バーク語、パレス語など、あらゆる国の言葉で挨拶をする。
挨拶だけならカレンも聞き取れるがいざ言われると次の言葉が紡げないようだ。
会話になるような語彙力もない。
「まさか交流会なのに、自国語しか話せないと?」
グウィエンはあからさまに侮蔑の目を向ける。
カレンの顔が耳まで赤くなった。
「わ、私は王妃として身を飾ることで、自国を守るのが努めなのです。他国の言葉は専門の者をつければよいのです」
「それでは国賓と大事な話が出来ないではありませんか。全てを通訳に任し、万が一不備があった場合や、内密の話をする時、どうするおつもりですか」
流暢なアドガルム語を話し、グウィエンは呆れてしまう。
「こちらの令嬢とて三ヶ国語を話されるのですよ。他国の者ですが、王太子妃となる令嬢が無知とは恥ずかしい」
引き合いに出されたレナンは身体を縮こませる。
『大丈夫、堂々としてて』
セラフィム語でそう言われ、胸を張った。
「誰かセラフィム語やナ・バーク語を話せるものはいるか?こちらのレナン嬢と会話をしてほしい」
すっと手を上げ、一人の女性が前に出る。
『私の言葉、わかりますか』
『はい、もちろん。セラフィム語ですね。聞き取りやすくとてもわかりやすくして頂きありがとうございます。そのストールは伝統の染め物ですよね。リコの実の色でとてもお似合いです』
『私の国の特産品もわかるのですね!』
女性は嬉しそうにしている。
『私はナ・バークから来たのですが、俺の国がどういうところかわかりますか?』
『とても寒い地域ですよね。実はあなたの国の作物に興味あります。わたくしの故郷では数年に一度冷害があります。寒さに強い作物の作り方を是非教えてください』
『勉強してくれてるのは嬉しいな。今度国から種を持ってきてあげよう。そちらの作物も気になるな』
にこやかに会話が進み、レナンの語学力に問題がないとわかる。
語学だけではなく文化にも触れる会話は、その国を知ろうとしているに他ならない。
「エリック殿下、俺はあなたが聡明な人と知っているが、婚約者選びは間違えたのでは?こちらの女性の方が望ましいと思いますよ」
他国の第一王子の婚約者に対し、ズケズケと物を言うグウィエンは怖いもの知らずだ。
「そう言われては返す言葉がない」
「エリック様?!」
庇ってくれると思ったエリックは、苦笑しながら諭すように話す。
「婚約者となり、三年。俺は王太子妃教育を受けてほしいと再三伝えたはずだ。
忙しさと学業を理由にそれを疎かにした。俺の婚約者として行うべき慈善活動も、語学の勉強も全くやっていませんよね?本日の挨拶は我が国の恥をさらしたものだった、今もそうだ」
残念そうに沈痛な表情をつくる。
「俺の婚約者ならば他国との交流も必須、そして覚える国の言葉はより多くなる。
一朝一夕で身に付くものではないが、カレン嬢はこの三年、何をしていたのですか?」
カレンは押し黙ってしまうが、エリックは言葉を続ける。
「俺の婚約者とは聞いて呆れます。此度の交流会は突然開かれましたが、将来有望な若者達の留学を今後増やすためのものでした。栄えある交流会で、王太子となる俺の婚約者がそんなに不甲斐ないとは…情けないです」
ふぅっとため息をつき、皆に謝罪をした。
「せっかくの交流会を台無しにしてしまい、申し訳ない。未来の王妃を軽くお披露目しようと思ったが、彼女は俺が思うより残念な人だった。お詫びに婚約解消も念頭におくと約束するよ」
「そ、そんな!」
「ただの交流会ではない。ここにいるのは俺やグウィエンのように国を背負って立つものばかりだ。言葉がわからぬのなら死ぬ気で勉強するべきだったのだ。
次の国母がそんな努力を怠るものだと思われては、国交にも影響が出る」
冷たく突き放す声。
「会場から去れ、お前のような者はここに相応しくない」
衛兵達にに促され、カレンはすごすごと会場を後にする。
最後にギッとレナンを睨みつけていた。
「次は是非シェスタ語を覚えてくれ。俺の国も案内したい」
「ありがとうございます、グウィエン様」
話が終わったと見て、先程の参加者が話しに来る。
『先程の話をしよう。君は農業に興味があるんだね』
『はい!故郷の作物なのですが…』
その後はそれぞれ交流を深め、無事に交流会を終えることができた。
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