第5話 恋は力づくで

「本日はお日柄も良く、皆様に至ってはお元気そうで…」

たくさんの異国の者がいる中、カレンはたどたどしい挨拶をした。


本日は異文化交流の名の下にエリックやカレン、そしてレナン達数名の留学希望者が席についていた。


様々な国の優秀な若者が集っているため、あちらこちらで議論を交わしている。


言葉も多種多様過ぎて、カレンにはさっぱりわからない。


「急で悪いのだが、将来の王王太子妃候補として出席してほしい。教育はもう始めてるだろう?複数の国から人が来るから、失礼ではない挨拶をお願いするよ」


エリックに言われ、急いで家庭教師をつけ、簡単な挨拶だけ覚えた。


忙しいを理由に王太子妃教育をサボっていたため、覚えるのに四苦八苦する。


簡単な会話だけではついていけず、何を言ってるかもわからない。


周りが交流をしている中、カレンは一人だった。





「もう、エリック様は気が利かないんだから」


一人会場の隅っこにおり、カレンはぼやいた。

エリックどころか誰も来てくれず、軽食ばかり摘んでいる。




その頃エリックはレナンを伴い、他の生徒との交流を図っていた。

まだ語学勉強の途中であるレナンの補助をしつつ、各地の農業に興味があること、留学を希望していると話す。


メモを取り、また自国の産業の説明を懸命に話す彼女は意欲的である。


他の生徒もそれぞれ留学希望先の生徒と、賢明に話していた。


「あの、エリック様。カレン様はよろしいのですか?」

隅の方で明らかに不機嫌な表情をしているカレンに、話しかけようとするものはいなかった。


そもそも、貴族たるもの感情を表に出してはいけないと教えがあるのだが、それすらも守れていない。


無作法で、しかもあんな顔をしていたら誰も近寄りたくはない。


「レナン嬢が気にすることはない。俺の婚約者であれば、自ら進んで交流を持とうとしてもらわないと困る。例え語学が充分じゃなくても、誠意があれば伝わるはずだ」


レナンの手を引き、次は誰と話すか考える。


今は手袋を外しているので、直接温もりを感じられた。


(先程カレン様をエスコートする際はつけていたのに…)

一縷の可能性にどきどきしてしまう。

期待して良いのだろうか。


『やぁエリック』

そんな中流暢なシェスタ語で話しかけられ、振り返った。


エリックの友人らしい。


『可愛らしい子を連れてるな。先程の子がお前の婚約者なのだろ、あちらで不機嫌だったがいいのか?』

『あれは父が決めた女性だ、大事にしたいわけではない。本命はこちらだ、可愛いだろ』

シェスタ語はわからず、とにかく笑顔で二人の会話を聞いていた。


「あの、エリック様。なんとおっしゃってるのですか?」

「我が国のとても優秀な生徒と伝えている、勉強熱心だと」


アドガルムの言葉がわかるグウィエンは吹き出した。


「あぁ、すまない。思い出し笑いで吹き出してしまった。そうか、君は優秀な生徒なのだな」

こほんと咳払いをする。


「俺はグウィエン=ドゥ=マルシェ。シェスタ国から来た。これから宜しく頼む」


褐色の肌、琥珀色の髪。

エリックよりやや背が高い。

ゆったりとした民族衣装に身を包んでいた。


「俺はこちらの言葉はまだ勉強途中なのだ。難しい言葉はシェスタ語で話すかもしれない」


丁寧にそう言われ、レナンも了承する。


「わたくしもシェスタ語を勉強することが出来てありがたいです。直に聞くことが出来るのは、習得するためにも参考になりますわ。グウィエン様の発音を少しでも耳に覚えさせられるよう、頑張りたいと思います」


優雅に礼をし、敬意を払う。


『あちらの壁より余程いい女だな』

『当たり前だ、俺が選んだ女だ。狙うなよ』


聞き取られては困ると早口だ。


『この気概と向上心がないと王妃になれない。なんとか円満に婚約解消したいのだが』

『見た目はまぁまぁじゃないか?引き取り手もいそうだがな、俺はいらんが』


男同士の会話は早口で、レナンは何とか単語を拾う。

しかし訛やスラングもあり、まだまだ言葉として拾えない。


わからない単語はあとでエリックに質問しようと、メモ帳にさらさらと書いていく。


『俺が穏便に次の婚約を結べるよう、円満な解消をしたいのだが、難しくてな』

『王妃として相応しいと知らしめる方法か、あちらを落とすか。まぁ自然に転がるだろ。今日だってマイナスだ』


気品の欠片もなく、努力もない。


ただ誰かが来るのを待つだけでは何も生まれない。


「レナン嬢が王妃になればいいのに」

「グウィエン!」


幸い今の言葉は周りに聞こえなかったようだが、レナンには届いた。


なんと返していいのか分からず、愛想笑いをする。


「エリック様にはカレン様がおりますので」

「婚約者だろ?婚姻はまだではないか。それにエリックが手袋を外している。君にはは触れたいというエリックの本心だろ」

「グウィエン…」

低い声で唸るようにして諌める。


『俺が慎重に距離を詰めていたのに、余計な事を言うな』

『そう言っていては取られるぞ。ここにどれだけ妻が欲しい男がいると思っているのだ。数ヶ国語を話せる女性なんて、どこの国の王子も欲しがる。フリーの女性なら尚更』


その心配はあった。だから自分が傍についていた。


「レナンはどこの国の言葉ならわかりやすい?」

「セラフィ厶とナ・バークなら。シェスタの言葉はなかなか難しいですね」


早口で聞き取られないよう話すのだから、わからなくて当然なのだが。


「ではセラフィ厶の言葉で話す。アドガルムの言葉では周りに聞かれやすい」


それならばとレナンはもらったネックレスに触れ、魔力を流す。

これで周りには言葉として聞こえないはずだ。


「君もそれを持つか。王族だけのものだと思っていたが」

「あっ…」

迂闊に使ってしまったが、いけなかっただろうか。

エリックの顔が見れない。


「俺が上げたものだ。レナン嬢も悪用しない」


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