第32話 シルヴィアさんの武器
殺戮級の機械獣が沈黙したのは、そいつが現れてからわずか数分だった。
――ブゥン
シルヴィアさんは汚れを払い落とすように刀を振ってから鞘に収めると、なにごともなかったかのように倒された機械獣の頭部から飛び降りた。
僕の方へ歩きながら使用後の状態を点検するように2丁のライフルを順番に観ると、
「やはりトランスの武器はさすがだな」
とぼやきつつ、両方とも背中に仕舞った。
「怪我はないか?」
僕の元に辿り着くと、シルヴィアさんはそう聞いたから、
「大丈夫です」
と端的に答えた。
「そうか」
「……さっきのライフルってキャリ姉が造ったんですか?」
シルヴィアさんが言っていたことを思い出して、僕はそう聞く。
すると、シルヴィアさんは首を傾げつつ、「これらか?」と背中にある2丁のライフルを取り出した。
「その通りだ。これらはキャリーが製造したライフルだな。
というよりも君も一度、見たことがあるはずだ」
確かに。
よく見てみれば、武器工房トランスから討伐隊に届けたライフルに似ている。
フェデックを辞めてから初めて届けた荷物だ。
あの時はトランスの専属運び屋になりたての時で、討伐隊への急ぎの発注だったからよく覚えている。
――ってか。
「え? あのライフル、シルヴィアさんのだったんですか?」
「あぁ。そうだが」
「急ぎだったんじゃ……」
「? 何を勘違いしているのか知らないが、この数ヶ月、ただ眠らせていたわけではないからな。
北の防壁に穴があいただろ? その穴が塞がる間、討伐隊は交代で防衛任務を行っていた。
私も例外ではない。ああいう殺戮級も出るわけだしな」
と首を傾げながらもシルヴィアさんは後ろの機械獣を指差した。
「当然、このライフルらもずっと持っていたよ」
あぁ、なんだ。よかった。
てっきり、今日までライフルを使ってなかったのかと思った。
シルヴィアさん、災害級の機械獣が見つかってからケーテン砂漠に行くの初めてだって言ってたし。
急いで運んだのにこの日までずっと置き物でした、てなってなくてよかった。
「尤も、防衛任務中は殺戮級が出ることはなかったから使うことはなかったが、な」
「…………そうですか」
「なんだ? 残念そうな顔をしているが」
「いえ、別に」
顔に出ていたか。
さすがに使わなかったことが残念だったなんて言えない。
うん。急いでよかったんだ。
ライフルが使われなかったとしても、持っているだけで抑止力にはなるんだから。
こんなんで「せっかく急いで運んだのに残念だ」なんて言ったらシルヴィアさんに心が狭いというレッテルを張られてしまう。
「そうか。まぁせっかく急いで運んだのに、と残念がっている心が狭い君には申し訳ないとは思っているよ」
言わずとも張られた!?
「だが安心してくれ。キャリーが造った武器は相変わらず完璧だ。もちろん君の丁寧な運びもな」
武器に支障は全くなかった、とシルヴィアさんは満足そうにライフルを見ると、背中の後ろに仕舞った。
「そんなにすごい武器なんですか?」
確かに殺戮級の機械獣に対して圧倒的な攻撃力を見せていたけど。
シルヴィアさんがそんなに褒めるほどの武器だ。
いったいどんなすごい武器をキャリ姉は造ったのか、興味がわいた。
「そうだな。キャリーのライフル2丁とこの刀のおかげで、私は殺戮級も
「――!!」
「東の国で鋳造されたこの刀はどんなに硬い鉄でも斬り落とせる」
シルヴィアさんが愛用する刀は東の国で手に入れた大業の一振り。
東の国に赴いている時に一目惚れしたらしい。
切れ味は鋭いが、扱いは困難。
正しい振り方をしなければ何も斬れない。
だが、ひとたび正しい動きをすれば、機械獣の超硬度なボディでさえ斬れてしまうほどらしい。
扱うのに3年は掛かったがな、というのはシルヴィアさんの言葉。
それほどまでに難しい刀だが、慣れてしまえばこれ程、扱いやすい武器もない。
斬りたい時に斬れる刀は、機械獣の種類ごとに多彩な闘い方を強いられる討伐隊にとっては、最適な武器だった。
――まぁ常人には扱いきれないけれど。
「そして、2種類のライフルはどんな敵とでも対応できる」
2種類のライフルはキャリ姉が造ったオリジナル。
ひとつは、速さ・命中特化のライフル。
威力は弱いが、装填が早い上、引き金が軽く射撃時のブレも少ない。
回転する刃の先端など精密に狙う必要がある標的にはちょうどいいらしい。
――まぁ常人にはそんな精密射撃なんて無理だけど。
もうひとつは、安定度外視の威力特化のライフル。
極端に反動が強いが、その分、威力は申し分ない。
更に弾薬も物に当たった瞬間に爆発する仕様で、地面が爆発したのはそのせいだった。
――まぁ常人が使えば、肩が外れるほどの衝撃が来るけれど。
「この3種の武具のおかげで、私は殺戮級以下ならどんな機械獣とも1人で戦える」
いわば、シルヴィアさん専用の最強武器3種。
キャリ姉もそんな常識外れの武器をよく造ったものだ。
僕はキャリ姉の朗らかな笑みを思い出して、苦笑いした。
「だから安心しろ」
「え?」
「私がいる限り、君に傷ひとつ付けさせやしないよ」
再度、言い聞かせてくれるようにシルヴィアさんは同じ言葉を吐いた。
確かにあの殺戮級の機械獣が出た時は、ほんのちょっとだけ疑っていた。
けれど、あの戦闘を見て、刀やキャリ姉が造ったライフルを見せてもらって。
そこまでされて、信じないほど僕は
「……もちろん信じます。ありがとうございます」
「そうか」
僕の言葉を聞いて、シルヴィアさんは納得するように微笑んだ。
「では、そろそろ行くぞ。
ここから先、ケーテン砂漠までノンストップだ」
「はい!」
そして、僕らはまた再び走り出す。
ここから先、また機械獣が出たとしても、シルヴィアさんがいる。
シルヴィアさんがいるだけでこんなにも心強い。
安心して任せよう。
僕は荷物を運ぶのに専念する。
ここから北へ一直線。
このペースだと1日半で辿り着ける。
ケーテン砂漠までノンストップだ!
……ん? ノンストップ?
「ちょっと……シルヴィアさん?
念のため聞くんですけど、休憩はあるんですよね?
あるんですよね!?」
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