第31話 シルヴィアさんの実力 後編

「下がっていろ」


『脅威レベルが更新されました。

 緊急時のため、マスター以外の忠告を受け付けます』


「ち、ちょっと……ライト!?」


 シルヴィアさんが被甲目型の機械獣に向かうと、ライトが勝手に動き出し、シルヴィアさんの命令通り僕を後ろに下げた。


「ま、待ってよ!」


『緊急時のため、マスターの命令を却下します』


 僕の願いを聞き入れず、ライトは機械獣の影響をなるべく受けないように距離を置いた。


「で、でもシルヴィアさんが……!」


 あんな怖そうな機械獣に1人で立ち向かうなんて、いくら実力があるからと言っても無茶がある。


『いいえ。これが最善です』


「え?」


 何を言っているんだ。このオートマタは?

 2人で戦ったほうが有利なんじゃないのか。

 そうだよ。

 僕には殺人オートマタのライトが付いているんだ。

 シルヴィアさんの助けになるんじゃないのか。

 ライトの力を使えば、あの機械獣だって――。


『理由は3つあります』


 ライトは僕の反論を聞かずに、続ける。


『1つ、マスターの恐怖、動揺により心拍数、血圧、その他多くの身体的異常により、神経接続する私にも影響があり最大限のパフォーマンスができません』


 確かに僕はあの機械獣に会った時はどうしようもなく、パニクっていた。

 でも今は落ち着いた。

 あんなアルマジロ、こここここ怖くなんて、なななななないしぃぃ!


『2つ、私は最高傑作ではありますが、あくまでオートマタ。機械獣の破壊は本来の用途とはかけ離れています』


 運び屋業が出来ているのに?

 いや。あれは暗殺をしたり逃亡をするための移動手段を応用した、と考えれば説明がつく。

 廃棄場で現れた殺害級の機械獣ならまだしも、あんな巨大な機械獣を破壊するには、人間以上の強度を破壊するパワーが必要か。

 確かに殺人オートマタにその力を持たせるのはオーバースペックか。

 いや、今でも充分、オーバースペックだけど!


『そして最後。私が出るまでもありません』


「…………え?」


『個体名シルヴィア・スターリングの最大瞬間脅威レベルは災害級。

 殺戮級の機械獣であれば、容易に討伐可能でしょう』


 ライトがそう説明した瞬間、前から重い銃撃音が2発鳴り響いた。

 シルヴィアさんがライフルを撃ったのだ。

 ライフルの弾は迷いなく。

 一直線に機械獣の両の足元を狙った。


 瞬間。


 大きな爆音が空気を揺さぶった。

 ライフルの弾が地面に当たった瞬間、大爆発を起こしたのだ。


「……え?」


 まさかの衝撃に、呆気に取られる。

 ライフルの弾が爆発するとは思わない。


 足元に爆発したとはいえ、被甲目型の機械獣の足は全く問題ない。

 だが、エルガス周辺の地盤はボロボロだ。

 地面に衝撃があれば、もちろん。


「――ッ! 崩れた!」


 地面が抜け、機械獣の両足が落ちた。

 バランスを失い、二又に割れた顎が地面にぶつかる。

 だが、相手はアルマジロ。

 地中が主戦場メインの機械獣はたかが地面に転んだだけでは怯むことはない。

 一度潜るため、開いていたドリルを閉じようとした。


 だが――。


「させん!」


 一閃。

 シルヴィアさんはいつの間にか機械獣の頭部を登り、5つに割れたドリルのうちの上部3片を刀で切り裂いていた。

 下部2片は残ったが、掘削能力はなく回転させても空回り。

 もう地面に新たに穴をあけることは叶わなくなった。


 であれば、元々作った穴に潜ればいい。

 機械獣は後ろ足の力を込め、出てきた穴を目指そうとしたが。


「それもさせん!」


 シルヴィアさんは頭部を足場に高く飛び上がると、ライフルをまた2発。

 今度は後ろ足の付け根を爆破した。


 やはり衝撃で地面が崩れる。

 足全てが陥没し、機械獣の腹がゆっくり地面についた。

 前足が既に沈んでいたからか、面で落ちたからか、地面はほとんど崩れなかった。


 機械獣は腹部に着いたスパイク状のタイヤを高速回転させるが、重い巨体を腹部のみのタイヤで動かすことはできない。


 だが、このままでは破壊されてしまう。

 機械獣はただではやられない。

 殺戮級以上なら特に。


 今、自分を破壊しようとする脅威を排除しなければ。


 背中にある厚みのあるタイヤを複数枚に分割する。

 分割されたタイヤは回転刃のごとく。

 高速回転させると、シルヴィアさん目掛けて回転刃を飛ばした。


「ふん。相変わらず、だ」


 シルヴィアさんは空中で一度、ライフルを仕舞うと、もう一丁のライフルを抜いた。

 そのライフルは先ほどのものとは細く破壊力も低そう。

 だが、シルヴィアさんはそれを構えると、飛ばした複数の凶器のうち1枚をピックアップし。


 1発……2発……3発……。


 ライフルを撃つ度に、シルヴィアさんの身体は作用・反作用の効果で後ろに下がり、回転刃の射程から外れる。

 また、シルヴィアさんの射撃は正確だった。

 ライフルの弾は先ほどのように爆発することはなく、普通の弾丸。

 その弾が回転する刃部分を精密に狙い、徐々に回転数と勢いが下がっていった。


 それ以外の回転刃は勢い止まらず、シルヴィアさんを通り過ぎ、より高く飛ぶ。

 その様子を確認すると、シルヴィアさんは後ろ向きにライフルを撃ち、元いた位置に戻ると、


「お前のやいばを使わせてもらうぞ」


と遅れてやってきた機械獣の回転刃を自分の刀に引っ掛ける。

 シルヴィアさんは再び爆発する弾が仕込んであるライフルを取り出すと、今度は上向きに放つ。

 普通の弾丸を撃った時よりも勢いがある。

 落下速度は加速する。


 シルヴィアさんは刀で引っ掛けた回転刃を下にして、ほぼ直下にある機械獣の頭部を狙う。

 落下速度とその回転刃自身の重さも相まって、破壊力は最高。


「くらえ!!」


 地上に落ちると、すごい轟音が響く。

 殺戮級の機械獣の首は鋭利な自分の刃によって斬られ、それと同時に土が勢いよく高く舞った。


 ――――。


 土煙が徐々に収まる。

 見ると、機械獣の頭部は落ち機能停止。

 シルヴィアさんは回転刃の上に立ちつつ、僕を見ていた。


「……終わったぞ」


 シルヴィアさんの身体には擦り傷ひとつなかった。

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