第27話 MEランサー 前編
「――その後、我々討伐隊は災害級の機械獣の討伐を何度も試みているが、未だ達成できずにいる」
キャリ姉の家でティーカップに両手の指先を触れながら、シルヴィアさんは淡々と起きた事実を語っていた。
ニコちゃんが床でお人形遊びをしている中、僕とキャリ姉は冷や汗をかいて沈黙していた。
いきなりそんな話をされても、一般人である僕らでは処理しきれなかったのだ。
災害級の機械獣。
その脅威レベルは知っているし定義も理解できるが、現実として危機が迫ってると聞かされても、まだ空想の世界の話にしか思えなかった。
「その……つまり……エルガスは……壊されちゃう?」
キャリ姉が言いにくそうにシルヴィアさんにそう聞いた。
エルガスの討伐隊が倒せないのだから、そう思っても仕方がない。
キャリ姉の質問に答えるように、シルヴィアさんはゆっくりと口を開けた。
「それはない……と言いたいところだが、実際のところその可能性は大いにある」
やはりそうか。
「奴はエルガスの防壁に機械獣を撃ち続けている。
撃つ頻度が3日に1回とかなり少ないとわかったが。
とはいえ、ずっとダメージを負い続ければあの強固な壁が崩れるのも時間の問題。
更に悪いことに……」
「…………」
「あの機械獣はエルガスに向かって
「……え?」
「もっとも亀の如く遅いがな」
移動? 移動だって?
シルヴィアさんの話では、その災害級の機械獣は山のように大きい亀だ。
そんな化け物がエルガスまで来たら……。
「おそらく街は平され、エルガスは地図から消えるだろう」
冗談を滅多に言わないシルヴィアさんの言うことだ。
災害級の機械獣は本当にエルガスを破壊するつもりなのだ。
踏み潰すかの如く街にあるビルや工場を破壊し、そして至近距離から機械獣という名の弾を撃つ。
尚且つ、災害級の機械獣の近くいるという千を超える機械獣。
彼らがエルガスに侵入し、住民を襲い掛かる。
エルガスもそこに住んでいる人も跡形もなく消えてしまうのだ。
「い、いつ来るんですか?」
僕は唾を呑み込んで、シルヴィアさんにそう聞いた。
「何もしなければ、2週間後。
だが、討伐隊の精鋭が機械獣の動きを止めるのに成功した。
見立てでは1ヶ月は静止するそうだ」
といっても戦力は半分になってしまったが、とシルヴィアさんはティーカップを握り締めた。
「……たった1ヶ月だ……」
こんなに悔しそうにしているシルヴィアさんを見るのは初めてだ。
たった1ヶ月、動きを止めるだけのために戦力が半分減ってしまったことに、何も思わないはずがない。
それほどの強敵。それほどの脅威がエルガスに迫っているのだ。
「だが、そうならないためにも君の力が必要なんだ」
シルヴィアさんはそう言って、僕を見てきた。
「僕の力、ですか……」
討伐隊が倒せないという災害級の機械獣。
そんな相手を前に僕の力がどう役に立つのか。
全く検討がつかない。
「勘違いされるとあれだが、何も君に機械獣を倒せと言っているわけではない」
あ、そうなのか。
それを聞いて安心した。
「君の
「……いったいどんなものを運びたいんですか?」
運び屋としての力を認めてくれるのは素直に嬉しい。
だけど、わざわざ僕に頼むっていうのがまだピンとこない。
何を運ばせるつもりなのか。
エルガスを出たことがない僕よりも適任がいそうなんだけど。
僕はフェデックのオートマタを思い浮かべる。
あれは戦闘兼配達用だし。
よっぽど強い機械獣じゃなきゃ対処して、運んでくれそうだ。
「最初にも言ったが、医療パックと武器のパーツだよ」
「その武器って……?」
「MEランサーだ」
「ME……って正気なの!? シルヴィア?」
聞き慣れない単語が飛び出てきたが、キャリ姉は知っているようだ。
目を丸くして、ただならぬ雰囲気でシルヴィアさんに問い詰めていた。
その雰囲気にゴクリと唾を呑み込む。
「いったいどんな武器なんですか?」
「君はタンク・フィラメントの工場で造っている爆弾を知っているか?」
タンクさんの工場?
爆弾といえば、と僕はこの前のタンクさんの事件を思い出す。
「確か少しの衝撃ですぐ壊れちゃうくらい精密なやつですよね?」
「そうだ。だが、重要なのはそこではない」
「?」
「あの爆弾はな。ナノマシンの爆弾なんだ」
「ナノマシン……!?」
確かものすごく小さい機械のことだよね?
ライトの身体もそれでできている……いや、あれは『形状記憶ナノマテリアル』か。
とにかくその小さな機械で出来た爆弾ってこと?
「正確には自己増殖・自己破壊を組み込んだ金属性物質破壊ナノマシン、通称『メタルイーター』。
つまり武器とか機械獣とか金属でできた物を食べちゃう小さなロボットのことよ」
キャリ姉がシルヴィアさんに引き継いで説明してくれる。
それでも僕はピンと来てはいない。
「内部に侵入して、金属を食べつつ成長。そしてどんどんと増殖させていって内部から破壊する。
そして、ある一定の時間が過ぎるとそのナノマシン自身が壊れちゃうプログラム付き」
確か1分くらいって言ってたけ? とキャリ姉は考えるように顎に指を当てる。
そのキャリ姉の言葉にシルヴィアさんは、
「その通りだ」
と同意するように頷くと、
「金属しか破壊しないから、人体には影響ないし時間が経ったら自滅するから無限に増殖することもない。
対機械獣としてこれほどうってつけのものはないよ」
「でもシルヴィア? あの破壊ナノマシンを使うのは……ちょっとおすすめできないよ?」
キャリ姉が眉を顰めて、シルヴィアさんにそう言う。
シルヴィアさんもわかってはいるようで、首を縦に振る。
「あぁ。だが、この手しかもう策はあるまい」
「どういうことですか?」
シルヴィアさんとキャリ姉の会話で不穏な空気を感じ、僕は戸惑いがちにそう聞くと、
「んーと……なんというか」
とキャリ姉が困ったように頬に手を当てた。
「
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