第28話 MEランサー 後編
金属製物質破壊ナノマシン『メタルイーター』。
タンクさんの工場で製造していたのはその機械を使った爆弾だった。
爆弾の作動スイッチを押すと、起動して中に入っている100体のメタルイーターが飛び出る。
起動したメタルイーターは増殖と捕食を繰り返して、自己破壊プログラムが実行されるまで周りにある金属を食い尽くすらしい。
聞いた限りでは、機械獣に対してはかなり有効な爆弾だと思うんだけど、キャリ姉曰くおすすめできないらしい。
その理由がふたつ。
脆い上に制御不能。
脆いのはなんとなく理解できる。ナノマシンっていうくらいだから小さな機械だし。
フェデックのオートマタが運んだ時も、激しく動いたせいで壊れちゃったもんな。
爆弾としては矛盾している気もするけど暴発しないのは良いことだ、と運び屋目線では考えてしまう。
使う側からするとこれほど扱いづらいものはないけど。
「持ち運んでいる時に壊れちゃうかもしれないし、使おうとして不発で終わるかもしれない。
こんなにも不安定なものを武器として使うのはちょっと厳しいよ。機械獣相手だったら特に」
というのは武器工房の技師であるキャリ姉の言葉だ。
形勢を変えようと爆弾を使ったのに壊れて不発。
そのせいで隙ができて機械獣に殺される、というのはさすがに笑えない。
そして、もうひとつ。
おすすめできない理由があった。
そっちに関しては僕はいまいちわからなかった。
「制御不能っていうのはどういうことなの?」
「遠隔で操作することができないって意味だよ。
元々組み込まれたプログラム通りにしか動かない。
つまり発動したら、壊れるまで捕食と増殖を繰り返すのよ」
それはわかる。
小さいんだし、遠隔で操作できる機構を組み込むのも難しそうだ。
だから決まった動きをプログラムする。
メタルイーターだと自己増殖と金属の捕食だ。
でもメタルイーターには自己破壊プログラムが組み込まれているんだし制御できなくても問題なさそうだ、と素人目線では思う。
「例えば、だ」
そう考えていると、キャリ姉の説明を引き継ぐように、シルヴィアさんが口を開いた。
「タンクのところで作っているME爆弾。
あれは1分で
「……たぶんあの廃棄場で出た虎の機械獣を壊す程度ですか?」
「拳銃一丁だ」
「え……?」
そんなに少ないの?
それじゃあ傷害級の機械獣ですら倒せないじゃないか。
「だが、それはあくまで自己破壊までの時間が1分の場合だ」
「――!?」
「この時間が2分、3分……と伸びていけばどうなるか?」
「おそらくMEの自己増殖能力もあって、ねずみ算式に金属物質の捕食スピードが上がるでしょうね」
シルヴィアさんの質問にキャリ姉が難しそうな顔で答えた。
「それと同時に制御不能なナノマシンが破壊されるまで増え続け、例えば機械獣を倒すという目的を達成しても止まることはなく周りにある金属物質を破壊しようとする」
「その通りだ」
それ以外にも、仮に誤作動してしまった場合は危険だ。
1分間であるならば拳銃一丁がダメになるくらいで済むけど、自己破壊を起こす時間が延びればそれだけじゃ済まなくなる。
機械獣を殺すことができる時間まで稼働時間を伸ばしたとしたら、目的を遂行する前に武器が食い尽くされ作戦失敗という事態にも陥ってしまう。
更にはもしエルガス内で誤作動した場合には、制御不能な
災害級の機械獣が来る前に、エルガスが無くなるなんてことが起こりうる。
だから討伐隊でも武器の候補としてはあまり上がらない。
それでも使おうとするのは、シルヴィアさんが言っていたようにこれしか方法がないからだろう。
でもそんな危険なナノマシンを使った武器。
もし災害級の機械獣に有効な武器だとして、ケーテン砂漠までいったい誰が運ぶというのか……。
「そこで君だよ」
…………そういうことだよね。
「メタルイーターは脆い上に制御不能。誤作動または損壊されないよう丁寧に運ぶ技量と技術を持った運び屋が必要だ。
そんな運び屋、少なくとも私はひとりしか知らない」
シルヴィアさんは有無を言わさぬ視線を僕に向けてきた。
「運んでくれるね? レオ・ポーター?」
――ここで断ってしまってもたぶんシルヴィアさんは何も言わなかったと思う。
けれど、僕の運び屋としての能力を買ってくれたし、何より僕はエルガスが好きだった。
そんなエルガスを救うために僕の力が必要というのであれば、力を貸したい。
外も初めてだけど、ライトもいる。
だから僕の答えは最初から決まってはいたのだ。
「わかりました」
そういうわけで僕のエルガス外での初めての仕事はとんでもなく重要で、エルガスの存続を賭けた大変な仕事になってしまった。
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