第26話 熱源の正体
討伐隊の作戦室は静寂に包まれていた。
固唾を呑んで、作戦室のスクリーンに映し出された画像を見ていた。
皆、信じられない気持ち、
「……山だ……」
作戦室にいた誰かがそう呟いた。
それはある意味では正しかった。
画像には、確かに山のような形が映っていた。
だが、これは
もし本当に山であるならば、これほどまでに――形がくっきりとわかるくらい赤や黄色のみで着色されているのはおかしい。
更に山の頂上からは超高温の熱の煙も見えた。
『頂上からの熱は定期的に噴出しているようです』
というのは斥候の言葉だ。
それがどういう役割をしているかは不明だが、こんなにも超高温の物体がケーテン砂漠に存在することにエルガスの討伐隊は戦慄した。
長年、討伐隊をしている何人かは直感した。
曰く、「これは機械獣だ……」と。
災害級とはいえど、これほど巨大な機械獣は見たことがなかった。
なおかつ機械獣と思われる
おそらくそれらも機械獣。
脅威レベルは不明だが、災害級を駆除するためにはこれら機械獣も相手にしなくてはならないであろう。
これらをどう対処するべきか。
討伐隊作戦室にいる人たちは自然とその場にいる最高指揮官を見た。
つまりシルヴィアさんだ。
シルヴィアさんは目を閉じていた。
これからの対策を練っているのだろう。
だが――。
『ッ! 中腹で高エネルギー反応を確認!』
「――――!?」
ケーテン砂漠付近にいた斥候のリーダーが焦ったようにそう叫んだ。
シルヴィアさんは目を開けて冷静に通信用のマイクに口を近づけた。
「詳細を教えろ」
『災害級と思われる機械獣の中腹辺りにエルガス方向に向けて筒状の突起物あり!
それが周りよりも超高温になっています!』
筒状の突起物だと?
そこにいる誰しもが連想した。
エルガスの北の壁の惨状。そして機械獣に装備されているもの。
ここまでくれば想像に難くない。
『ッ! エルガスに向けて高熱の物体を射出しました!』
災害級の機械獣は、巨大な大砲を装備していた。
極限にまで加速された
だが、討伐隊の作戦室も、直接見ていた斥候も、予想できていなかった事態が起こる。
『あれは……――機械獣ッ!?』
発射された物体が砂嵐を抜けた瞬間、斥候は肉眼でそれを確認した。
熱を持ち赤く染まった虎型の機械獣がエルガスに向かって弾丸のように一直線に飛翔していた。
いや、飛翔というほど自由ではない。
意志を持たない弾となり、ただ直線運動をしていた。
やがて、エルガスの北の方から轟音が。
その音の正体は見ずともわかった。
北の防壁に機械獣が衝突したのだ。
北の壁は強固だ。
そう簡単には崩れないが、何回も撃ち込まれれば、やがて穴が開く。
廃棄場から侵入してきた機械獣はこう侵入したのだと、理解した。
更には、
(廃棄場近くで機械獣が多く死んでいたのはそういうことか)
壁に特攻したが打ち破れなかった機械獣があの北の壁の外で朽ち果てていたのだ。
そして、運良く――いや、こちらからすると不運なのだが――突破できた機械獣が装備したニードルが折れていた理由もわかった。
機械獣を射出した災害級は、頂点から勢いよく熱を発していたのが赤外線カメラで確認できたらしい。
このまま見過ごすことはできない。
「ただちに討伐の準備をしろ!
これ以上、あいつに壁を破壊されてはいけない!」
シルヴィアさんは勢いよく立ち上がり、そう叫ぶ。
「斥候はそのまま待機!
次に機械獣を射出するタイミングを計れ。
また何か異変があれば、報告しろ!」
『了解!』
「対殺戮級以上の討伐隊はケーテン砂漠へ!
ケーテン砂漠に集合し次第、奴らを殲滅しろ!」
「「はい!」」
シルヴィアさんの号令を受け、斥候および作戦室内の士気が上がった。
だが――――。
『――無理です! とてもじゃありませんが、近づけません!』
ケーテン砂漠に入った討伐隊からの連絡だ。
彼らの目の前に現れたのは千を超える機械獣の群れ。
その奥には標的である災害級の怪物がいた。
対〇〇級というのは、機械獣の脅威レベルに合わせて作られた討伐隊ランクの指標。
対殺戮級であれば、殺戮級以下の機械獣であれば余裕で倒せる。
その対殺戮級以上の討伐隊総勢50を以ってしても千を超える機械獣の群れを相手にするのは骨が折れる。
更には群れの奥にいる今回の標的。災害級の機械獣を倒すのは無理があった。
武器か兵力。もしくはその両方が最高レベルに達していなければ、これらを一網打尽にすることは不可能だった。
だが、エルガスの上位戦力大半を投入したおかげもあって、災害級についてひとつわかったことがあった。
『あれは……巨大な亀……?』
災害級の機械獣を肉眼で確認しようと、機械獣の群れを突破した猛者が最期に溢した通信だった。
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