第25話 斥候

 僕が討伐隊にライフルなどの荷物を配送した後のことだった。

 討伐隊は災害級の機械獣の捜索にすぐに乗り出した。

 まずは斥候という形で。

 4人編成を1組作り、エルガスの北へ派遣した。


 廃棄場近くの壁を襲った災害級の機械獣の砲撃は北から来ていた。

 そのため、災害級は北に潜んでいると考えた。

 その間、シルヴィアさん含むエルガス支部作戦室と斥候とは絶えず通信をして、密接に連絡し合っていた。


 異変があったのは二週間後。

 ケーテン砂漠の調査に入ってしばらくした頃だった。


『な……なんだ、あれは……? なんなんだ……?』


 動揺した斥候達の通信。

 電波が乱れているのか、通信が途切れ途切れになっていた。


「こちら作戦室。どうした?」


 シルヴィアさんは即座に通信する。

 斥候達の反応は明らかに異常。

 状況をいち早く知り、対策を講じる必要があった。


『山だ……山がある……』


「山だと?」


 ケーテン砂漠には山はない。

 晴れていれば地平線が見えるほど真っ平な砂漠なはずだ。


『巨大な山が……砂漠……あり……す……。

 ……周りに……の群れが――ッ!!

 クソッ! 見つかっ……応戦……す!』


 雑音がうるさい上に、通信が途切れ途切れでわからない。

 だが、何かの群れに見つかったと言ったか?

 しかも応戦すると?


「ダメだ。すぐ戻れ!

 探索を中止し、エルガスまで逃げ帰るんだ!」


『え……!? なんだ……て?

 聞こえな……。こちら……応答……ます!』


「すぐ逃げろ!」


 そう叫び作戦の中止を呼びかける。

 だがすぐに息を呑む音が通信越しに聞こえた。


『……………………嘘……だ……?』


「! どうした!?」


『……獣を……撃……だと? ――ゥワッ!!』


 その後、激しい爆音が聞こえたと思うと、通信が途切れた。

 異様な通信に、形容し難い嫌な予感がして、討伐隊の作戦室では誰しもが唾を呑み込んだ。


 2日後。

 すぐに編成を組み直して、討伐隊はまたエルガスの北に斥候を派遣した。

 今度はケーテン砂漠には入らず、外から様子を見ることにした。


 3日後。

『こちら、斥候ブラボー。ケーテン砂漠付近に到着しました』


 通信は良好。ケーテン砂漠に入らなければ、大丈夫なようだ。


「様子はどうだ?」


『……ダメですね。砂嵐がケーテン砂漠を囲んでいて、一切、中の様子が見れません』


「そうか。赤外線カメラサーモグラフィーはどうなっている?」


『少しお待ちください』


 通信越しにガチャガチャと準備をしているのが聞こえている。


 機械獣の身体はかなりの熱量がある。

 元が機械ということもあり、生きているだけでも多くの熱を発している。

 機械獣は大きさに比例して、エネルギー消費量も上がる。

 つまり熱量も身体が大きくなればなるほど上がるのだ。

 そういうわけで砂嵐があるとしても、機械獣は赤外線カメラで撮ることができるのだ。


『準備できました』


 しばらくすると、そういう通信が入った。


「どうだ?」


『全体が高温……? いや、もっと引きで撮れないか?』


『わかりました。少しケーテン砂漠から離れます』


 斥候チームがそう話すのが聞こえた。

 彼らによると、映された映像は高音を示す赤と黄色しかなかった。

 しかしそれはケーテン砂漠全体を映したものではなく、ごく一部。

 砂嵐で囲われた全体を撮るために斥候はケーテン砂漠を少し離れることになった。


 しかし――。


『な……なんだ、これは!?』


 通信からは異様な叫び。斥候チーム全体が騒ついているように聞こえた。


「どうした?」


 シルヴィアさんは冷静にそう聞くが、


『い、いや……これは……!? こんなのがいるなんて……?』


『こんなことがあり得るのか……!?』


 斥候達はそれでも興奮冷めやらぬ状態だった。


「繰り返す。どうした?」


『あ、すみません。状況を説明……いや……これは実際にお見せした方が早いかと。

 映像を送信します』


 斥候のリーダーはそう言うと、誰かに指示する声が聞こえた。

 しばらくすると、作戦室にあるスクリーンにある画像が映し出された。

 赤外線カメラで撮った映像だ。


「!!」


 それを見た瞬間、作戦室にいた誰しもが目を丸くし息を呑んだ。

 その後、隣り合う者たちと議論するかのようにざわざわとし出したが、


「静かに」


 シルヴィアさんの一声で落ち着きを取り戻す。


「それにしても……これはいったい……?」


 画像はおそらくケーテン砂漠全体。

 おそらくというのは、あまりにもあり得ないものがあって確信が持てなかったから。


 その画像には、平坦であるはずの砂漠の上に超高エネルギーの熱源を持った巨大な何かが映し出されていたのだ。

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