第24話 シルヴィアさんの依頼
3週間後。
靴紐をしっかり結ぶ。
立ち上がり、運搬する荷物が入った木箱を背負い直す。
ズシリとした重さを再認識。
前を真っ直ぐ見ると、地平線が見えるほどの広大な荒野。
初めて出るその大地に身体が震え、
「よ、よし! 行くぞぉ!」
思わず
「なんだ? 身体が硬いな」
背後からそういう声が聞こえた。
「シルヴィアさん……」
シルヴィアさんは外套を身にまとっていた。
動きやすそうな薄茶色のズボンとミリタリーブーツが隙間から見え、外套の下もおそらく動きやすい上着を着ているのだろう。
更に、腰には支部長室で飾られていた刀を差し、背中からは外套に隠れたライフルのグリップが二丁、飛び出ていた。
以前、討伐隊の支部長室で見た正装とはまた違った成りだ。
「緊張しているのか?」
「…………」
「ふん。それはそうか。エルガスを出るのは初めてだったな」
そう。僕らは今、エルガスの外に出ていた。
僕にしてみれば、初めての行い。
機械獣が多く、危険と隣り合わせの外にいると考えただけでも心拍数が上がる。
もう帰りたい。
すぐ背後にあるエルガスの巨大な防壁を見て、僕は涙目を浮かべる。
なぜ、エルガスの外にシルヴィアさんと一緒にいるのかと言うと、それは3週間前のあの夜に遡る。
★★★
「ごちそうさまでした」
机にある大量の空皿を目の前に僕は手を合わせてそう言った。
「はい、お粗末様。レオは気持ちいいくらいにいい食べっぷりね」
「キャリ姉のご飯が美味しいからだよ」
キャリ姉のおかげで幾分か体力が回復した。
頭にも血が巡り、ライトも起きたようだ。
これならば、と僕は真向かいにいるシルヴィアさんを見た。
キャリ姉から出された茶を飲みながら、僕がご飯を食べ終わるのを待ってくれていたようだ。
「それで、エルガスの外に運搬ってマジですか?」
「あぁ。大マジだ」
鋭い視線で僕を見返すシルヴィアさんは冷静にそう返事する。
その顔は冗談を言っているようには見えないし、少々鬼気迫る感じもした。
「配送先はエルガスの北にあるケーテン砂漠の中心。
荷物は、とある武器のパーツと各種医療パック。
いつもの君の運搬量よりかは少ないが、依頼料は言い値で良い」
「でもシルヴィア?」
「どうした? キャリー?」
キャリ姉が皿を片しながら、割って入ってきた。
ちなみにキャリ姉とシルヴィアさんは同い年で、いわゆる幼馴染というやつだ。
「レオはエルガスの外に出たことないんだよ?
というよりも出られないからエルガス内のみで運び屋やっているんだし」
「あぁ。そうだな。だが私はレオがもう出られると思っている」
シルヴィアさんは確信めいた顔で僕を見てくる。
「エルガスでの君の動きは常々見ている。
君の右腕は高性能な機械の義肢だろ?」
少し違うけど、まぁそうだ。
僕は思わずライトを握る。
「どうしてそれがついたのかは知らないが、少なくともその右腕になってから、君は
さすが討伐隊の支部長さんだ。
僕の動きを観察しただけで、もう僕の力を把握しているのだ。
「君がエルガスの外に出られないのは、機械獣を倒せないほど弱いと思っていたからだろ?
確かに以前はその力はなかったかもしれない。
だが、今はそうじゃない。
外に出られる力があると結論づけた」
冷静に、論理的に思考し説明されると否定することもできない。
確かにライトの力があれば、機械獣もなんとかなるかもしれない、とは僕も思っていたからだ。
「だけどレオの気持ちはどうなの?
外に出るなんて……私でもかなり勇気がいることだよ。本当に死ぬかもしれない。
そんな外を恐怖に感じて出られないっていう人もいるんだよ?」
キャリ姉が困ったように眉を顰めて、シルヴィアさんを見る。
その言葉にシルヴィアさんも「そうだな」と同意するように目を閉じてため息を吐く。
だが、すぐに僕を真っ直ぐ見つめる。
「確かにレオの気持ちは大切だ。
だが、事情が事情だ。ことは一刻を争う。
今、結論を出してほしい」
「……何かあったんですか?」
いつもと変わらない冷静さではあるが、どこか様子がおかしい。
切羽詰まっているというか焦っているというか。
とにかく余裕がないように見えたのだ。
「…………」
「えっと……シルヴィアさん?」
沈黙するシルヴィアさんに再び声をかけると、ゆっくりと口を開いた。
「エルガスの危機だ」
「え…………?」
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