閑話 フェデック社長室にて 後編

「!! 受け取っているだって!?」


 パナソンの言葉を聞いた瞬間、サムエルは顔を真っ青にして、悲鳴を上げるが如くそう叫んだ。


「いったいどうして?」


「どうしてって……そりゃあ商売にならないからですよ」


「商売に? なぜだ! パナソンさんの工場で使う部品は全てうちが運んでいるだろう?」


「全て? とんでもない。今じゃ全くさ。

 フェデックさんとこのオートマタ? 最近じゃめっきりうちに来なくなったよ」


「……なんだって……?」


「今はほとんどレオとかいう運び屋さんが届けてくれるよ」


 レオ・ポーターだって?

 サムエルはまだ信じられない気持ちでいた。


「彼はうちをクビになった運び屋だ。

 その運び屋から荷物を受け取るなんてとんでもない!

 パナソンさんの商品が荒らされる危険性がある」


「荒らすだって? それこそとんでもないですよ。

 私はあんな丁寧な運び屋さん、見たことがない」


 パナソンさんは電話越しからもわかるほど満足そうな様子だった。


「運び屋から届けられた荷物なんて少しは傷が入ってるものだけど、レオくんが運んだ荷物は傷ひとつない!

 しかもスピードもフェデックさんとこのオートマタよりも速いじゃないですか。

 むしろフェデックさんがどうしてそんなに否定するのかわからないですよ」


「……ッ! 彼は孤児上がりなんだぞ!」


「…………」


 しまった。

 そう思った時にはもう遅かった。

 頭に血が昇って、出すべきじゃなかった言葉を口走ってしまった。


「あぁ。いや、すまない。今のは――」


「あのね、サムエルさん」


 冷静になり弁明しようとしたところで、言葉を遮るようにパナソンが静かにそう言った。


「俺は御社の先代社長に大恩がある。

 だった俺たちが造った部品を世界中に運んでくれて、売れるようにしてくれた。

 危うく潰れるところだった工場を建て直してくれたんだ。

 だからサムエルさんが俺ら製造業に不利益にしかならないアイディアを実行しても、まだ契約を切っていないんです。幸い俺たちの製品は丈夫ですし」


「は……?」


 パナソンが言った最後の言葉の意味がわからなかった。

 不利益にしかならない……?

 いったい何を言っているんだ。


 だが、その真意を聞く前に、


「今後、サムエルさんがそういう態度を取るっていうんなら俺は身の振り方を考えなきゃなりません」


 それじゃあ、と一方的に切られてしまった。

 不通を知らせる電子音が流れ、


「くそ!」


 怒りのまま叩きつけるように受話器を戻した。


 確かに失言だった。

 だが、あんなに怒らなくてもいいじゃないか。

 自分が孤児上がりだというのは事実なんだから。


「こんな屈辱は初めてだ……」


 こっちが親切に対応していれば、いい気になりやがって。

 だが、レオ・ポーターがモグリの運び屋をしていることが事実だということはわかった。

 しかも我が社の取引相手を奪い取っているというとんでもない事態まで。


 ……………………。


「……そうか」


 そこでようやく気がついた。


あいつレオ・ポーターがそもそもの原因か」


 オートマタの評判が悪いのも。

 一斉に契約解除されたのも。

 キャリー・トランスが自分の元に来ないのも。


 全てレオ・ポーターが悪いのだ。


「…………愚鈍な孤児上がり風情が……!」


 まぁいい。原因はわかった。

 ならその原因を排除すればいいだけの話だ。


「私を怒らせた罪は重いぞ」


 サムエルはそう恨み言を吐き捨てると、すぐに口角を吊り上げた。

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