第3章 街を跳ぶ運び屋
第16話 歓迎会
それから僕は武器工房トランスの運び屋としてライトと一緒に飛び回った。
基本的にトランスの武器はオーダーメイド。
その人、もしくは組織に合った一点ものを作り販売している。
機械獣討伐隊はその中で最も大切なお客様だ。
最大火力の武器、扱いやすい武器など数々の
性能や質が高水準だから評判が高いらしい。
尤もその武器はあくまで討伐隊の精鋭達が使うためなんだけど。
大量生産はトランスではできないから、標準隊員が使うような規格化された武器は別の工房から買っているそう。
討伐隊への武器販売以外にもトランスの仕事は多岐に及ぶ。
一般への販売もそうだし、武器以外にも工具の発注も受けている。
キャリ姉曰く、
「武器だけだと採算が取れないからねぇ〜」
とのこと。
個人商店のつらいところだ。
そして、基本オーダーメイドだからその日のうちに武器や工具を売るということはしていない。
前の
ということで出来上がり次第、発送という形をしていた。
以前は運び屋会社フェデックに依頼していたのだけど、僕を雇ってからは、もちろん僕がその役目を担うことになった。
名目上は、トランスの従業員として。
そうじゃないと――サムエルさんのおかげで――受け取ってもくれないからね。
まぁその名目を使っても門前払いをくらうこともあるけど。
そこはやっぱり大企業フェデックの影響力。
そう簡単にはうまくいくまい。
そういうわけで僕は文字通りエルガス中を飛び回り、武器工房トランスの荷物を納品しまくった。
ライトのおかげで以前よりも早く、そして荷物にも負荷をかけずに運べるようになった。
評判はまずまずだ。
この調子で続けていきたい。
そういえばフェデック製のオートマタも見かけるようになったなぁ。
根回しや調整が終わり、本格稼働したのだろう。
彼らは飛ぶことはないけれど、街中を荷物を持って猛スピードで走り回っていた。
センサーが付いているのか、人や建物が目の前に迫るとアクロバットな動きで避け、目的地を目指す。
その姿がパフォーマンスに見えるのか、街行く人はパチパチと拍手や歓声を上げて楽しげに見ていた。
あんなに激しく動いて、荷物は無事なんだろうか。
どうかこのまま暴走しないように祈るばかりだ。
そんなこんなで忙しくも有難い毎日を送り、一ヶ月が過ぎた頃――。
「かんぱーい!」
並々に注がれたジョッキを掲げたキャリ姉が満面の笑みでそう叫んだ。
喉を鳴らし気持ちよさそうにビールを半分くらい呑むと、
「ぷはぁー!」
とこれまた豪快に声を上げた。
「やっぱ仕事後のこれは最高ね!」
それを見て僕はあははと愛想笑いし、ニコちゃんは口元に食べカスを付けつつ楽しそうな笑みを浮かべていた。
ここはエルガスのとある酒場。
トランス家の月に一度の外食の日ということで、僕らはここへ夕飯を食べに来ていた。
家族水入らずの時を邪魔してはいけないと最初は遠慮していたのだが、
「レオの歓迎会も兼ねてだから」
とキャリ姉に半ば無理矢理、連れてこられた。
ガヤガヤとして賑やかで庶民的な酒場。
お金に余裕がなかった僕にとっては新鮮な場所だ。
「あの……本当に良いんですか?」
なんと今回、キャリ姉が奢ってくれるというのだ。
それに恐縮しつつ僕は遠慮がちにそう聞いた。
するとキャリ姉は、「何言ってんの」とジト目で僕を見る。
「めちゃくちゃいっぱい頼んだくせに」
「え?」
眼下には机いっぱいに大量の器が広がっていた。
丸焼きにした肉の塊はもちろん炒め物やピラフ、麺類、サラダ。
どれも山積みに盛られていた。
「好きなもの頼みな、とは言ったもののまさかこんなに頼むとはねぇ〜」
「たべものいっぱ〜い!」
「え!? あ、ちが……!」
いや、違くないんだけど。
最近、お腹がすぐ空いちゃって……。
つい頼み過ぎてしまった。
確かにこんなには普通は食べないよな。
僕?
僕はたぶん余裕で食べられる。というよりこれだけでも足りない気がする。
おそらくだけど、ライトの分も摂取しなきゃだからだ。
ライトは僕の身体からエネルギーを取って活動している。
オートマタ1体のエネルギーがどれほどかわからないけど、約2人分以上のエネルギーを僕の身体で賄っているはずだ。
「ごめん。頼み過ぎた分は払うよ……」
素直に頭を下げると、キャリ姉は「いいよぉ〜」と手を振った。
「今月はレオのおかげで売上が良かったんだ!
レオの運搬方法が目立ってたみたいでね」
「そうなの?」
どうやら僕が街中を飛び回ってたのを見られていたらしい。
ライトに振り回されないように必死で気が付かなかった。
「物珍しいって、いつものお客さんも多く発注してくれたし、ご新規さんも増えたんだよ。
まぁ取引中止になったところもあるけど、プラマイプラスって感じ」
「キャリ姉に貢献できたならよかったよ」
僕はつい笑みを浮かべて、右腕を握り締める。
僕自身の右腕は失ってしまったけど、結果的にライトが右腕になってくれて本当によかった。
殺人オートマタって言ってたけど、全然まともなオートマタだ。
「ちなみにこれはライトちゃんのおかげだけじゃないからね?」
「……え?」
「レオの丁寧さは周知の事実!
その丁寧さに速さとか……まぁパフォーマンス? 面白さ? とかついたんだから当然じゃない」
今までは無駄じゃなかったんだよ、とキャリ姉は嬉しそうにビールを呑んだ。
……そっか。無駄じゃなかったのか。
僕のずっと貫いてきたもの。
それを皆知ってくれていたし、評価してくれた。
その事実を知って、僕の目からは自然と涙が滲み出てきた。
「あぁ〜! レオおにぃちゃんが泣いてる〜!」
ニコちゃんが僕を指差して楽しそうにそう言った。
ちょっぴり恥ずかしい。
「? ……大丈夫ぅ? どこか痛い?」
反応がなかったからか、心配そうな声を出すニコちゃん。
「ううん。なんでもないよ」
僕は左腕で眼を覆い、ゴシゴシと拭き取る。
そして、ニコちゃんに笑いかけると、
「さ、食べよう。料理が冷めちゃうよ」
「! うん!」
僕が元気なのがわかったのか、ニコちゃんはまた満面な笑みを見せた。
ニヤニヤしながらビールを呑むキャリ姉が横目で見えたが、気にしないことにする。
「ライトちゃんも食べてね! いーっぱいあるんだから」
『申し訳ありません。摂取可能ですが、マスターからエネルギー補給する方が効率的です』
ニコちゃんが楽しげにライトと話す様子も微笑ましい。
いつの間にかニコちゃん――というよりトランス姉妹とライトは仲良くなっていた。
こんな生活がいつまでも続いてほしいな。
さぁ僕も食べよう。
明日もいっぱい動くんだから。
「おい――!」
とフォークを持った時、僕たちの机の前でそう叫ぶ声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、ビール腹が目立つ小太りの大男が吃逆を上げながら僕ら――特にキャリ姉を睨んでいた。
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