第15話 災害級の機械獣

 機械獣。

 それは何百年も前からこの世界に生息している金属生命体の総称。

 古代の人々が作ったのか宇宙から飛来してきたのか。

 突如として歴史に現れた謎の生物だ。

 獣のような形状で鉄やステンレスなどで作られた装甲。

 牙や爪も鋭利な金属製で、中には銃やブレードを装備しているヤツもいる。


 その性格は極めて獰猛で凶暴。

 人間や動物を見つけた瞬間、その装備を使い襲いかかってくる。

 生物が機械獣のエネルギー源だから、というのもあるが、有機生命体を襲うようにプログラムされているという説もある。

 草や木を主に食べる草食の機械獣でさえ人間を襲ってくるみたいだからね。


 みたいだ、というのはまだ一歩も街の外に出たことないからだ。

 機械獣を見たのはこの前のあれが初めて。

 力も弱くてビビリな僕には、街の外に出る勇気はなかった。


 話を戻そう。


 そんな人間……いや、生物の天敵でもある機械獣にはその力に応じて脅威レベルというものがある。


 人間一人が怪我する程度を最低の傷害級として、

 人間一人が死ぬ程度を殺害級、

 複数人死ねば殺戮級、

 そして街一つが破壊されるならば災害級、とランク付けされている。


 その4つの中で最高レベルである災害級の機械獣の討伐。

 それはすなわちエルガスに脅威が迫っていることを意味していた。


 シルヴィアさんは滅多に冗談は言わない。特に機械獣討伐に関しては。

 僕は緊張で唾をゴクリと呑んだ。


「災害級……ってことはエルガスに被害が出るんですか?」


「あくまで可能性だ。脅威レベルはそのくらいの脅威ということだ。

 今朝、廃棄場で機械獣が出ただろ?」


 廃棄場で出会った虎を模した機械獣のことを思い出す。


「え? あの機械獣が災害級だったんですか?」


「いや、違う。あれは殺害級だ。

 安心しろ。ちゃんと討伐隊で始末したさ。

 誰も死なせずに済んだのは幸いだったな」


「あぁ……まぁ……そう……ですね……」


 約一名、死にかけたけど。


「あれがどうやって侵入してきたか知っているか?」


「え? うーんと、そうですね……確か北の壁に穴が開いていたので、そこからじゃないでしょうか?」


「なんだ。君もあの現場にいたのか?」


 意外そうな顔をするシルヴィアさん。

 討伐隊が来た頃には、僕は空洞に落ちていたから見つけられなかったのだろう。


「なら話が早いな。君の言う通り北の壁からだ。

 そこに大穴を開けて侵入してきた。

 じゃあその大穴は誰が開けたんだ?」


「それはあの機械獣じゃないんですか?」


 確か廃棄場にいた機械獣の背中にはドリルが装備してあったな、と僕は思い出す。


「いや、違う」


 シルヴィアさんは首を横に振った。


「エルガスの壁はかなり強固だ。

 たかが殺害級一匹の攻撃で開けられるほど柔じゃないよ」


「あ、だからですか?」


「そうだ。

 壁を破壊するほどの攻撃力を持った機械獣は災害級しかあり得ない。

 実際に北の壁の穴近くにも砲撃の痕跡が見つかった。

 尤もその被害はエルガスの壁だけでなく壁近くの機械獣にもあったようだけどな」


 殺害級の機械獣が壁近くで多く死んでいたよ、とシルヴィアさんは補足する。


「じゃあこれからその災害級の機械獣を探しにいくということですか?」


「災害級が近くにいるなら、対処は早い方がいいからな。

 キャリーの武器も無事届けられた。

 準備ができ次第、うちの精鋭達を派遣するつもりだ」


「そうですか」


 討伐隊の精鋭が討伐しにいくなら、安心だ。

 災害級といえど、きっとすぐに駆除してくれる。


 シルヴィアさんの言い方からすると、自分は出ないのだろう。

 まぁそれはそうだ。

 なにしろ討伐隊の支部長だしな。災害級の討伐以外にもやらなきゃいけない仕事があるはずだ。


 コンコンコン。


 そう考えていると、ノックの音が聞こえた。


「なんだ」


 シルヴィアさんがそう呼びかけると、ガチャと扉が開いた。


「支部長、準備が整いました」


 入ってきたのは、討伐隊の隊員だ。

 どうやら遠征の準備ができたことを報告しにきたみたいだ。


「それじゃあ僕はこれで」


 それを理解して、僕は帰り支度を始めた。


 討伐隊はこれから忙しくなる。そんな中でこれ以上、邪魔しても良くない。

 シルヴィアさんも同じの考えのようだ。


「そうか。キャリーによろしく伝えといてくれ」


「ではまた。伝票はまた持ってきます」


 討伐隊の隊員に軽く会釈して、僕は素早く支部長室から退出した。


★★★


 討伐隊の建物を出て、僕はうーんと伸びをする。

 後ろには僕に銃を構えた見張りの人が相変わらず警戒している。

 もう帰るだけだから大丈夫だよ、と言いたいがここで変に怪しまれても嫌だし、何も言わずにそそくさと立ち去ることにする。


『帰宅しますか?』


 討伐隊本部から離れてしばらくすると、右腕がそう話しかけてきた。


「とりあえずキャリ姉のところにね。伝票の旨も報告しなきゃだし」


『帰宅方法はどうしますか?』


「……歩いて帰ろう。ゆっくり、のんびりと、ね」


 行きは凄まじかったからな。

 さすがに帰りも飛んでしまったら、たぶん吐く。

 帰りくらい自分のペースで帰らせてくれ。


『了解しました。スリープモードに移行します』


 ライトはそう言うと、右腕の主導権を僕に移し、それ以降静かになった。


 地面を踏みしめながら、一歩一歩前に進む。

 いつもよりゆっくりと感じる。

 むしろ行きが早過ぎただけなんだけど。


 ――でも。


 僕は思い出す。

 シルヴィアさんに渡した荷物は綺麗なままだった。


 あんなに早く、そして縦横激しく動いたのに、荷物には何ら影響がなかった。

 運ぶ前とほぼ同じ状態だった。


 改めて思う。

 ライトは有能だ。

 僕が言った通りに――いや、それ以上にちゃんと任務を遂行してくれた。


 殺人オートマタと自分で言っていたが、それだけじゃない。

 もはや万能オートマタといっていい。

 こんな性能の良いオートマタがどうしてサムエルさんが持っていたのか、不思議なくらいだ。


 とにかく。


 僕がライトの移動方法に慣れれば、もっと安全で早く、そしてより丁寧に運び屋の仕事を全う出来る!


 僕は右腕を見つつ、「よし……!」と笑みを浮かべギュッと拳を握った。


 雇ってくれたキャリ姉のためにも、運び屋としてのレベルアップのためにも、ライトに慣れよう。


「頑張るぞ〜!」


 そう叫んで、僕は武器工房トランスへ走り出した。

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