第13話 目的地周辺です

『着地成功。安否確認。荷物へのダメージなし。成功しました』


 無機質にそう言うと、ライトは右腕に成る。

 荷物がズシッと重くなった。

 どうやら討伐隊エルガス支部についたようだ。


 どうやら、と曖昧なのは縦横無尽な空中移動でグロッキー状態だったから。

 白目となり口から魂が抜けたようにその場で立ち尽くしていた。


『目的地周辺です』


「あ……あぁ……わ、わかってる……けどちょっと休ませて……」


『了解』


 急な空中散歩のせいで浮遊感がまだ取れない。

 地に足がつかず、ふとした瞬間に落ちていきそうだ。


 あ、でも荷物のチェックはしないとか?

 ライトは無事だと言っていたがいまいちまだ信用できない。

 いや、それよりも――。


「そういえば時間は!?」


 三十分以内に着けたのだろうか。

 猛スピードに耐えるのに必死で、時間を気にする余裕がなかった。


『ただいまのタイムは9分50秒……51……52……53……』


「……え?」


 耳を疑った。

 ライトの言うことを信じるなら、キャリ姉のところから討伐隊のところまで十分くらいで着いたのだ。

 そんな馬鹿な、と右腕を目を丸くして見ていると、


「おい! そこのお前」


 武装した二人の男に話しかけられた。

 僕に向かって銃を構えている。


「あ、はい!」


 思わず手を挙げてそう返事をする。

 おそらく討伐隊の隊員だ。エルガス支部の門番役を務めている人達だろう。


「何者だ!?」


 空から落ちてきた男――つまり僕を不審な目で見ている。

 そりゃあそうだ。

 討伐隊支部の目の前に突然、現れ、しかも不可思議な右腕をしているんだから。

 警戒されてもおかしくない。

 返答次第では、撃たれるのも止むなしだ。


「いや……あの……え〜とですね」


『どうしますか? 殺しますか?』


 返答に困っていると、耳元で物騒なことを言ってきた。


「なんか言ったか?」


「い、いえ! 僕は何も!」


 ライトが言ったんです!


『滞れば三十分以内に到着できません。私なら五秒で殲滅できます』


 僕にしか聞こえないくらいのボリュームに調整し、提案してくるがそんなことできるわけない。

 かと言って、このままじっとしていたらこの人たちに怪しまれて逆に捕まってしまう。


 ええい。一か八かだ。


「は、運び屋です。武器工房トランスからお届け物です」


「運び屋? フェデックのか?」


「あぁ……いや……はは」


 元社員です。

 すごく固い愛想笑いをしてみるが、不信感満載な目をしている。

 二人の男は互いに目を見合わせて、すぐに僕を見ると、


「なら伝票を見せろ」


「え? ……あ!」


 しまった。忘れていた。

 急いで出たから、キャリ姉から貰っておくのを忘れていた。

 これじゃあ受取のサインもできない。


 二人の討伐隊はさらに警戒心を高めた。


『やはり殺しますか?』


「ちょっと黙って」


「何だって!?」


「ヒィィ! ちが……違います違います!」


 僕の右腕に言ったんです!

 だからその銃を下ろして。


 なんて言えるはずもなく、どう切り抜けようかと悩んでいると、


「何の騒ぎだ」


 凛とした声が討伐隊エルガス支部入り口から聞こえてきた。

 見ると、白銀の長い髪をゆらゆらと揺らし威風堂々とこちらへ歩いてくる女性が目に入った。


 目は赤く鋭くて、鼻が高く小さい顔。

 その顔とは想像がつかない鍛え上げられた美しい肢体。


 トレーニングをしていたのだろうか。

 黒のタンクトップにダボっとした黒ズボンを履いた身体は熱っていて、顕になった肩や頬が軽く赤みを帯びていた。


 そんな彼女を見た途端、僕に銃を向けていた討伐隊の二人は急に直立し敬礼した。

 それもそのはず。


 彼女の名はシルヴィア・スターリング。

 機械獣討伐隊の支部長だ。

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