【20色目】ペアワーク 〜青と黒・緑と白の16.5日目〜
経験者組は二つの曲の原曲の音源を聴き、どちらの曲がいいかを少しだけ話したあと、ペアに分かれる。
音源はどちらもピコピコとした四つの電子音で構成されており、どうやら主に二つのメロディパートと二つの伴奏パートに分かれて演奏する曲のようだ。
時間はどちらも30秒ほどの短い曲だ。
「あなた、メインの楽器は?」
「どっちかっていうとクラリネットの方が得意かな」
「私はピアノなのよ。じゃあ、そうね」
「そうだね。基本ピアノ伴奏のクラリネットメロディーでいこう」
「えぇ」
この短いやり取りで担当パートが決まるあたりに、そこはかとなくプロ感を感じる。
「あら……この譜面、短いけど地味に難しいわね……ちゃんと生徒たちにちょうどいい難易度の譜面を選んだのかしら?」
「そうかもね。こっちの譜面も連符が多い……」
「なかなか、面白いことになりそうね」
二人の譜読みのスピードはとても早かった。
時折小さな声でフレーズを口ずさみながら楽譜にマーカーで何やら書き込んでいく。
おそらくそれは1分以下の時間だっただろう。
そして、試しに演奏してみようと二人同時に楽器を構える。
瑠真の表情は全く動かなかったが、それを見た黎が少しだけ目を見開く。
「もう終わったの? すごく早いんだね」
「あなたこそ、こんなに早く終わるなんてすごいわね」
瑠真が相変わらずの無感情な声で話しかけると、黎は少し楽しそうに返すのだった。
二人とも自分と同じくらい譜読みの早い人間なんて校内にいないと思っていたのだ。
「「…………」」
少し沈黙の時間が流れる。
「黎さんって呼んでも?」
「えぇ。私も瑠真さんって呼んでいいかしら?」
「いいよ。いい音楽仲間ができた気がする」
「私もよ」
経験者二人組にはこれだけの会話で十分だった。
残りは音で会話すればわかることなのだろう。
一方で……
「わたし、ピッコロでメロディやっていいかな? 誇白くんは伴奏やってくれる? あの、ピアノの楽譜になってるやつ」
「あ、うん! 僕も、最初、伴奏やらせてって言おうと思ってたんだ」
「そうなんだね! ありがとう!」
こちらも一見順調なように見えるが、誇白は今世紀最大の緊張を覚えていた。
(あああああ、どうしよう、ほんとにどうしよう、翠々夏さん絶っっっっっっっっ対上手いよね。僕ほんとにできるって言っても『エリーゼのために』ギリギリ弾けるぐらいだし、メロディやったら翠々夏さんの綺麗な音汚しちゃうだろうから伴奏やりたいなんてこと言えるわけもなかったから言わなかったけど実際そうだし……ほんとにどうしよう、絶対ミスするって、ていうかこの人とやる時点で僕の存在がミスだって)
どちらかというと、緊張というより自虐心に近いようだ。
そんなことを考えながらも二人とも順調に譜読みを進める。
翠々夏は楽譜を見た瞬間に理解をしていたようだが、そんなことができるのはプロ並みの経験を積んだ者だけである。
5分ほど経ったところで誇白が顔を挙げた。
気づいた翠々夏が一度演奏をやめる。
「できそう?」
「うん、なんとなくわかったかも」
「最初から合わせるのは難しいかな?」
「うん、少し練習してからでいいかな?」
「もちろん! とびっきりの準備して、黎ちゃんたちびっくりさせちゃおう!」
翠々夏のとびっきりの笑顔に、何をされたわけでもないのに誇白は思わず赤面した。
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