【16色目】寮生活のスタートは 〜白・青・赤の15日目〜

「月影くん、ベッドどこがいい?」

「あ、え、えと、み、右? 右端がいい! か、な?」

「そしたら、そこに君のシーツ、敷いておくね」

「ぅあ、あ、あ、あ、ありがとう!」


瑠真が真ん中のベッドに自分の紺青のシーツをベッドに敷きながら、誇白がそこがいいと言った右端のベッドにシーツを投げる。


「月影! この段ボールに入ってる本って全部お前の?」

「そ、そそそそ、そうです!」

「ここの本棚に入れておくから順番とか気になったら並べ直して!」


紅葉が部屋の隅にある本棚の一番上の段に、誇白が両親に持たされた分厚い小説を収納していく。


あぁ、怖い。陽キャ、怖い。すごく、怖い。とても、怖い。


引っ越し作業を進めながら、誇白は思い悩んでいた。


(やっぱり、黎と一緒がよかったなぁ……)


案の定、2人のペースに追いつけず、誇白は緊張しまくっていた。


「お前と同じ寮で同じ部屋で生活するなんてさ、昔の俺らに言ったら絶対嘘だって思われるよな」

「そうだね。そもそも、偶然同じ高校の入学試験を受けてるなんて、最初は思いもしなかったし」

「それな!」


かく言う紅葉と瑠真は新しく始まる生活を心待ちにしていたようで、とても楽しそうに準備をしていた。




(あぁ、どうしよう、やっぱり2人はちゃんとした幼馴染みたいだ……)


近くにあった、少し長めの段ボール箱を開けながら、誇白は少し慌てた。


しかし、誇白はその段ボールの中身を見て衝撃を受けた。


「日本刀……?」


柄が青く、青い花の川が描かれた美しい黒い鞘に収められた日本刀が、段ボールの中に収められていたのだ。


え、どうしよう。本当にどうしよう。

青だし、器にするなら多分瑠真くんだよね?

あんなに大人っぽくてまともそうなあの人が人殺しを企んでるんじゃないよね?

そんなことないよね? え? え?


「あぁ、それね。びっくりさせちゃったかな? 僕のだよ。」


いつも通り、微笑を浮かべながら瑠真が近寄ってきた。


「お前、ここにまで持ってきたのかよ! 本当、ちっちゃい頃から好きだなぁ、それ」

「好きっていうか、家業だからね。父さんに持っていけって言われたんだよ」


殺しが家業なの⁉︎ え⁉︎ え⁉︎


「あ、浅川くんって、一体、どんな家で……」


恐る恐る、誇白は尋ねた。


「あいつ、極道の世継ぎなんだよ」

「あー、紅葉。なんで言っちゃったかなぁ。怖がっちゃうでしょ、そんなこと言ったら」

「あ、ごめん! びっくりしちゃったよな?」


誇白は正直この場から立ち去りたいレベルで怖かったが、流石にそれは失礼だと思ったので、ちょっとだけお世辞を言った。


「い、いや、その……びっくりしたっていうか……すごいね。か、かっこいいと思うよ?」


「本当に? ならよかった。僕自身はそんなに物騒なことはまだしてないから、安心してね」

「もしかして、この日本刀使える? 見た感じ使えそうな感じすっけど」

「そんな焼入れもしてない刃じゃ切れるものも切れないよ」


誇白は思った。

(じゃあ焼入れしてあったら使うんだな……)


「僕、ちょっ、休憩しに、コーヒー、飲んでくるね」

「「いってらっしゃーい」」




虹寮の共有スペースにはポッドがあり、その横には紅茶やコーヒーが置いてある。


「本当、2人とも怖いなぁ……」


そんなことを思いながら誇白はお湯を沸かす。

すると


「あ、誇白くん!」

「ぅえ! あ、す、翠々夏さん⁉︎」


翠々夏が共有スペースにやってきた。

前の時は月影くんと呼ばれていたのに、誇白くんと呼ばれて、かなりびっくりした。


「コーヒー淹れにきたんだね!」

「そ、そう。家で、毎日飲んでたから、欲しくなっちゃって……」


瑠真に恐怖心を抱き、あの空間から逃れるためにここにきただなんて口が裂けても言えない。


「き、君は?」


「わたしはみんなに紅茶を淹れに来たんだ。ちょっと休憩」

「そうなんだ……」


「そっちの部屋、は、どう?」


少しでも会話を続けて、気まずくならないように誇白は何気ない質問を翠々夏に投げかける。


「楽しいよ! 梨良ちゃんがとっても可愛いの! なんだか新しい妹ができたみたい!」


なるほど、あちらは普通の人たちの集まり……でもないけどまともな人たちの集まりのようだ。


「あ、それにね! 誇白くんって、黎ちゃんと双子なんだよね?」


翠々夏が置いてある紅茶のパックを3つ、手に取りながら、誇白に問いかけてきた。


「そうだよ。あ、あんまり、似てないよね……」


会話をしながら誇白はコーヒーを淹れ終わして、翠々夏たちの分の水をポッドに汲み、コンロのスイッチを入れた。


黎と違って自分はあまり優れた人間ではない。

誇白はいつもそんなことを思いながら、無意識に周りの人間にこう言ってしまう。


「そんなことないよ!」


他の人はいつもこう言うな、と誇白は思う。


「二人ともそっくりだよ。さりげなく気配りができるところとか、ね」


翠々夏は誇白のコーヒーの隣にコーヒーフレッシュとスティックシュガーを置いた。


「お湯、入れてくれてありがとね! 嬉しかったよ!」


満面の笑みで翠々夏がポッドを手に取った。

慣れた手つきでお湯を注いでいき、使い終わったティーバッグを捨てる。


それを見た誇白は、本当はブラックコーヒーが好きだが、翠々夏の言葉と気遣いが嬉しかったので、コーヒーフレッシュとスティックシュガーを淹れて、一気にコーヒーを飲み干した。


そして、淹れ終わった紅茶を指差して、


「そしたら、これも気配りのうちに入るのかはわからない、けど、それ、一人じゃ持てないよね? 僕、持っていこうか?」


と言った。


「あ……そうだね! 三つあったら持っていけないよね! ありがとう!」


どうやら翠々夏は気づいていなかったようだ。


誇白はコーヒーカップを流しに置いて、カップを二つ手に取った。


廊下を歩き、三号室に向かう。


「カップ持ってくれてありがとね、すごく助かったよ!」


ドアを開け、自分の持っているカップを玄関のようなスペースに置いて、翠々夏は誇白の持っているカップを受け取った。


「それじゃあ、また明日、教室で!」

「そ、そう、だね! また!」




誇白が部屋に戻ると、もう既に部屋の準備は終わっていた。


「あ、お帰り」

「なんか遅くね? って話してたんだよ」


「そ、そうなんだね!」


何故かさっきまで怖いと思っていた二人が、少しマシに見えるのだった。

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