【13色目】相部屋 〜八人の10日目〜
「はい、入学して2回目のホームルームです。まず、内容についてなんだけど……」
立花が言いづらそうに始める。
「言いづらそうですね、先生」
瑠真が少しだけ茶化すように言った。
「えっ……っとね……寮についての話なんだけど……」
虹寮の生徒の暮らす寮は、設備の老朽化によって生徒の受け入れが遅れており、まだ引っ越し作業ができない状況にある。
そもそもこの虹ノ森高校は全寮制である。
そのため虹寮以外の生徒たちは既に全員寮での生活を始めている。
虹寮は、入学式までに寮の水道の修理が終わらず、入学してからしばらく経ったら寮暮らしを始める予定だったのだった。
そして…………
「「「「「「「3部屋しかない⁉︎」」」」」」」
「僕に文句を言われても困るよぉ……」
虹寮の使える部屋が3部屋しかないらしい。
「入学前の資料に誤りがあったみたいで……基本、三人一部屋が2部屋と一人部屋が1部屋だから、生徒たちに話し合いをさせてって言われちゃって……」
申し訳なさそうに立花が言うと、隣同士の紅葉と瑠真、前と後ろの誇白と黎が、それぞれ顔を見合わせた。
そして、
「俺たち幼馴染なんで同じ部屋でいいっすよ」
と右手を上げて紅葉が、
「私たちも双子なので、相部屋で構いません」
と左手を上げて黎が言った。
そして、気だるげに聞いていた雷輝も
「せんせー、ボク、絶対に一人部屋がいいでーす」
小さく手を上げて言った。
それを聞いた立花の表情は少しだけ明るくなった。
「そうなの? えっとね……じゃあ、浅川くんと皇くんは一緒でいいかな?」
「「はーい」」
「そしたら、黄之瀬くんが一人部屋で大丈夫かな?」
「いいんじゃないですか?」
「わたしは大丈夫だと思います」
「ありがとうございま〜す」
周りのみんなは賛成していたが、立花の言葉に黎は少し不満げな表情を浮かべ、誇白は不安げな表情を浮かべた。
「せ、先生、僕たちは、どうなるんですか……?」
誇白が少しだけ勇気を出して立花に問いかけた。
すると、立花の目が焦りを隠せきれていないといったように泳いだ。
「そ……の……ことなんだけど……えっと、さっき相部屋でいいよって言ってくれた4人は、せっかく意見を出してくれたのにごめんね。ほんとは話合わせるべきなのは一人部屋を誰にするかだけなんだよね……」
「「「「「「え」」」」」」
「これもほんとはどうしようか迷ったんだけど、男部屋と女部屋に分けてって言われちゃってね……ほら、誇白くんと黎ちゃんみたいに、他の人にも事情とかあるかもしれないし、どうかなって思ったから僕は反発したんだけど……どうしてもっていう人、いるかな?」
「梨良はそれでいいでーす!」
「じゃあ結局僕と紅葉は一緒なわけだ」
「ならまぁ俺も文句はないかな」
「わたしもいいと思います」
他の生徒は特に何も気にしていないようだったが、黎と誇白は少しだけ戸惑っていた。
「黎は、僕がいなくても平気だよね?」
「えぇ。夜中に誇白と話せなくなるって思うと、少し不安ではあるけれど、大丈夫よ。誇白は?」
「他の二人と上手に話せるかどうかは、まだわからないけど、多分、大丈夫だと思う」
「なら異論はないわね」
「そう……だね」
二人で少しだけ会話をすると、二人は先輩の方に向き直り、
「先生、私もそれで大丈夫です」
「僕たちも、それでいいです」
しっかりとそう言った。
それを聞いた立花が
「受け入れてくれて本当にありがとう! 全員部屋分けはこれでいいかな?」
満面の笑みでそう言うと、
梨良と紅葉は元気に『はーい!』と、黎と翠々夏は上品に小さな声で『はい』と返事をした。
残りの3人は、返事はしなかったが、雷輝は気だるげに、瑠真は静かに、誇白はうんうんと周りより多く頭を振って頷いた。
結局は、一号室が瑠真・紅葉・誇白の部屋、二号室が雷輝の部屋、三号室が梨良、黎、翠々夏の部屋となった。
2回目のホームルームが終わり、色々な学校についての説明や校則についての諸注意を話している間に、午前中が終了した。
そして、使う部屋とルームメイトが決まった今、誇白はとても不安に思っていた。
(あの人たち、幼馴染みたいだし、話したことないなぁ……)
もともと仲のいい二人の間に赤の他人である自分が入って、仲良くなれるのだろうか?
中学生のとき、自分から他人に話しかけるのが苦手で、相手から話しかけられても緊張してしまう、口下手な誇白は、学級委員という肩書きを持っていながらあまりクラスメイトの中に馴染めなかった。
言ってしまおう。
彼は典型的な陰キャなのである。
いや、ここは逆に冷静に考えてみよう。
皇くんは……明らかに陽キャの香りがする。
よく浅川くんと話しているのを見るけど、常にツッコミ役で攻撃的なイメージがある。
ちょっと怖い。
浅川くん……はあんまり怖くない気がする。
常に聴き役に徹していて、青色の髪を持っているからくるイメージなのか大人っぽくて静かな人といった雰囲気がある。
よし、ここは一つ、浅川くんに話しかけてみよう。
「あ、あの、浅川く……」
誇白は必死に話しかけようとしたが……
「瑠真! 梨良! 学食行こうぜ! この学校のメロンパンがめちゃめちゃ美味いって口コミに書いてあったんだよ!」
「メロンパン売ってるんだね!」
「そうなの? じゃあお金渡すから僕の分も買ってきてよ」
「俺は一緒に行こうって言ったんだけど聞こえなかったのかなぁ?」
「梨良は一緒に行く〜!」
紅葉に遮られてしまった。
(あぁ、また一人になっちゃう……!)
誇白が少し焦っていると、頭の上に何かが乗る感覚がした。
「なにビクビクしてんの?」
雷輝が肘を置いたのだった。
雷輝と誇白の身長差は11センチであり、雷輝からしたら誇白の頭は肘を置くのにちょうどいい高さなのだろう。
「入学してすぐだから、午後は授業ないでしょ? 一緒にご飯、食べないの?」
雷輝は、グレーの少し荒んだ瞳で誇白の紫色の目を見て言った。
「あ、う、うん! ご飯、食べようか!」
自分から話しかけてくれる雷輝を見て、誇白はなんだか嬉しくなった。
一方、黎の方は翠々夏に話しかけていた。
「部屋が一緒になった月影黎という者よ。これからよろしく」
ルームメイトに挨拶くらいはしておきたかったのだ。
「よろしくね! 黎ちゃんって呼んでいいかな?」
「えぇ。あなたは?」
「草薙翠々夏っていうの。入試主席に挨拶していただけるなんて嬉しいな」
「そんなに優秀なものではないわ。共に高め合っていきましょう?」
「そうだね!」
可愛らしい方ね、この方ならお友達になれそうだわ、と、黎は純粋に思うのだった。
今までもこんな雰囲気の人とはよく関わってきたが、声から髪から表情まで、ここまで美しい人はあまり見なかった。
すると、翠々夏がいきなり両手を合わせ『そうだ!』と言った。
「ねぇ、黎ちゃんはお弁当持ってきてるかな? もしよければ、どこかで一緒に食べない?」
翠々夏の誘いに、黎は少し戸惑った。
本当なら誇白と食べようと思っていたのだが……いや、心配はいらないようだ。
黎の目に、雷輝と共に教室から出て行く誇白が映った。
新しい友達ができて、姉の誘いなど余計なお世話であるのが見える。
「お誘いありがとう。ちょうど弟がそこで浮気をして、1人でご飯を食べることになりそうだったの。ぜひ、ご一緒させていただきたいわ。
「ほんと? ありがとう!」
返事をした翠々夏の表情はとてもキラキラとしており、こんな人と一緒にいては私は邪魔者になってしまうと思う黎なのであった。
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