【8色目】最初の放課後 〜黒と水色の1.5日目〜

黎は今悩んでいた。


なぜ自分が初日の放課後に担任に呼び出されなくてはならないのだろうか。


誇白と帰ることになっていたというのに。


入学式の挨拶に不備でもあったのだろうか。

それか、さっさと降壇したいと本当に口に出してしまったのだろうか。


そして、誇白にはまた気を使われた気がする。


先生に放課後残れと言われたことを伝えたら


『僕も今日は用事があったんだ! ほ、ほら、黄之瀬くん、あの人、プリント類置きっぱなしで帰っちゃって……先生に届けてねって言われてるんだ! 僕も先に帰ってって言おうかなって思ってたよ』


と言われた。


本当なんだろうか。


こうして疑っている間に、教室からは自分以外の生徒はいなくなっていた。


そして、静まり返った教室に、ガラガラと音を立てて、先程の半泣きになっていた顔とは違った、少し堂々とした雰囲気の立花がやってきた。





「学級委員……?」

「そう。学級委員」


普通なら戸惑うところだが、黎は、すぐに結論を出すことができた。



入学試験で、また両親の誇白への信頼がなくなってしまった今、自分が学級委員なんてやろうものなら彼はもっと失望されてしまう。


私は……親のことは好きじゃない。

だからむしろ嫌われたいのだ。


けれど誇白は親へしっかりと尊敬の念を持っている。

本当は私なんかより誇白が優遇されるべきなのだ。



「なんだ、そんな話ですか。私は興味ないです。他を当たってください」


黎は、キッパリと断った。


「えぇッ……⁉︎ そ、そんな…… あ、ごめんね。こんなふうに言ったらダメだよね。わかったよ。ちゃんと嫌だって言ってくれて、ありがとう!」


立花は、一瞬戸惑った顔になったが、再び堂々とした表情に戻った。


しかし、黎は疑問に満ちた表情になっていた。


「……私が嫌だと言ったら、あてが一つ無くなるのに……『ありがとう』と言ってしまっていいのですか?」


自分だったらありがとうなんて言わない。

『ごめんね』とだけ言ってその場を去ってしまうだろう。


「あっ、そ、そうだよね? やっぱ変かな? でもね、実際僕がありがとうって言ったのには、ちゃんと意味があるんだよ?」


「意味……」


「えっと……君が嫌だってちゃんと言ったってことは、自分の意見をしっかり言えたってことでしょ? つまり、『他の人の意見に流されるんじゃなくて、自分の意志で決断を出してくれたから』っていう意味……かな?」


「……!」




中学生時代の黎は、三年間ずっと学級委員をやっており、生徒会長も務めていた。


誇白も……学級委員をやっていたし、生徒会にも入っていたが、黎の方が優れた成績を収めていたため、親にはそこまで見られていない存在だった。


どちらも全ては親にやらされたことである。


両親の頭の中には、『黎たちがどうしたいか』ということを考える部分がない。


けれど、立花はその部分を、成長する過程でしっかりと手に入れているようだ。


最初に黎に声をかけた理由は、彼女の履歴書を見たときに、とても自主性のある生徒だと思ったからだろう。


履歴書を見ただけじゃ、やらされていたという事実は伝わらない。


事実を知らないのに、私の意見を一番に考えてくれていたのか……


黎は少し嬉しかった。

今までは全部押し付けられていたのに。

今日からは自主性の真似事をしなくていいのか。





「……誇白」


「え……今なんて?」


「彼が学級委員の称号を欲しがっているかもしれません。誰が学級委員でも構いませんが、事実的なリーダーは私が引き受けましょう。」


「……ん? つまりどういうこと?」


「もし、欲しがった場合は、学級委員の肩書きは誇白くんにあげてください。私は、肩書きのない学級委員になります」


「……ん? わかったようなわからないような……」


「それでいいですよ。しばらく経てば多分わかります」


黎は、それだけ言い残すと、教室から出た。


取り残された立花は……


「やっぱこのクラス、不良しかいないのかも……」


と、小さく呟いた。

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