【7色目】Arco iris 〜7色の1日目〜
出席番号決定試験の次の日は入学式だった。
『新入生代表挨拶、新入生代表、入試主席、月影黎』
「はい」
出席番号決定試験で1番になったということ……それはつまり全生徒の中で一番の成績を収めたということである。
つまり、黎は入試主席なのである。
「青い空は澄み、緑の草木は美しく、私たちの胸の内に秘めた炎は真っ赤に燃え盛るこの日に、この虹ノ森高校に入学できることを、私たち新入生一同、心から嬉しく思っています」
黎の挨拶を聞きながら、新入生たちがざわつく。
『あの子、入試主席だって』
『マジ? めちゃめちゃ美人な黒の魔法使いだな』
『なんだかイケメン風吹いてるねぇ、あの子』
黎は『1日で仕上げた、すごく適当な原稿を読み上げるだけの、こんな薄っぺらい時間、さっさと済ましてしまいたいわ』と口に出さないようにするだけで必死だった。
言ってしまえば正直こんなことはしたくないのである。
入学式の最中、体育館の隅っこでは、軽い事件が起きていた。
「虹寮生が1人行方不明……?」
「はい、
黄の少年……もとい、黄之瀬雷輝がいないのだ。
しかし……
「上流魔法使いは魔法は上手く使えても観察眼はないみたいだな」
雷輝は、体育館にいたのだった。
けれど、他の生徒と同じように座っているわけではなく、天井の梁の上で胡座をかいていた。
「大人はほんとに馬鹿だよ。クソ親父もお母さんも、先生たちも」
そして、起きていた事件は一つだけではない。
「赤と青が出席していないだって⁉︎」
「ほんとにすみません……」
時は少し遡り、この日の朝のこと。
「もー……紅葉のせいで遅刻しそうじゃ〜ん」
「お前が俺のこと起こしに来なきゃよかっただけの話だろ⁉︎」
2人は今、走っていた。
瑠真の家と紅葉の家は近所である。
紅葉が寝坊するだろうと思った瑠真が、紅葉の家まで起こしにきたところ、案の定爆睡していたため、朝食を食べさせたり歯磨きをさせたりしている間に、時間が過ぎていって遅刻寸前なのだ。
「出会ったときからそうだけど、やっぱお前意味わかんねぇわ」
全力ではなく、瑠真と同じくらいの速度で走りながら、紅葉は言った。
「そうかな?俺はずっと変ってないからわかりやすいはずなんけどな?」
紅葉と瑠真だと、紅葉が早すぎて瑠真の方が足が遅いため、瑠真は全速力で走っていた。
少し息切れを感じる。
「そうやって俺と2人のときだけ一人称俺にしてみたり、ピアス開けたはいいが付けなかったりさ」
「ん〜そうか〜。君にはそれが意味がわからないって感じるんだね」
「逆に意味があるわけ?」
「わかんないや」
「は?」
そうして会話をしながら、結局彼らが学校にたどり着いたのは入学式が終わった後だった。
「やっぱ終わってたか……」
「紅葉のせいだね」
「はぁああ?」
仕方なく2人は虹寮のために用意された教室に向かった。
向かうために通った廊下は、新入生の入学を祝う張り紙や花で溢れかえっていた。
「「おはよーございまーす……」」
2人がドアを開けると、そこには5人の生徒と1人の教師がいた。
まだ席が決まっていないのか、全員立っている。
誇白と黎は2人で立っていたが、それ以外の3人はバラバラに立っていた。
「あぁ! この悪ガキども! お前らのせいで僕は怒られたんだからなぁっ!」
教室に入った瞬間に、教師がそう言い放った。
その次に動いたのは梨良だった。
余談になるが、結局あの後は3人でカフェを出て少し遊んでから帰ったのだった。
そこで3人は異常なくらい仲が良くなった。
具体的にどのくらい仲良くなったかというと、出会って1日目で呼び捨てで呼び合う仲になったほどである。
そして、入学式の後は3人で話そうということになっていたのだった。
「も〜う! 2人とも遅いよ〜! 梨良めっちゃ寂しかったんだからぁ!」
2人は『ごめんごめん』と言いながら梨良の近くに歩み寄っていく。
その様子を見た教師は
「そこっ! 喋らないで! はい、席に着く! あ、まだ席ないんだった…………もう……なんで初任の教師にこんな寮……」
と言った。
教師は注意をしながらも半泣きである。
その教師は、水色の髪をウルフカットにしており、ブラウンの縁のメガネをかけた、身長の高い青年だった。
「全員揃ったから一応自己紹介します! 僕はこの寮の担任官を務めます! 極冠 《きょくかん》
「瑠真、なんだかお前とと同じ風を感じるよ?」
「僕はあんなに可愛らしい性格はしてないね」
「え、えっと、先生、大丈夫ですか?」
緑の少女が問いかける。
「ごめんね、ほんとに。えっと……は、話を切り替えましょう! まず、最初に、ホームルームをしたいと思います! 皆さんの座席を発表させていただきます!」
座席の発表が決まり、全員が席についた。
最前列は4人で、右から黎、梨良、紅葉、瑠真の順だ。
「僕と梨良が前ってことは身長順ではないみたいだよ?」
「ふふん、ちっちゃくて可愛いのが梨良のいいところだもん!」
「お前よくそれデカい声で言えるよな」
実際、梨良の身長は137センチメートルしかなく、瑠真の身長は181センチメートルもあるのだった。
そんな会話を前列がしている間、後列の真ん中になった誇白は静かに怯えていた。
両隣が怖すぎる。
左には入学式に出席していなかった不良、右には入学式のときにとんでもない美声で校歌を歌い上げていた美少女。
どちらも誇白からすれば怖い存在である。
「えっ……と……月影くん……であってるかな……?」
「ひゃああい⁉︎」
右隣の少女に話しかけられた誇白は少し大げさに驚いた。
「うーんと、びっくりさせちゃったかな?ごめんね?」
「えっと、あの、あのあのあの……そんなことはないんですけど……っその……初対面の人と話すの、ちょっと苦手で……」
「あ、そうだったんだね。驚かせちゃってごめんね?」
「い……いえ……」
そもそも誇白は他の人と話すことに免疫がない。
こうして会話をしてるだけでも大変なのだ。
しかし、誇白は少し勇気を出した。
「その……お名前は?」
「わたしは
「そう、翠々夏さん……」
誇白は名前を言ってからハッとした。
初対面の相手を下の名前で呼ぶのはあまりよろしくない気がしたからだ。
「ごめんなさい、草薙さんって呼んだ方がよかったですよね……」
「え? そんなこと、全然ないよ? 逆に下の名前で呼んでくれて嬉しかったよ!」
「そ、そうなんですね、ありがとうございます……」
こうしてホームルームの時間は終了した。
そして、その直後に、いきなり放送が始まった。
『新入生の皆さん、最初のホームルームは終わったかな? 私はこの学校の理事長、虹ノ森遥です。今日の日に君たちを迎えられたことを本当に嬉しく思っています。ここからの日々は、きっと面白いものになることでしょう。さて、話は変わりますが、虹……それができる前の空がどんな色か知っていますか?そうです。どんよりとして、雨が降っているんです。けれど、私はその色こそ世界で一番美しい色だと思っています。なぜなら、その空がなければ、美しい虹はできないからです。今のあなた方は、虹が出る前の空です。』
『まだ掛かっていないArco iris……虹を、君たちが美しく完成させることを私は祈っています』
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