【4色目】出席番号決定試験 〜白・黒の0日目〜

東には、少女が1人。

黒いセーラー服を着て、腰にワインレッドのコルセットを締めており、前髪は黒で、後ろ髪は、内側が黒で外側が白になっている。

少し気難しそうな少女だ。


西には、少年が1人。

白のパーカーを着て、メガネをかけており、前髪は白、後ろ髪は黒色になっている。

メガネの奥に、臆病そうな瞳を隠した少年だ。


2人とも、白黒の髪と紫色の瞳を持っていた。


少女と少年は向き合い、礼をしたあと、互いに『お願いします』と言った。


2人は一斉に顔をあげた。


そして、


黒の少女は、気高さのある凛とした声で

『受験番号8989892番、参ります』


白の少年は気が弱そうな小さな声で

『受験番号8989891番、参ります』


と、高らかに宣言した。


すると、どこからともなく『器を用意せよ』という音声が流れた。


白の少年は、着ていたパーカーのフードを取り外し、手に持った。


黒の少女は、セーラー服の襟を取り外し、手に持った。



『健闘を祈る。試験、開始』


その声を合図に、2人は手に持ったフードと襟を空中へ放り投げた。


二つは空中に浮かび上がり、そのまま静止している。

少女が投げた襟は漆黒によどんでおり、少年が投げたフードは真っ白に輝いている。


黒は闇を司る色。

白は光を司る色。

黒と白の場合、互いに侵食し合うため、互角の勝負ができるはず。


「本当に2人でりあうことになるとは思ってなかったわね」


自分の投げた襟を見上げて、黒の少女が言った。


「僕も、本当はれいとはあんまり戦いたくはないんだけど……」


白の少年が、少し俯いてそう言った。どうやら黒の少女の名は黎というらしい。


「私だって嫌だけれど……仕方ないわよ。この出席番号決定試験、私たちは2人で勝ち抜いて、虹の一番と二番は私たちがならなきゃいけないって、あのクソお父様が言ってたんだもの」


腕組みをしたまま、黎は話していた。


「さぁ、おしゃべりはこのぐらいにしておきましょうか。そろそろ気の短い方達は呆れてしまう頃ね」

「そうだね……じゃあ、は、始めようか?」

「えぇ。手を抜くのは逆に失礼だと思わないとね」

「うん……えっと、お互い、全力で、だよね?」

「そうね」


その言葉を最後に、試験中、2人が会話をすることはなかった。


まず、黎が投げた襟からは、黒い塊が飛び出した。

ドス黒い暗雲のようなそれは、黒く輝く闇の魔力の塊だ。


次に、白の少年が投げたフードからは白い塊が飛び出した。

真っ白で純粋なそれは、白く輝く光の魔力の塊だ。


そして、その二つはぶつかると、白い塊はもっと光に近く、黒い塊はさらに黒くなった。



ここで一つ解説になるが、黒の魔法は闇の魔法、白の魔法は光の魔法だ。

白は全ての光を跳ね返す色。黒は全ての光を取り込む色。


魔法には色がついているが、色というのはそもそも光によって発生するものであるため、黒と白が戦闘するときには、他の戦闘とは少し違った状況が生まれる。


わかりやすく言えば、黎が放った黒い塊は光を吸い込み、さらに深い黒に、白の少年が放った白い塊は光を跳ね返して、さらに純粋な光になっていく。


そして、光を吸い込んだ黒は、黎が生み出したときの黒よりも、より純度の高く強い闇になっている。

それと、光を跳ね返した白も、白の少年が生み出した白よりも、より純度の高く強い光になっている。


つまり、この2人が戦う場合は、奪い合いをするのである。


お互いの放った魔力の塊を追いかけ合い、お互いの持つ魔力を高め、黒ならより深い闇に、白ならより明るい光にしていく。


要するに、これは駆け引きだ。


どちらの方が先に塊を完成させるか。

どちらの方がより質の良い塊を作り出せるか。

そちらの方が正確にその魔法を操れるか。



そして、先に魔力をぶつけようとしたのは白の少年だった。

少年は、なんの前置きもなく、いきなり無言で光を投げつけた。


しかし、黎にはそれは通用しなかった。


黎は、軽々とそれを避けた。


そして、光の塊がぶつからなかったことに動揺した白の少年に、自らが作り出した闇の塊を放り投げた。


『試験終了、勝者、8989892番』


それを聞いた黎は、先ほどまでの真剣な表情とは違った『まずい』といったような顔を浮かべた。


「ごめんなさい……! 私また……!」


白の少年は、そんな黎の表情を見ると、


「いや、大丈夫だよ。逆に、黎が勝ててよかった。僕も自分のことばっか考えてたから投げ方下手くそになっちゃって……」


と、笑顔で言った。


「最初の試験はあなたが勝ってね。私なら大丈夫だから、変な気を遣わないで?」

「そんな、僕はちゃんと全力だったよ。だから、黎の方こそ気にしないで?」


こうして試験は幕を閉じた。

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