【2色目】出席番号決定試験 〜黄・緑の0日目〜

東には、少女が1人。

裾の長い、緑色の学生服を纏っており、その下に履いている緑色のロングスカートが、よく似合っている。

美しい金髪を持った美少女だ。


西には、少年が1人。

黄色のマフラーを上半身ににグルグル巻きにし、薄いブラウンのロングコートを着ている。

少し荒んだ目をした少年だ。


少女と少年たちは向き合い、礼をしたあと、互いに『お願いします』と言った。


2人は一斉に顔をあげた。


そして、


緑の少女は鈴を転がすような美しい声で

『受験番号52947番、参ります』


黄の少年はやる気のなさそうな声で

『受験番号900番、参ります』


と、高らかに宣言した。


すると、どこからともなく『器を用意せよ』という音声が流れた。


黄の少年は、巻いていたマフラーを手に持った。


緑の少女はというと……何もしなかった。



『健闘を祈る。試験、開始』


その声を聞いた瞬間、緑の少女は歌い出した。


緑は植物を司る色。


「遥か遠い何処かで出会う2人の話♪」


4分の三拍子の曲を、試験官が目を見張るような美しい歌声で、少女が楽しそうに歌うと、試験が開始されてから全く動いていなかった少年と少女との距離が一気に縮まった。


少年の足元にはツタが巻き付いていた。

このツタが少年を少女の近くへ運んだのだろう。


「あなたは強いわ♪とてもね♪けれども自然には逆らえないの♪」


少年はこのツタから逃れようとするが、どう足掻いても抜け出すことができない。


「伸びゆく大地と伸びゆく心♪あなたもきっと惹かれるはずよ♪」


少女の歌が続くと、どんどんとそのツタが飛びていき、少年の腰の辺りまで伸び切った。


「だから♪私は♪花になる♪」


その歌詞はとても小さく歌われた。

けれども、少女の姿は大きめな変化を遂げた。


彼女の右肩と左腰に、ピンク色の花が咲いた。


「そして伸びゆくはいつかの夢♪」


すると、その花の下からは、無数の、色々な植物のツルが伸びてきた。


そのツルは、少年の首元めがけて伸びていく


「なるほど、歌詞と行動が連動してるわけね。謳歌属か」


少年はそう呟くと、マフラーを両手で引き伸ばした。


すると、マフラーは、バチバチと音を立てて、細い鞭に姿を変えた。


黄色は電気を司る色。


「えっ⁉︎ 形が変わるの⁉︎ すごいすごい!」


緑の少女は一瞬歌うのをやめ、少年のマフラーをまじまじと見つめた。


「電気魔法流したら縮まる布使ってるんだよ。俺のオリジナル」


少年はそっけなく返すと、早速その鞭を振るった。


「けれども木々はあなたを拒んだ♪」


少女の前に、大きな木が生えた。


鞭は木に直撃したが、葉が揺れ動いただけで、ビクともしなかった。


「絶縁体か……やっぱ狙うなら本体か」


緑と黄色の場合、木は絶縁体の一種であるから、どちらかというと、緑の方が有利になる。


少年は、また再びバチバチと音を立てて、その鞭を変形させた。


鞭はレイピアのような、細長い剣のような形になったのだ。


「勝利とかはどうでもいいけど、なんか、ちょっと久々に本気出そうかな」


少年は、そのレイピアで、少女の前にある木をひと突きした。


凄まじい威力の突きは、その木を爆破させた。

絶縁体も、強すぎる電流が流れれば、破裂してしまうことがある。


「絶縁破壊⁉︎ やだ! 初めて! びっくりしちゃう!」


少女はまた歌うのをやめてしまった。


少年はその隙をついて、燃える木を乗り越え、少女の喉元に静電気を浴びせた。


『試験終了、勝者、900番』


「ごめん、痛かった?」


黄の少年は、試験が始まったときと同じような少しかったるそうな表情で、少女に問いかけた。


「ちょっとチクッとしたけど、大丈夫……です」


少女は少し気が弱いようだ。


「綺麗な歌だったね。じゃあまた」


少年は、それだけ言うと立ち去ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る