【1色目】出席番号決定試験 〜赤・青・紫の0日目〜

西には、少女が1人。

紫色のような、ピンク色ような、曖昧な色の髪の毛をツインテールに結い、紫色の学生服を纏っている。

可愛らしい、小柄な少女だ。


東には、少年が2人。

1人は、低身長で、赤色の手が隠れるほど袖の長い上着に、ダボダボの赤色のズボン、髪の毛とインナーのタンクトップ以外は全て赤で揃えている。

一見女の子のような少年だ。

もう1人は、高身長で、青色の長い髪を一つにまとめ、グレーのカーディガンがよく似合っている。

細身の美少年だ。


少女と少年たちは向き合い、礼をしたあと、互いに『お願いします』と言った。


3人は一斉に顔をあげた。


そして、


紫の少女は高くて可愛らしい声で

『受験番号915番、参ります』


赤の少年はまだ声変わりのきていない少年らしい声で

『受験番号23620番、参ります』


青の少年はもう大人と同じようになったその声で

『受験番号4478番、参ります』


と、高らかに宣言した。


すると、どこからともなく『器を用意せよ』という音声が流れた。


青の少年は束ねていた髪の毛を解き、その中から2本の髪を引き抜いた。

赤の少年はこぶしてのひらを合わせたあと、右手を前に差し出し、攻めの構えをとった。

紫の少女はというと……何もしなかった。



『健闘を祈る。試験、開始』



その声を合図に、少年たちは飛び出した。


青は水を司る色。

赤は炎を司る色。


青の少年が抜いた髪の毛をクロスさせると、その髪の毛は水圧で衝撃を与える、流水の剣になった。

赤の少年は、袖の先から足元まで、みるみるうちに真っ赤な炎に包まれた。


「寄りすぎんなよ、瑠真りゅうま

「わかってるよ、紅葉くれは


2人は小さく短い会話をした。

青の少年は瑠真、赤の少年は紅葉という名前らしい。


2人は背中合わせに立ち、瑠真はそのきっさきを、紅葉は袖の先を、紫の少女に向けた。


それを見た少女は、目を輝かせた。


「2人ともすごく強そう!それなら梨良りらも、本気でやらせてもらうから!」


少女の名は、梨良というらしい。


「いくよっ!マーブルっ!」


少女がそう言うと、スカートの中から、2本の透明な大きい管と、2本の先が尖った小さい管と、2本のまっすぐで小さな管が飛び出した。

大きい管の中には細い赤色のチューブが入っているが、外側にある透明な部分の方が面積が大きい。


瑠真と紅葉はあっけにとられていた。

もし彼女の器が赤色のチューブではなく、その外側の管だったとしたら、色がなく、透明なので、彼女の持つ色が何色なのかわからない。


「紅葉、いけば?」

「まだどっちが適正なのかわかんないじゃん」

「だから君がいけばいいと思うんだよ」

「意味わかんねぇし! あのでっかいやつなら赤色入ってるんだし、瑠真がいけばいいじゃん!」


2人が押し付け合っていると、


「それがどっちも適正じゃないんだな」


梨良が誰にも気づかれないような小さな声でそう言うと、赤色のチューブから炎が上がった。

そして、その炎が、大きな管を溶かし、人間の手のような形に変形させる。


「ほらやっぱり赤じゃん! いってらっしゃい!」

「ほんとだ。いってきまぁす」


瑠真は、右側の大きな手に切り掛かった。


その直後だった。


「うん、今日も正常運転だね」


瑠真の剣は軽々と弾かれた。


「梨良の器用さは、多分、世界一!」


そう言った梨良の大きな手の右側は、緑色になっていた。


緑色は植物を司る色。

青と緑の場合、水は植物によって吸い上げられてしまうため、緑の方が強くなる。


「さっきまで赤だったのに……面白いね」


瑠真は顔色ひとつ変えずにそう言った。


「それなら俺の出番かなっ!」


すると、気づいたら梨良の後ろに回っていた紅葉が、その拳を大きな手の左側に叩きつけた。


しかし、その攻撃も、虚しく弾き返された。


大きな手の色が変化している。


右側は緑に、左側は青になっている。


そして小さな尖った管の色も、透明から紫に変化していた。

紫は、毒を司る色。


「この子、何体の精霊に愛されてるんだ⁉︎」

「4色使いなんて聞いたこともないな」


2人が動揺を隠せずに口に出すと、


「でしょ〜?」


と、梨良は得意そうに呟く。


「それにこんなに使ってるのに……」

「魔力保有量もすごいみたいだね」


そう言い放って、2人は再び距離を取ろうとしたが、尖っていない方の小さな管が、黒色に変わり、細く変形して、2人の足を掴んでいた。


黒は、闇を司る色。


「距離が詰まったら梨良の勝ち!」


尖った紫の管の先が、2人の腕に刺さった。


『試験終了、勝者、915番』


「やった〜!」


その声を聞いた梨良は、とても嬉しそうにはしゃいだ。


「僕たちが2人で勝てないことってあるんだね」

「あの子強すぎでしょ!」

「ほんとだよ。今まで全勝だったのに」


瑠真と紅葉は、負けたことをあまり気にしていないようだった。


すると、その様子を見た梨良が、


「あのね、戦ってたからあんまりわかんなかったんだけど、君たちの名前って?」


興味津々で尋ねた。


「こっちのデカブツが浅川あさがわ瑠真りゅうまで」

「こっちの女の子がすめらぎ紅葉くれは

「女の子じゃねぇよ!」

「あれ、そうだっけ?」

「10年以上続いてきたこの会話をお前はまだ続ける気か⁉︎」


紅葉の最後の発言を聞いた梨良が


「幼馴染なんだね!」


と言うと、紅葉は攻撃的に、瑠真は流暢に、


「「ただの腐れ縁だよ」」


と返した。


「まぁ僕らの話は置いといて、」

「置いとくなバカ!」


「君の名前は?」


その声を聞いた梨良は、目を輝かせた。


「アタシ?纛沱とうた梨良りら!」

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