Arco iris 〜この世界から魔法たちが消えるまでの物語〜
Lemon
プロローグ
昔話をしても良いだろうか。
……返事をしないということは話していいということだな。
イエス様が誕生したあの日より、恐竜が暴れていたあの時代より、この地球が出来上がったあの瞬間より、それよりもずっと前のこと。
私たちが住んでいるこの世界に、地球によく似た一つの世界があった。
それは現在の世界の並行世界のようなものだった。
人々は働いたり、学校に行ったり、休日はグダグダとゲームをしたりと、私たちとあまり変わりない生活をしていたが、一つだけ明らかに違う点があった。
その世界には、魔法というものが存在していたらしい。
その魔法の正体は、何億、何兆と、その世界に存在していた精霊たちだった。
彼ら、彼女らは、非常に個性が豊かで、一体一体違った色を持ち、その色によって持つ能力が違ったという。
精霊たちは、基本的には幼い人間や野生動物などにだが、
『この人なら私の色でいい人生を送れそうね』
『こいつなら俺の色を最大限に活用してくれる』
そう確信した者の中にその身と魂を宿して生きていた。
精霊たちは自分の欲に正直だ。
気に入った体以外に入ることはなかった。
どの精霊にも気に入られることがなかった者もいれば、何体もの精霊に愛された者もいた。
ただ、精霊が気に入ったその体、つまり魂の器が、精霊との相性がいいとは限らない。
例えるのであれば、気に入った服の色は赤色だが、赤色はその人に似合った色ではないといった出来事に近いだろう。
より自分に合った精霊が自分の体を気に入ってくれるほど、その者の力は強くなるのだ。
そしてもう一つ。
彼らは基本的に人間の目には見えない姿をしていた。
だがしかし、私は先ほど、精霊たちは一体一体違う能力を持っていると申しただろう。
精霊たちは、宿主の体の中から、宿主の体に触れている自分と同じ色の物質に自らの力を流すことによって、宿主の命を助けると同時にこの世界に姿を表していたのだ。
人々は、精霊が力を流し込むその物質のことを器と呼んだ。
宿主たちは、器に彼らが能力を流すタイミングや量などを調節できるようにならねばならなかった。
そして、不器用な人間と器用な人間がいるように、精霊にも器用な者とそうでない者がいる。
器は、小さければ小さいほど、宿主が指示を出すことも、精霊が力を流し込むことも難しくなってくるのだ。
しかし、精霊たちも人間と同じように成長することができる。
たくさん練習を重ねることで、より小さい器に能力を流し込むことができるようになっていった。
まぁ、天才的な能力調整の才能を生まれた瞬間から持ち、最初から才能のある精霊と体を共にしていれば、練習など必要ないのだが。
あぁ、そういえば、これはあんたにとっては昔の話であったな。
長々と語ってしまって申し訳ない。
そう、これは、気が遠くなるほど大昔の話だ。
しかし、ここまで聞いてしまったら、気になるのではないのだろうか。
『なぜ精霊たちはこの世界から消えてしまったの?』 と。
……いや、あんたのその疑問は間違っちゃいない。
けれど正しく表現するとしたら、その疑問はこうあるべきだ。
『なぜあなたたちはこの世界から精霊たちを消し去ってしまったの?』 とね。
興味が出てきたかい?
まぁ、あんたの興味がなくても、私は話すけれどね。
何?聞く気はないだって?
知ったことか。老人には敬意を表すものだよ。
さて、もう少し昔を語らせていただこうか。
これは、自分達の信念を貫き通すために、苦しみ、叫び、踠き、泣き、笑い、愛し合った7人の少年少女の物語だ。
こんな老いぼれの語りだが、その気になったら聞いていっておくれよ。
さぁ、どこから話そうか……
……そうだね、やはり、彼らの縁の始まりから、だろうか。
一番最初は、出席番号決定試験だったね。
たくさんの観衆の中、彼らは試験を受けていたのさ。
あれは、後々考えてみれば、とても大切な日だったんだろうね。
だって、この日がなければ、魔法が消えることはなかったんだからね。
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