第2話
「俺の上官がまた『混血』の部下に暴力を振るった。自分の仕事が上手くいかなくて機嫌が悪いからと、ただそれだけの理由で……」
「お前の上官って、あの先祖代々お貴族様っていうあのいけすかない奴だろう。……ったく、ほんと懲りないのな」
額を押さえて呆れたように溜め息をつくリカンに、シオンも小さく頷く。
リカンの言う通り、シオンの上官は「貴族」と呼ばれている生まれながらのヴァンパイア――純血と呼ばれる生粋のヴァンパイアであった。
彼らはシオンたちが住むヴァンパイアの国の礎を作ったとされる祖先を持つ一族と言われており、ヴァンパイアの王から与えられた爵位と生活に困らない莫大な資産を持っていた。
富裕層が住む城下町で大勢の「混血」の使用人に囲まれて悠々と暮らし、何の苦労も無く先祖から譲り受けた要職に就き、「混血」の部下たちを使い捨ての道具のように使っていたのだった。
人間を始めとする他の種族の血が一切流れていないことを誇りとし、ヴァンパイアこそこの世の全てだと思っているような集団であった。
対して、シオンやリカンたちのように貴族によって他の種族からヴァンパイアになった者たちは「混血」と呼ばれていた。
貴族たちが吸血した際、本来なら失血死するまで吸われるはずが運良く一命を取り留めた際に、貴族の体液が体内に残っているとまれにヴァンパイアに転化する。
貴族より力は劣るものの、自身の血を吸った貴族の力を半分受け継ぐ同じ存在――ヴァンパイアとなるのだった。
混血たちは貴族のヴァンパイアたちが造った国に住むことを許されるものの、貴族とは違って要職にはつけず、騎士団の下っ端や役人の使い走りとして働き、時には暴力や暴言に晒されて虐げられる存在でしかなかった。
贅沢三昧な生活を送れず、下町で慎ましやかな暮らしを送る混血たちは、貴族たちが制定した理不尽な法律と不平等な税率で縛られ、それらが守れなければゴミのように扱われていた。
貴族たちは混血たちを見下し、またそんな貴族たちに混血たちは不信感を抱いていた。
ヴァンパイアによる王国が築かれて数百年が経ち、その溝は深くなるばかりであった。
「その殴られた部下っていうのが、俺の直属の部下なんだ。それでつい頭に血が上ってな……」
「まさか、上官を殴ったのか!?」
シオンよりも濃い色をした赤い瞳を見開いたリカンに、シオンは首を振って否定する。
「そんなことをしたら俺まで上官と同じになるだろう。拳を握りしめて耐えたんだ。耐えたんだが……」
その時のことを思い出して、シオンは拳を握りしめる。
「とにかく部下を引き離さなければならないと、二人の間に入ったんだ。その時、間の悪いことに上官の拳と我慢の限界に達した部下の拳が同時に飛んできた。そうしたら……このざまだよ」
シオンが首元を緩めて襟をはだけさせると、両頬の下から首元に掛けて治りかけの打撲痕が左右合わせて二箇所あった。
傷痕を見たリカンは「うわぁ……」と言葉を失った。
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