第4話
「一体どうなっているんだ!? 混血院を解散!? 騎士団や政治の中心部に居る混血たちを全員地方に転属!? 更には混血に対する税率を四割上げるだと!?」
「それだけじゃないぞ。早朝以外の混血の外出を禁止。娯楽施設や商業施設、図書館や博物館への立ち入り禁止、指定した学校以外への入学も不可とするだとよ!」
「何を考えているんだ。貴族の奴ら……」
そんな混血たちの嘆きを聞きながら、シオンは御触書を何度も読む。
「どうやら、今回は相当ヤバい法律を制定したらしいな」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろう。リカン、一度騎士団に戻らないか? 騎士団の人事にも動きがあったかもしれない」
「同感だ。急ごう、シオン!」
二人は踵を返すと騎士団まで駆け出す。やはりと言えばいいのか、騎士団の入り口にある掲示板にも同じ御触書が貼られており、混血の騎士たちが動揺していたのであった。
先程の掲示板との違いは、御触書の隣に騎士団の転属一覧が貼られていたところだろう。騎士たちの狼狽は御触書よりも転属によるものが大きかった。
「嘘だろう……!? バールスト卿が辺境の砦に転属!? モルト卿も!?」
「混血たちの英雄が悉く城下を離れるのか!?」
「いや、英雄たちに限らない。オレたちの名前もあるぞ! 貴族たちは城下から混血を全て追い出そうとしているのか……?」
騎士たちのどよめきを聞きながらシオンも自分の名前を探す。自分で見つけるより先に傍らのリカンから「あったぞ」と低い声で教えられたのだった。
「お前とおれの名前を見つけた……どうやらおれたちも例外じゃないらしいな」
リカンの指が示す先を見れば、転属者の中にシオン・ヤマト、リカン・ヤマトの名前が並んで書かれていた。
こういう時、姓が同じだと探すのが楽で良いと、場違いなことを考えてしまう。
「俺が国外に住むヴァンパイアたちを相手にする治安部隊、リカンが西方の砦か」
「治安部隊なんて体良く言っているが、ほとんどはヴァンパイア化した混血の保護や、人間たちを襲うヴァンパイアたちの始末だろう。汚れ仕事も良いところだな」
治安部隊と格好つけた名前ではあるが、実際のところはリカンが言ったように貴族たちがやりたがらない汚れ仕事を請け負う部隊である。
貴族に血を吸われてヴァンパイア化したばかりの混血は、自我を忘れていることが多い。これまで感じたことがない喉の渇きを潤そうと、手当たり次第に人間や生き物たちを襲っていく。
混血に血を吸われただけならヴァンパイア化はしないが、加減を知らない分、致死量まで血を吸い尽くしてしまう。
そうなる前に混血のヴァンパイアを保護、場合によっては始末するのが、治安部隊の仕事であった。
他のヴァンパイアたちからは「同族殺し」と罵られるため、進んで治安部隊に所属を希望する者はほとんどいない。
「昼間の意趣返しかな」
「シオン……」
「お前が気にすることじゃない。そうだ。転属になるなら、サラとレイラはどうする。一緒に連れて行くのか?」
「そのことなんだが……。いや、やっぱりうちに来ないか。一杯くらい呑んでいけ」
それだけ言って背を向けたリカンから、ここでは話しづらい内容なのだとシオンは察する。騎士団の家族官舎に向かうリカンに続くように、シオンも転属一覧から離れたのだった。
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