第4話

入院前に体育祭と文化祭があって、今日は体育祭があって明日から文化祭だ。正直言うと体が持たないかもしれないが、この2つの行事に参加してから入院したいと思った。

今日は体育祭日和で心地よい日差しがあり、冬なのに少し暖かくて気持ちいい。体育祭はサッカー部の天然芝生で開催される。

同じクラスの柊 桃菜ひいらぎ ももなが声をかけてきた。

「雪!彼氏のところに行きたいから一緒に来て?」

「いいよ!いこいこ!」

桃菜は私の病気を知っていて、入学したとき桃菜が私に声をかけてくれた。だけどその一声が

「雪の顔好き!可愛い!」

だったのだ。あまりにも驚きこんなに私のことに関心を持ってくれるのは初めての人だった。それに桃菜は明るくて可愛いし、人の懐に入るのが上手い。最近彼氏ができて、よく惚気話を聞く。私は桃菜が楽しそうに顔を赤らめながら彼氏の話をするから幸せだ。友達の幸せは私にとっても幸せ。桃菜には愛する人がいる。私は……。

口元をキュッと結び桃菜と一緒に桃菜の彼氏が出ている障害物競走を観に行った。

「ひなくーん!頑張れ!!」

桃菜の彼氏のひなくんこと水谷 陽みずたに ひなたはサッカー部でも1年生ながらトップチームに所属していて努力を惜しまない。多分イケメンの枠には入るのだろう、普通にかっこいいし、身長も高くモデルみたいにスラッとしていてとてもスポーツマンには見えない。

水谷はぶっちぎりで独走していて借り物競争の最後のお題で誰かをキョロキョロ探している。こちらに視線がぶつかり、私は桃菜のことを指差し水谷は、ハッとしてこちらにむかってきた。桃菜は気づいておらず水谷が

「もも。」と声をかけやっと桃菜は目の前にいる彼氏に気づく。

「ごめん。桐崎さん。しばらくもも借りるね。」

と言い、私はうなずくと水谷は桃菜をお姫様抱っこし、ゴールテープに向かい1着でゴールした。その場にいた人達は黄色い歓声を出し、桃菜は遠くからでも分かるくらい顔を赤く染めていた。可愛いなと思っていたら次のレースが始まり私を呼ぶ声がした。

「ゆっきー!俺頑張るけんー」

花圭琉かけるか!頑張れー」

「棒読みやめなはれ!あはは!」

葉月 花圭琉はづき かけるは蓮と同じバスケ部で同期。なにかといつも蓮につっかかり、蓮のことをイジり、イジられる存在。と思っているともう1人知っている顔が……。

「おい。雪。俺のことも応援しろ。」

「蓮は応援しなくても足速いからいいじゃん」

「だよねー!ゆっきーに相手にされてへんで、蓮。」

「チッ。まぁええで。」

「蓮くん。かっこいいなぁ。美々みみの彼氏になってほしーなぁ。」

と誰かがつぶやいた。身長は小さくて正直あまり性格は良くなさそう。たしかこの子学科でも有名になったあのぶりっ子に特徴が全て似ている。先生を困らせ、1日実習のときは男子で自分の言うことを聞く子にしか面倒をみないと言われていた。また人の彼氏をとったり、女子の悪口を言うらしい。まぁ私は噂で判断するより実際の人を見て判断するけど今回ばかりは噂が正解ぽい。

スタートのピストルが全体に響きわたり一斉にスタートした。

「きゃー!蓮くぅん!頑張れぇ!」 

美々という人は猫なで声で蓮のことを応援している。私はそんな姿に呆れ、桃菜のことを探しに行こうとした。すると美々という人が私の腕を掴み

「桐崎さんだよね?蓮くん私のこと好きらしいんだぁ。だからさっさと消えて。」

と満面の笑みで私の腕を力いっぱい握り、捻ろうとしてきた。正直病気のこともあっていつもの倍以上に痛くて失神しそうになった。そのとき

「なにやってんの?お前。」

と汗を流して美々という人の腕を掴んだ蓮がいた。そして

「お前こっちこい。」

「きゃー!蓮くぅん!」

蓮は美々という人の腕を掴んでゴールテープに向かって走る。

「……そっか。」

男の人には女の人の悪いところなんか見えないものよね。私はドス黒い感情がモヤモヤと出てきてしまった。

そのとき

「ゆっきー!探したで!来てや!」

と花圭琉が私の腕を掴みお姫様抱っこしてゴールテープを目指す。花圭琉は

「あとで事情話すから。」

と言い蓮を抜いてゴールした。花圭琉は私を降ろした。黄色い歓声が響き渡る。私は蓮と目が合い泣きそうになった。その間に花圭琉が立つ。

「ゆっきー。大丈夫?」

「痛い……。さっき蓮が連れていった人に腕を掴まれて捻られそうになったの……。」

と私は泣きそうになって花圭琉の背中で泣く顔を隠す。そのとき花圭琉がいきなりお姫様抱っこし、

「よし。手当てしてあげるからちょっと我慢してね。」

と私を外に連れ出そうとした。

競技審判の人が

「あの……まだ判定があるのでお待ちください。」

というと花圭琉は

「緊急で手当てが必要なので連れていきます。」

と言い私のために競技を放置してしまった。

「花圭琉……ごめん。」

「いいってゆっきー。しばらく俺の胸の中で顔隠していいから泣いていいよ。」

私はその言葉を言われた時涙がとめどなく溢れ花圭琉のTシャツを濡らした。

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