第1話

「くそー!!負けた!!」

「お前いつも同じことしかやらねぇからだよ」

体育館で響き渡る声に体育館にいるみんながこちらを見たような気がした。そんな私をケラケラと笑う男が1人。

「私これでも高校のときでも上手かったほうなのに……」

「お前は頭を使え。本能で動くからダメなんだよ」

「なによー!」

「うわー!負け犬が追いかけてくるー」

私は大学1年生のバスケットボール部に所属している桐崎雪きりさき ゆき。私は今おちょくってきたこの男

れん!!待てー!!捕まえてやる!!」

「捕まえられるなら捕まえてみな!!あはは!!」

笹原蓮ささはら れん。私と同じ大学1年生。私は関東生まれで関西弁が分からずにいたが、大学で最初に声をかけてくれた男子がコイツだった。気さくで誰に対しても優しい。無邪気に笑うそのまぶしい笑顔は女子から人気だ。

初めて会った日から何一つ変わらない。

「やった!捕まえた!!ってうわ!!」

「いたた……。二次被害なんですけど……」

「ご、ごめん!!」

私は蓮をようやく捕まえたと思ったら蓮の足につまずき蓮を押し倒してしまった。蓮の胸板に触れてしまい私はドキドキしてしまった。

「はーい雪終了!!片付けするよー」

華夜かよ〜引っ張らないで〜」

この子は沖田 華夜おきた かよ。同期で女バスのお母さん的な存在。華夜は私の服の首元を持つとそのままズルズルと女バスのコート側に引っぱた。

「また負けたの?これで何勝何敗?」

「10勝15敗です……」

「うわ……めっちゃ1on1やってるね」

「あー!!もう勝てないよ!!」

私はヤケクソにコップを洗っていく。

2人でジャグやコップを洗っている水道場で私たちの会話と水が地面を蹴る音がする。

「あんた早く告っちゃいなさいよ〜」

「華夜はいいよね。好きな人と付き合えて。」

「告白したのは私からだって……」

華夜は私と同級生の男バスの源花弥みなもと はるやと付き合っている。源は華夜の前ではデレデレで普段はクールで誰も近寄らせないほど怖いらしい。

唯一の男友達として認識されているのは蓮くらいだ。

「早く告っちゃいなよ〜?笹原くんの人気は計り知れないほどすごいから。」

と華夜ニヤついてこちらを見た。

「そんなのわかってるって。」

「2人ともいい雰囲気だけどね〜」

華夜は水道場に目を戻すとジャグを洗い終わりコップを早々に洗っていく。

「そうなの!?」

私は洗っているコップを落としそうになり、華夜がそれをナイスタイミングで拾う。

「あなたコップを落とすより蓮くんのことを落としてきなって。」

「だって〜!!」 

「だってじゃあらへん!」

私は言葉で伝えるより背中で伝えるほう。好きって言葉を出したら……

「華夜〜それ終わったらそっち手伝ってくれへん〜?」

体育館の中から叫んでくる大倉 柚月おおくら ゆづきは私たちと同期でそのなかで特にネタ担当。

「柚月。一発芸してくれたらいいよ。」

「あばら骨でギター♪︎」

と柚月はあばら骨辺りでギターを弾いているフリをした。

「あはは!……おもんな。」

「……雪の切り替えガチ怖いで。」

「柚月。面白かったから手伝うけん。」

私は笑いから一瞬で真顔になり、華夜は柚月のギャグに大爆笑していた。








真っ暗な夜私たちはスクールバスを待つ。

だいたいは同期と数人の女バスの先輩。

私は喉が乾いて自販機でポカリを買おうとするとひょこっと横から

「何買うん?莉奈りなにも買ってや!」

林 莉奈はやし りなが顔を出した。莉奈は手先が器用で高校のときはハードな練習をしていたそうで、練習がキツいとき高校より辛いことはないと言っている。莉奈は性格的に甘え上手で、私が本音を喋ることができる女バスの1人だ。

「ポカリ買うの。」

「莉奈はビタミン炭酸MATCHやな〜。えいっ」

と莉奈は自販機のボタンを押してしまい、下から出てきたのはビタミン炭酸MATCHだった。

「こら!莉奈!」

「え〜。じゃあ莉奈と一緒に飲もう?」

と首をこてんとしてこちらを見た。あざとくて可愛いからいつも許してしまう私。

「……わかった……」

「やった!!じゃあ最初サンサンから飲んでいいよ!」サンサンは私がバスケをやっているときのコートネーム。私のコートネームはサンなんだけど、なぜかみんなサンサンと呼んでくる。

「ありがとう。」

私は莉奈から受け取ったペットボトルの蓋を空けようとしたが、上手く空けることができなかった。手先に上手く力が入らない。なぜだろう……?

「やっぱ莉奈が先飲んで。私早急でメール打たないといけないの忘れてた。」

「そうなん〜?ほな空けるで〜」

プッシュと炭酸が抜ける音と蓋を空ける音がスクールバスが来る音ともに掻き消されていった。


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