第38話

 「ご苦労だったな。休んでていい。」

小隊長の彼女はそう言い置いて、部下を連れて車両の群れの方へ戻って行った。

彼女が言った協力は、けっこうすぐ終わらせてくれた。

たぶん、徹夜で戦ったことを配慮してくれたんだと思う。

少しほっとしたミリアはそれから、チームのみんなへ「休んでて」と伝えた後、ふらっと歩いて行った車両の日陰で椅子を借り座っていた。

リリー・スピアーズから来た人たちが動く中に、ブルーレイクの村の人たちが応対していたり、遠巻きにこちらを見ているようなのを・・・。

・・ミリアは、向こうでアシャカさんやダーナトゥさんたちが軍部の彼らに聴取を受けている様子も、少し眺めていた。

現在の状況を聞いたのか、アシャカさんとダーナトゥさんが目を見張った時の表情をミリアは忘れられないと思う。

特に、ダーナトゥさんがあんなにも表情を崩したのを見たのは初めてだったのだから。

たぶん、それは良い報せだ。

逃げた襲撃者たちは目算でも、70名以上はいたはずだ。

それを、軍部の彼らが到着してものの数十分で制圧し拘束していっている。

徹夜で戦ってた私たちからは、安堵のような、そしてCross Handerの彼らは驚きを感じているだろう。

聴取を開始してから、軍部の隊員が携帯端末を操作している。

軍部の大型車両の2台目が動き始めたのが見えていた。

・・テントの日陰で椅子を借り座っていた4人は、それが動くのを目で追っていた。

車両は熱射がたぎる砂漠の方へ走っていくようだ。

「なぁ、あれどこ行くんだ?」

ケイジが聴取を始めようとした軍部の隊員に聞く。

「あれは、拘束したのを取りに行くんだろう」

「はぁ、そうか・・」

ぼぉっとケイジは走行していく車両の後姿を眺めていた。

「なんだ、お前も行きたいのか?」

「・・やだよ、疲れた。」

「だろな。ご苦労さん。お前ら、とんでもない事件に巻き込まれたようだな」

彼はケイジへ、にやっと笑っていた。

ケイジはその笑顔を、眉をひそめた目つき悪く見たが。




 ――――状況は?」

エンジンの音もほぼ聞こえない車両の中で、彼は動く砂漠の景色を見ているが。

「拘束対象は集団に紛れていた模様で、徒歩で砂漠を逃げようとしていたところ、B2部隊が追跡、交戦。足は止めたんですが、現在も激しく抵抗している模様です。」

オペレーターの彼は運転席で携帯端末を操作して、現在の状況を確認している。

「今回のBはショグマンの指揮か。」

「はい。先ほどの報告のアストレイヤー1体に対して、対パーティキュラーズ隊の我々が呼ばれた模様です。」

「あー、何度も言ってるが、うちでは『特能力者』だ。そう言うとまた怒られるぞ。」

「『パーティキュラーズ』のが言いやすいんで。直します。」

悪びれた様子もないそいつだ。

「ショグマンならやろうと思えばやれるんじゃないの?あいつの所にも2、3人活きが良いのがいたじゃねぇか?」

後ろで戦闘用の装備を身に纏ったそいつらが話に入ってくる。

「無傷で捕えたいんだろ。高く評価されて嬉しいねぇ・・」

「ただのアストレイヤーじゃねぇのか?」

「報告ではただのアストレイヤーっすね、でもたぶん、えらく恵まれてるみたいっすね。」

「ほぉん?手こずるほどか?まあどうでもいいか。」

「見えてきました。」

「停めろ。ゲレス、コウディ、行くぞ」

砂を踏みしめ停車した、軽装甲車から出ていく男を先頭に、続いて男1人と女1人が降りて砂を踏んだ。

「相手は1人だ。いつものコンボで行くぞ。」

「了解、」

足を向け小走りに駆けていく。

「もうやっちゃっていいの?味方払いしとかないの?」

「そうだな。ジギー、先行隊に2個煙幕グレネード投げさせてくれ。それを合図に100Mは距離を取らせろ」

『了解。ご武運を』

「祈るほどでもねぇさ』



――――なん、なん、なんんあんんなんんだよっ・・!おまえらあぁあああぁぁぁよおおぉおおぉお!!!!」

『獣の男』の咆哮が砂漠に響く。

彼は独り立ち、仲間たちが無力化され無数に倒れた中で、距離を取って取り囲む兵士たちが今も銃口を突きつけ狙ってきている、その激情を吠えぶつける。

『軍部の制圧部隊だ。大人しく武装解除し、抵抗を・・・』

何度も投降を促す呼びかけを繰り返す拡声器の・・・ひゅっ・・・と何かが飛んできた、その男の厳めしい眼が捉えるそれは手投げのグレネードのなにか・・・、彼は瞬時に大きく跳び、距離を取・・・―――――しゅばふっ・・・っと黒煙が発生して周囲が瞬時に煙が広がった。

男はその黒煙に捕らわれない距離を一瞬で取った、煙が彼に触れることはなかったが・・・それだけで彼の肉体の性能の優秀さはわかる・・・――――。

男の厳めしい眼が、気が付き、向こうを・・そこに立つ、男2人・・毛色の何かが違うそいつらを捉えた・・・――――


充分な距離は取っている彼らは、砂漠迷彩の戦闘服に身を包んでいた。

「おうおう、見事に変形しているな」

「完全に物質模造エグジストタイプですね」

「そう見えるな」

余裕を見せるように会話するその男たちに、獣のような男は、口端から涎を垂らすほどに歪めた顔が、そいつらを睨みつけていて。

「どうだ、コゥディ、か?」

「おかしな動きは無いよ。あいつ、『』だ」

「じゃあ、そのまんまいっていいな」

「『そのまんま』だしな。責任は取らん。」

「おい援護は頼むぞ。」

「念のため、催涙でも投げます?」

「じゃあ・・ちょっと左に投げてくれ」

「いきますよ」

彼が放り投げる催涙弾のグレネードは弧を描き、その軌道を見たその獣の男は、・・弧の中腹に来る前にも逆側に跳んで逃げ距離を置く―――――

着地、する瞬間、―――――空気を切り裂き・・―――遠くから銃弾が目掛けて飛んできた―――――刹那の判断、身体を捻り・・避けたように見えたのはそいつの身体能力の所為か・・・いや、その前だ・・・一瞬で距離を詰めたその男が、目の前に既に突進してきていたのに・・気が付き・・・獣の男は身体を捻る力でそのまま回転して、爪を力強く振るう―――――

・・どんなものでも切り裂く最強の獣の爪が・・・当たらなかった・・奴が避けたのだと気が付いた・・のは、その優れた動体視力のお陰だ―――――。

獣の男は歯を、牙を、ぎりっと噛み締める・・・!・・次の瞬間には、がっ・・・と男が握るナックル-プロテクタがその『アストレイヤー獣の男』の腹に入る、鋭く入ったが、刹那の痛みは無い・・・!獣の男は痛みを感じる前に更に全身に力を入れる!

「きか・・」

きかねぇよっ・・・・!と叫びながら、そのバカでマヌケなクソ野郎の肩口を獣の爪が大きく切り裂く・・・はずだった。

「ガ!?ァッハ!?ッハ!!・・・ッカ!」

全身に鮮烈な痺れが襲う、全身がけいれんを起こし始める・・涎をまき散らして・・・焦げた臭いが鼻をつく・・・――――――


「――――お前を倒すのに、そんな拳は要らねぇよ」

男はその倒れた獣の男だったそいつ、見た目は人間に戻ったようなそいつを見下ろして、拳をぐっぱさせている。

「終わった。スタンで一発で終わりだ。呆気ねぇな」

「こんなもんでしょう。装備も何も無いんだから」

傍に駆けよって来ていた部下の彼がそう言っていた。

その倒れて白目を剥いているその・・獣だった男が、ただの男になっている・・・そいつの髪の毛を掴み、無理やり顔を持ち上げて見た。

完全に気を失っている、汚い顔を至近距離でずっと眺めている趣味は無い。

「ま、『才能ギフト』だけはアリだな・・・」

手を離すとそいつの顔は砂の上に落ちた。

「早く回収させてやれ、火傷じゃすまないぞ」

「隊長が回収してくださいよ。運ぶだけでしょ」

「汚いだろ、変なにおいがする。風呂ぜってぇ入ってねぇだろ」

「ん、こいつ、あばら骨が何本かいってますね・・?」

「なに、俺じゃねぇぞ」

「んー、隊長は手加減できないからなぁ・・」

「おい」

「わかってますよ、元々怪我してたんすかね」

『B隊の指揮官から通信です。繋げますよ』

「ああ。」

『D隊指揮官へ、感謝する。さすがEPFの対特隊だな』

「なんだ新手の皮肉か?」

『ただの感謝さ』

「あんなの手こずらねぇだろ、ショグマン」

『拘束する必要がでてきたんだ。穏便に無力化してくれてありがとう』

「そんなことだろうと思ったよ。」

『それだけだ。』

「おい、回収はそっちでしろよ」

『またあとでな、ガイタス』

通信が切れた、本当に意味のない通信を入れてくる奴だ。

「広報の仕事以外なら、ガイタスさんが一番っすよ」

「殴るぞてめぇ・・・」

部下のそいつの言葉は本当の皮肉だと受け取った指揮官の彼だ、現に部下のそいつはニヤニヤしている。

「それよか、コゥディ。お前は俺に当てようとしたろ」

『当たっても寝ちゃうだけなんだからいいですよぉ』

「お前のその適当な性格が・・」

『あたしが運んであげますよぉお?』

「お前が撃たれやがれ」

『援護しろって言ったの隊長じゃないっすかぁ』

「お前が雑すぎんだよ」

その周囲では指示を受けた兵士たちが動き、その倒れた獣だった男特能力者を拘束し、生存していた敵性戦闘員の武装解除を進めていた――――――。




 「ミリア殿」

呼ばれて歩いていたミリアが振り向くと、そこにはアシャカとダーナトゥが近づいてきていた。

そして、目の前に立つと真っ直ぐに彼らはミリアたちを見つめてきた。

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