第37話
数分して、連絡を取り終えると、ダーナトゥさんの隊が合流して、数を頼りに警戒しながら横転したままの車両を包囲して中を調べた。
車中は、死体が2体あっただけで、
どうやら、こちらから死角になるように移動してフェンスに穴を開けて逃げて行ったらしい。
その事がわかり、皆ほっとして笑い声が上がりかけた所で。
『おおいっ、何か来たぞ?あぁ、グレイズだ。車が・・2台か、小さい車だ。向かってきている。』
その報告に、アシャカは深く眉を寄せる。
―――――――その軽装甲車2台は白みかけの空の中、砂の上を音も無く走っていたが、途中でふらふらと進路を変えてグレイズが隠れている、スクラップ置き場へとやってきた。
見張り用のスペースはカモフラージュされていて、誰もいないように見せかけた壁にしか見えないはず、そこに隠れていたグレイズの筈なのだが、その軽装甲車2台は一直線で向かって来た。
そして、フェンスの外側で停まったその車両たちの右扉が急に開き、中から体格の良い短髪の男、軍服の戦闘服の様な格好をした彼と同じような格好の長い髪の女が降りてくる。
その彼らが身に纏っている黒い服にジャケットは見覚えがあった。
だるそうにしてたその女が、おもむろに欠伸をしていたが、顔をこちらへ向けて自分を見た気がしてグレイズはどきりとしたが。
「あの、通報があってきたんですけどー」
えらく軽い口調で女が話しかけてきた。
隠れている筈なのに、グレイズは話しかけられている様子だ・・・とグレイズは・・。
「あのー・・、ここ、ブルーレイクですよね?もしもーし?」
返事が来ない事に何となく堪り兼ねたその女に、目線が完全にこっちを見ているのを・・見ていたグレイズは、・・・スクラップの中で声を張る。
「・・味方、だよな?」
「うっす、味方っす。で、どんな感じすか?」
「・・今、敵が逃げたっつって喜んでいる所だよ」
少々、グレイズの口はぶっきらぼうだったか。
「あ、そうなんすか。どうする?リーダー」
「・・決まってるだろ」
そう言った男は、車の方へと戻っていった。
「ふん・・?あぁ、ありがとねぇ」
女はそう言って多分姿の見えないグレイズに軽く手を振り、男を追って車へ戻っていった。
暫くの間、2台の車は動かず、グレイズの前のフェンス越しに停車したままだった。
1つは白色をベースにしているようなカラーリングで、もう1つは暗い色をベースにしており、どちらもポイントに異なる紋章を付けていた。
その軽車両は1台6人ほど、どう見てもそれ以上は入れないほどの大きさだ。
『―――ざざっ・・どうなっているんだ?こちらからは不審な物は見えない』
グレイズの無線機から応答を求める声が。
「あぁ、いや、まだここにいるが・・」
そう言いかけた直後、車は移動を始めた。
来た時同様に、エンジンの音も無く、タイヤが砂を踏みしめる音だけで、砂漠が広がる方へと2台の軽装甲車は走っていった。
『そこにいるのか?』
「・・あぁ、いや、今、行っちまった」
『はぁ・・?通過したのか?』
『客人方が乗ってきた車に似てなかったか?』
「はぁ・・ああ、そうか、そう。どっかで見たと思ったんだ。そうかもしれない・・・」
ダーナトゥは無線を聞き終え、ミリアを見る。
「どうやら、そうらしい。君たちの仲間のもののようだ」
「はぁ、やっぱり。」
ミリアは少し溜息の様にしてた。
「一足、遅かったようだな」
「そうですねぇ、でもまぁ、後始末、してくれますよ」
にこっと、ミリアはダーナトゥに笑ってみせる。
「後始末・・?それくらいは自分達で」
「いえ。いえいえ、あっちの方、です。」
ミリアが細い人差し指で軽く指差す方向、フェンスの方、いやフェンスの向こう側。
日の光に、砂漠の景色が広がっていく方――――。
ダーナトゥはミリアが何を言いたいのかはよくわからなかった。
「本音は、もう少し早く来て欲しかったんですけどね」
「ん・・、まぁ、それはな」
ダーナトゥは渋い声でそう言うと、終始穏やかな雰囲気を湛えるミリアに重そうな眉を上げて見せ。
「俺もそう思う。」
そう言い残して、そのまま車両の片づけを始めた仲間の所へ歩いていってた。
―――――ふと、ダーナトゥが気付いたのは、空が明るみを取り戻し始めた事と、長い時間が経っていたのだという事を、砂漠の果てに広がりつつある白みを、地平線から色づく光を遠くに眺めていた。
次第に皆がそれに気付き、皆がその白みに目を惹かれ・・・。
砂漠の向こうから白光の輪郭を染め与えいく、日の光は・・・雄大だった。
「―――――ちょっと、どうしたんだい、メレキ、大丈夫かい?」
「どうしたんだいメレキは、ギュレレ?」
身体を揺すられて、ゆっくりと目を開けるメレキは・・・。
「起きた?寝ちゃってたのかい?」
苦笑いでも、心配そうな彼女に。
覗き込むサーナさんの顔が、メレキのぼやけた視界の中に入る。
暗がりの中で、避難していた壕の中で。
「勝ったよ、私たちが勝ったのさ、」
笑顔のサーナさんがいて・・。
そして、メレキは・・一筋の涙が右頬を伝うのを感じた。
隠れていた人たち、女性や子供や老人たち、彼らが壕から村へ出てきて、朝を迎えた喜びが村の中で溢れていく。
戦いの終わりに歓声と喜びが、戦いを終えた彼らと混ざり合って、今までの辛さの反動が歓喜の大きさに表れているようだった。
重い銃を提げた彼らが声を掛け合い、村には人々の笑顔で溢れていた。
そんな中、村の外では次々に到着してきた車両群が、フェンスの外側を陣取り始めている。
その厳めしい装甲車両の群れは、ドームから遣わされた軍部の治安部隊のものである。
およそ3台の中型車両、2台の大型車両で成っている群れで。
ブルーレイクの住民たちは遠巻きにその光景を目に入れるが、さして気にしていないようだ。
ただ、子供たち数人はその瞳をきらきら輝かせて、あの車両らから降りてくる制服の屈強な人々を見つめていた。
整列して並ぶ黒味がかった車体が、頑丈そうな装甲と塗装と相まって荘厳な印象を覚える。
その内の複数の車体には2種類の
1つはリリー・スピアーズ軍部のもの、もう1つはEAUのものだ。
元々、EAU所属のミリアの隊は緊急時の規則が適応され、その車両隊の指揮下に入ることになる。
既に危機は去った筈なのだが、これから事後処理が始まるだろうし、この隊の指揮官が命令を下さなければ、ミリア達は帰れない。
村の入口近くで出迎えたミリアと仲間の3人もそこで、直属の指揮下に入れという小隊長からの説明を早速受け、ミリアは疲れた体で頷いたが。
ガイはともかく、後ろのケイジとかリースなんかはあくびをかみ殺してフラフラしているようだ。
隊長の彼女へ簡潔な報告を済ませた後も、やはり事後処理の手伝いをしろということで。
「次は関係者から確認を取りたい。責任者への案内を・・・」
その最中に無線機から、1つの報せが入ってくる。
『先行隊
彼女も指示を止めて無線通信を聞くようだ。
『こちら指揮官のレッカーだ。逮捕者は何名だ?』
『ざっと40名ほどだ。』
『わかった。手配させる。聞いてたな、ゲーラ曹長、移送車1台連れて行ってくれ』
『了解』
大型装甲車の1台を向かわせるようだ。
その報せ、この黒い車両団がここに着いてから、ミリア達が顔を合わせてすぐ指揮下に入る命令を受けた数分後の報せ。
「特務協戦ミリアネァ・C、車両は4台と言ったか?」
「はい。ですが逃走したのは3台のはずです。少なくとも確認したのは・・」
程なくして、移送用の大型車が動き出したのをミリアは横目に少し見ていた。
「1台、中型車両を見たよ」
と、後ろのリースが眠そうにだが教えてくれた。
「つまり、大型3台、中型1台だな?」
「はい。そうなります。」
「確認を取りたい。モレン、聞いてたか?――――」
彼女は耳元の通信機で隊への通信を始めた。
要請で応援に来た彼らの属する部隊はどう見ても中隊規模で、村に駐車しているこの黒い車両団とは別に、まだ先行隊があるようだ。
たぶん、さっき一番最初に見張りの人が見つけたという報告が先行隊の事だったんだろう。
軍部直属のEPFも来てたりするんだろうか。
そういえば、さっきの無線機で先行隊が
少し重い頭でミリアはちょっと、ぼうっと考えていた。
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