第32話
更に第四波、第五波が来ないよう祈るのはアシャカさんの仕事だろう。
ミリアは村の中心の方へ走った後、良い具合に先ほど村の中心へ下がった、第三波への対応メンバーが数人待っているのを見つける。
家屋の軒先に下げた弱々しい灯りでも彼らのシルエットはわかる。
自分を入れて、合計9人がここへ集まった。
集合場所を含めて、ここまで、手筈通り。
「指揮を執るミリアです、よろしく。みなさん聞いてる通り、これから敵の多面攻撃、第三波に対応していきます。指示を出します。3人1組になって。・・あなたはここ、うん、それでいい。それから村の中を索敵しつつ、ダーナトゥさんの所まで行きます。付いてきて。」
ミリアが声を発しながら次へ向かう方へ小走りに駆けていく、それを追いかけて彼らも走る。
それを認めてミリアは手ぶりを交える。
「あなた達は避難壕の前を通過して、あなた達は村長のお家を通過して、私たちはフェンスに近い所を行く。敵を見つけたら銃を撃って。そして素早く隠れる。撃って、隠れる。当たらなかったとしてもそれでいい、すぐ隠れる。いいですね?」
『おう!』
「ぁぁ・・、声は小さくして。敵がいるとしたら見つかるので。それと、村の中で銃声が聞こえたら即集まってください。銃を撃てば誰かが駆けつける。私がいなければ各自の判断で動いて。私がいたら従ってください、よろしい?」
「ぉぅっ」
いささか小さな声で返事をしてくれる。
「はい、あと、丁寧にではなく素早く移動を心がけて。目的地に早く着くように。ダーナトゥさんと合流が目的。でも敵がいたら足止め。では散開」
ミリアの指示に従い、彼らは隊を分けて動き出した。
彼らの中にはCross Hander以外の人、たぶん銃の扱いには慣れているだろうけど、村の人が混ざっている気がした。
そういう人たちは戦いには慣れてないかもしれない。
頭には入れておいて、指示した周囲の哨戒に集中する。
傍を付いてくる彼へミリアは目を一瞥して前を走る。
「あなたの名前は?」
「ジュギャだ」
「よろしく、ジュギャ」
新しく加わった3人目に声をかけて、寒風の闇夜を駆けていく。
夜の凍えるような風をその身で切って跳ぶ。
身体が下へ落ちる重力が煩わしく思えるほど、いや、地面を蹴るその時が一番、ビリビリと全身を駆け巡る衝撃と風を感じられるのだから、それはそれでいい。
最高な機動力で、フェンスが見える距離を一定に移動し続ける。
前方には何も異常は無い。
装着した暗視用スコープは軽量は軽量であるが、そのおかしな色の視界にいまいち感覚が狂う気がしてやりにくい。
やっぱなんか気になり始めてスコープに手をかけたとき、幾つもの人型が前方に見えた。
あれは壕に身を隠した人か。
ダーナとかいうおっさんの隊に違いない。
ケイジはその人影が見えるフェンスに一番近い前方の壕へ跳び込んでいく。
―――ザザンッッ・・・!!
着地に周辺の砂を吹き飛ばし、砂埃を少し派手に上げたか?とケイジは思ったが、それは手遅れだ。
「!?」
チャキっと横顔に銃を構えられる音がした。
「おいおいおい、仲間だよ。」
銃を突きつけられ少し慌てた声を出すケイジ。
その声に反応したのは低い声。
「・・・お前か」
壁裏で銃を突きつけたダーナトゥと数人、全員がケイジに向かって銃を構えていた。
怯えた表情で震えている奴もいたが。
「銃を下ろせ、客人だ」
そうダーナトゥに言われ、複数の銃はケイジから取り下げられる・・・。
「わりい、わりいな。で、無線聞いてたよな、それらしいのは見たか?」
「いや、ここは異常無い」
「わかった、俺は先を見に行く。」
「ミリア殿は?」
「遅れてくる、多分な、」
「・・そうか」
「じゃな」
その軽い声を残し、ケイジは再び跳ぶ。
「向こうは誰も・・・」
一つ跳びの驚異的な跳躍力。
二歩目には既に彼らの潜んだ壕エリアからは抜け出た。
三歩跳んだ内に、ヒュンっと空を切る音が耳に届いた気がした。
恐らく、敵に撃たれたんだろうが掠りもせず。
ダーナトゥは、その姿を見送っていた・・・風のように消えた彼の耳には、ダーナトゥの声はほぼ届かなかっただろう。
ドーアンはそれを驚愕の表情で見つめながら、呟く。
「・・なん、なんなんだよ、あいつ・・・、」
「・・
誰かが、押し殺した声で呟いたのが、聞こえた・・・。
――――そして、ケイジは感覚が微妙に狂う所為で、スコープが映す景色に集中していった。
ミリアは重いアサルトライフルを肩に提げて抱えるように走っている。
敵がいる可能性がある敷地内では咄嗟に射撃できるように構えながら走らなければいけないのだが、如何せん、この銃、少し重いのである。
横について走るカウォとジュギャは両手に構えながら走っているのが少し引け目であるが。
やっぱり、いつもの銃を持ってくるんだったかなと思う。
でも、村で補給してくれるという弾薬はサイズが同じでも、手造りも混じるらしいので、火薬量がまちまちだったり劣化などが心配で、少し警戒して村のライフルを借りた。
私のライフルが弾詰まりしたりで壊れるのも嫌だし。
借りたライフルをさっき試し撃ちしたが、旧式なので反動も大きい、精密に一射ずつならいけると思う、手入れは普段からちゃんとされていると思う、わかったのはそんなところだった。
そんな事を頭の片隅で考えながら走っていると、前方のスコープを通した景色にダーナトゥ隊が隠れているはずの幾つかの壕が見えてくる。
フェンスの方にいるかもしれない敵に注意して村側から迂回をしているのだが、今の所、敵の姿も形も無い。
んん・・?標的は村中に行ったか・・ケイジがぶつかっても遅くないはずなのに・・・やっぱり、なにかおかしいみたいだ・・・崖の方から・・?・・来るものか・・・?―――――
―――――その時、ケイジは前方の異変に気付きつつある時だった。
遠くから黒い、高さ3mはある黒い塊が向かって正面から突っ込んでくるのをスコープに捉えていた。
そしてそのフォルム、さっき見たフェンス際に並んだあの大型のトラックと似ている。
と言うより、間違いない、同じものだ。
既に敵の進入を許した事を瞬間的に察知して、ケイジは舌打ちをする。
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