第25話

 ――――助けて・・・助けて・・・!・・――――――絶叫に囲まれてた――――――家屋が連なる数多の場所から怒り狂う火が噴き出し、ただれていく木を――――――果てて行く・・悲鳴を・・・―――――心が、・・・搔き乱したくなる―――――――張り裂けそうな胸を――――火が・・――――燃えている―――――


―――――泣き声・・・小さな子供の泣き声が・・火に巻き込まれた村の中で・・・火を寄せ付けないために泣き叫ぶ―――――――火は全てを喰らい尽くす―――――家が、紅く燃え上がり――――――あそこも、もうダメだ・・・』――――悲鳴が――――私のこめかみに・・・硬い・・黒い金属の・・・拳銃が突きつけられる・・・黒い人影が・・無機質な目で私を見据えていた―――――だから私は、口を閉じる―――――息を呑むように――――涙を飲み込んでみせ・・・――――目の前の涙で濡れた光景の中で、2人に、火が付く・・・一瞬で燃え上がった―――――なんでぇ・・っ・・?・・!・・・』―――――


『―――ウソツキ・・・・ぃっ・・!』

――――『黙っていろ』―――――――耳の奥が低い男の声にえぐられる――――


どくん・・・っ・・と強い衝撃・・目を開く・・・・・鼓動・・・自分の・・・強い鼓動を・・・感じて・・・暗闇の中で・・・、ここは・・・、暗闇の・・・部屋・・小屋の中・・・眠る前と同じ・・・。


―――――何も変化はない―――――


―――私は、汗だくで・・・静かな・・暗闇の中で・・・薄い壁の、外の、人の気配は・・村で準備する人たちのものか・・・呼吸を繰り返していた・・・その耳に届いていた、・・私の息の音と、強い血の音が――――――。


――――なんか、嫌な夢を見ていた気がする。

思い出せない夢・・・、汗・・・思ったよりもそんなに掻いていない・・。

ミリアは・・・ぼうっとする頭で・・というより、なんかぐちゃぐちゃしているような。

・・・1つだけ深く息を吸って・・吐いていた。

部屋の外が明るくなってきている。

もう、朝だ・・・――――近づいている―――――――――。



 滞在4日目に入っても、敵の襲来は無かったようだ。

夜の内に何かがあれば、この村を守るCross Handerがミリア達に連絡を入れるはずだ。

朝の支度をいつもより手短に終えたミリア達4人は、少し迷ったが一応プロテクタなどの戦闘用の装備を身に着け、それから村の様子を見て回ってみていた。

村のどこも欠けていないし崩れていない、騒ぎもないようだ。

村の入口は昨日の内にバリケードで封鎖されたままで、本格的に村全体が厳戒態勢に入っている。

でもそれ以外は、特に異変は無いようだった。

その辺に屯していた人たちや、すれ違う人たちに挨拶がてら話しかけても、気の良い挨拶をする人もいるし、異常はないと返ってくるだけだ。

というか、遠巻きにこちらを見てくる彼らの態度を見ていると、自分たちはまだ少し警戒されているみたいで。

理由はたぶん、私たちが村を歩くこの身に着けた装備が、物々しいものに変わったからかもしれない。

それを言えば、村の様子も物々しく変わっているんだけれど。

村で銃を携行している人も増えたし、行き交う人々の笑顔にふと何処と無く翳りが見える気がする。

昨日のアシャカさんがした宣告の影響、村は2、3日前とは明らかに違う。

彼らにとっては生活に影響し始めて、戦いが現実味が帯び始めているんだと思う。



 程なくして、無線機からの連絡に少し警戒したけど、ジョッサさんから朝食のお誘いを頂いて。

ケイジやリース、ガイたちはお腹を空かせていたのか、少し表情が和らいでいた。

そんな風に村長の所でいつものように、というか前日のように質素になったけど充分な朝食を頂いた後、マダック村長らから案内したいという申し出があった。

大体の場所は自分たちの足で歩いたと思っていたが、マダック村長に連れられて村長宅の裏手の崖の麓へ歩いていくと、目立たない位置に洞穴が1つあった。

入り口は目立たない自然なガラクタが少し置かれていた程度だったが、目立たない色の扉が備え付けられていて、・・・少し警戒しつつ、ミリア達もそこへ1人ずつ覗き込むように入っていくと、洞穴の奥には何かの、・・・人が集まってきている気配と様子があった。

広場には照明が点いていて、かなり広いスペースがあるとわかる。

岩壁のふもとに作られた、ただの岩の洞穴だと思っていたけれど、人工的な壁も見えるしちゃんとした建築技術で作られた部分もあるようだ。

「遺跡か・・?」

ケイジが周囲を少しいぶかしむように見ていたが、たぶんそうだろう、とミリアも思った。

昔の建造物を、一部かもしれないけど再利用しているんだと思う。

そこへ村の人たちが多く集まり、今も物資など荷物が集められている様子も見える。

「避難場所か・・」

ガイが呟いていた。

昨日、事前に話は聞いていて、ここは備蓄庫も兼ねているらしく、有事の際の避難場所らしい。

聞いて想像していたのとはけっこう違ったが、戦闘が始まれば戦わない人たちはここに集まり、扉を固く閉じて籠り身を隠す。

扉を見た感じ、見つかればすぐ壊されそうなものだが、上手くカモフラージュする作りになっているようだ。


今、周囲から耳に聞こえてくるのは少し不穏な噂話とか、今度の戦いの話、戦いに出る人の話、そんな人々の表情は心配そうにくもっているのか。

緊張した面持ちの大人が子供へ、ちゃんと大切なものを纏めたか、とかそんな風に傍で話している。

不安は子供へ伝わるように、覗くような目で親を見ている。

そんな様子を見回しながら、人々は少しずつ、もっと集まってきているようだった。

そして、不意に大きな1つの声が響き渡った。

『集まったな。』

大きな声、拡声器が使われているようで、洞穴の中で反響している。

みんなが気が付き向いていく方向を見れば、白む光の入口の方にアシャカさんたちが立っているのが見えた。

『仲間たちよ。今から話す言葉を聞き逃すなよ。いいか。俺らの戦いは今夜になる。もう一度言うぞ、戦いは今夜になる。』

唐突に始まったアシャカさんの演説。

彼らは口を閉じていく。

『やることはやっている。

準備を続けていく。

準備が整う分だけ勝てる可能性が広がっていくと思ってくれ。


俺らは戦士だ。

この村を守る戦士たちだ。


ブルーレイクの全員で俺らCross Handerと一緒に戦う、親父たちが初めてブルーレイクへ来た頃のようだな・・・!

なあっ!


ブルーレイクを守り切る!

今回もだ!頼むぞ!戦士ども!!』

『おおううぅ!!』

洞穴では大声が深く広く響いていく。

地の底からの残響がお腹の奥を奮わせている、子供が驚いて大人に縋っていたけど、その頭を強く抱き寄せる彼らはアシャカさんたちを真っ直ぐに見つめて、吼えて。


戦いは、日没以降から始まる、と最後の宣告をアシャカさんはした。


きっと彼らは信じる、そしてアシャカさんたち、戦う人たちを信じている。

私にとって、彼らが主張するその根拠は結局わからないままだけど。

緊張で張り詰めた空気、だけど、深刻な表情を浮かべる中で、その場にいる人達からは、悲観的な雰囲気を感じる事は無かった。

戦うことの覚悟が見える、これは、・・・とても辛い事。

人それぞれが心の中に、踏ん切りというものをつけなければ。

人は希望を打ち砕かれて、泣き喚くものだと。

痛いものだと、知っている。

それでも、泣き縋る者が一人もいない。

この村に住まう人々の覚悟は、感じ取れた。

・・いや、それは・・・泣き縋らせない、戦士たちの姿が見えているからかもしれない。


『戦士たちは残れ!それ以外は、俺たちへの支援を続けてくれ。』

伝えるべき事を伝えたアシャカさんが戦闘する者以外の散会を告げた後で。

彼らが歩く雑踏の中で、アシャカさんたちへ近づこうとしていたミリア達の姿を見つけ、彼らから近づいてきた。

そして、ミリアの前で告げた。

「今夜になる。頼む。」

「はい。」

私たちも、戦士、か。

彼らはきっと、そう信じている。

「それで、サービスだ。この2人をお前の班に入れておいてくれ」

「・・あ、はい?」

突如の申し出に少しばかり素っ頓狂な声を出してしまったミリアだ。

そういえば、確かに案内役を頼んだけど、2人も来るらしい。

「カウォ、リタン、」

アシャカさんの後ろから、男の人が2人付いてきていて前に出てくる。

「人数も多少合わせなきゃならんのでな、それに場合によっては他に数人を任せるかもしれないが、頼む。カウォは指揮も頼れる。」

「ぁー・・、はい。」

とりあえず、ミリアはちゃんと頷いた。


アシャカについて来た2人を改めてじろじろ見れば、その出で立ちは見るからに砂漠のおとこといった感じだった。

屈強な肉体を持つタフな、軍人と言っても良いくらいの体格で、2人とも年は3、40代頃かな。

砂の熱に焼かれた褐色の肌に、隆々とした筋肉がシャツの下からわかる。

「Cross Handerだ。足手まといだと思うなら、弾集めでも何でもやらせてやってくれよ、はっはっは。そうはならんとは思うがな」

自分で言って高笑いして、言うだけ言って行ってしまったアシャカさんだ。

まあ、彼らを無下にはできないのはわかっている。

でも、面通しができる案内役くらいでよかったんだけれどな。

ある程度の戦力を渡してくれるとも言ってたし、それを見越してか、信頼の表れか、ただのお目付け役かもしれないけど、それは別に困ることではないだろう。

アシャカさんがその豪快な物腰に広い背中で離れて行く姿に、ちょっと眩しげに目を細めていたミリアだったが。

ミリアの眉が無意識に顰まっているのは、心中複雑な感情が表に出てしまっていたみたいだ。


軽い自己紹介を交わせば、彼らの名、カウォとリタンの腕前、どちらもれっきとしたCross Handerの一員で、戦力として申し分のない腕前のようなのは把握した。

その間にも集まった彼ら皆にアサルトライフルが配られていき、カウォとリタンも受け渡されていた。

それはミリア達が前日に受け取ったものと同じで、そのアサルトライフルは最新式では無いが、ミリアにも見覚えはあるので軍部の一部では未だに使われている物なのは知っている。

アシャカさんたちが言っていた通り、ドームからの支援、補給が日頃から存分にあるのだろう。

それから、重い銃弾を入れたリュックを担ぐ予備弾薬の持ち役はケイジだ。

各自で一応、装填した予備マガジンを2つポケットなどに入れているが、弾が切れた時のためにと予備弾薬をまとめて渡されたわけで。

マガジンを使い切ったらその場で、弾薬を受け取って装填するのが基本的にケイジの仕事になる。

弾薬ががっちゃがっちゃ鳴る、全部の予備弾薬の入った鞄を持たされるケイジを、カウォとリタンは訝し気な顔で見ていたが。

「あいつ精密射撃も射撃もてんでダメなんだ」

って、ガイが説明したら。

「ドームから来た人なのに・・・?」

とカウォとリタンは頭を軽く捻っていた。

アシャカさんたちが私たちに対するハードルをいくら上げてきているのかわからないが、ここでは彼らの反応が普通だと思った方が良さそうだ。

「ケイジがちょっと特殊なんですよ」

って、一応ミリアはフォローのために言っておいた。

元々、カウォとリタン、2人のどちらかが弾役か補佐役を引き受けるつもりでいたらしいが、ケイジより射撃の下手な人はいないと思う、という全員の推しにより、やはり弾役はケイジで確定した。

ケイジはちょっとむすっとしてたけど、本人もわかってるみたいだし、放っておいた。

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