第26話
洞穴で、渡された装備の点検、新しく加わった2人がいるチーム内での細部の確認・説明などをしていたとき、ミリアは彼らの様子を見ていたが。
彼らは日常的に戦闘訓練を受けているようだし、戦闘面の心配は要らなさそうだった。
確かにアシャカさんが頼りになると言うほどで、頼もしさを感じる。
そして準備は大体終わったので、それから、ミリアは辺りを見回して戦闘要員の彼らの様子を見ていたが、ずっと洞穴に集まっていたし、気晴らしに村を散歩することにした。
カウォとリタンは基本的に無口で、緊張しているのかはわからないけれど、質問をすればちゃんと答えてくれる。
ケイジやガイがなにか話しかけても、ずっとマジメな感じだ。
村の様子を眺めながら歩くミリアも、ちょっと試しに彼らを振り向いて声を掛けてみた。
「あの、今夜とアシャカさんは言ってましたが、なにか詳しい話は聞いてます?」
「詳しい?」
「どういった敵が来るとか、数とか、」
「大きな戦いになる。敵の数は100を超える。俺たちには武器があり、作戦もある。それだけわかっていれば戦えるだろう。」
答えたのはカウォだったが、リタンもこちらへ真摯に頷いていた。
「そうですか。」
やはり、彼らもアシャカさんたちを信じているようだ。
アシャカさんはさっき『今夜』に敵が来ると言っていた。
いろいろ考える事はあるけれど、少なくとも今夜には彼らへの問いは一旦終止符が打たれる、それは間違いない。
願わくば、何もない方が良いのだが。
それは彼らも同じ気持ちだろうが、彼らは戦いが起こると確信しているようだった。
まあ、夜まで、本当にどうなるかわからないけど、正直、時間は持て余している。
どうなろうとも、とりあえず夜までやれることは限られているから。
「いつもどういう暮らしをしてるんだ?」
ガイが彼らカウォとリタンへそんな事を聞いてた。
「どういう?」
「まさか起きている間ずっと訓練してるわけじゃないだろう?」
「・・食事して、農作業を手伝ったり、昼寝をして牧場を手伝ったり、見張りをしたり、哨戒をしたり」
「独自の文化を持ってるって印象だったんだが、案外普通なんだな。」
「そういう人たちもいるな。決まった時間に祈る人らも」
「そういえば、ダーナトゥさんが床の上で祈っていたな。」
「あれはその家系の人たちだけだ。」
「家系?」
「まあ、
「へぇ。あんたは違うのか?」
「ああ。もともと、Cross Handerは違う部族や外からの傭兵が集団になったものだ。」
「え、そうなの?」
「ああ。今じゃ家族みたいなもんだがな。昔、土地を追われたときにそうなったらしい」
この辺りから人がほとんどいなくなった原因は、あれしかないだろう。
数十年前に起きた重大な出来事で、ドーム群地帯に住んでいる人たちはみんなが知っている。
「そろそろお昼になるかもしれない、ってよ」
リースが何かぼそっと言ったのか、代わりにケイジがみんなへ言っていた。
ミリアがふと時計を見ればお昼が近くなっていたので、ふらっと村長宅へ足を向けていた。
たぶん、リースはふらふら歩くより休憩したくなったのかもしれないが。
Cross Handerの人達と一緒に食べようとも思ったが、カウォとリタンたちはCross Handerの方で食べると言った。
まあ、そりゃそうか、村長宅に急に大人数でご飯ください、って言うのは気まずくなるのが目に見えている。
「私たちもそっちへ行った方がいいですかね?」
ってミリアが聞けば、カウォとリタンはちょっと顔を見合わせたようだけれど。
「話はしておこう。だが、村長が既に食事を用意しているだろう」
「では夕食はそちらで頂いていいですか。」
「伝えておくよ」
そうして途中で別れた私たちは、村長宅でいつしか落ち着くような気分になって来てる食卓で一緒に、ベーコン入りのシチューパスタと野菜の炒め物を頂いた。
あんまり食べた事ない味だったけど、みんなお代わりもして。
マダック村長さんやおばさん、ジョッサさんたちが笑みを零していたのは、なんとなくミリアは目で追っていた。
昼過ぎは、班のリーダーと補佐が集まり、ミーティングをした。
作戦の第一目標から始まり、段取りや戦力編成、指揮系統やチーム間の合図の仔細など、細かい部分の確認をしていた。
その様子をミリア達も混じっていて、Cross Handerの人たちの様子を初めて見守りながら作戦の詳細を確認していた。
そこから今決まったことを、指揮下の個々の班の人達に伝える事になるらしい。
先ずはリーダークラスが作戦内容を熟知するということだ。
この辺りは軍部のやり方などとも変わらない。
彼らのやり取りを見守りながらミリアは考えていた。
朝から微妙に、感じている不思議な感覚だ。
本当に来るのかさえ、確証を得られてないのに。
お腹の奥を押されるような緊張を感じる。
頭のどこかで信じなくてもいいと考えているような、でも身体の方が緊張しているのか。
その半々なのか。
彼らの緊張が伝わってくるのか。
どちらが正しいのか。
・・それに尽きる。
ずっと考えている気がする、それを。
・・それがわかるのは、今夜。
・・・ケイジ達もそれなりに、口数は減ってる気はするけど。
軽口は相変わらずたまに交わしてる。
思い思いの時間を過ごして、時は日が傾き、夕方となる。
村長宅の裏手広場に集められたのは戦闘員のみ。
他の女子供は他にやるべき事があるそうだ。
話では80数名の人達がこのだだっ広い土の上に集まって、暗くなってきている日影の中で、明かりを灯して待機している。
壁に腰を預けて、なにかを話しながら、傍らには長銃を置いている。
広い場所だけれど、そんな人たちが集まれば、独特なざわめき感が生まれている。
・・ケイジがリースに向かって聞いてた。
「これで戦うの全部か、他のは?」
「戦闘中は、非常用の隠れ場所に避難するって言ってた」
「そうか」
さっき確認したことをまた繰り返す、ケイジにミリアが注意を言おうとしたけど。
ケイジの様子を見て、ミリアは・・声を止めた。
右手で握り拳を作り左手の手の平にぶつける、強い音がする、ケイジの目付きは既に鋭くなっている。
集中はしてきているのか、ミリアはやっぱり口は閉じた。
「集まった諸君、今回の防衛はいつもと規模が少々違うと考えているのを先に言っておく。Cross Handerの嫌な予感ってやつが、疼きまくっているようだからな。気合を入れていけよ!」
『オウッ!!』
腹の底を奮わせる大低音が響いた。
小さい体のミリアには、全身を強い風に瞬く間に撫でられたようで、その刺激が去った後にもまた身体を奮わせた。
口頭演説をするのはミーティングでも見かけた、指揮官クラスの人のようだ。
「作戦の簡単な説明をする。俺たちアシャカ隊36人は中央のここで待機する。それと別に八方、正確には崖と面していない方角五方に見張りを5人ずつつける。そして、見張りが敵を発見した方角へと駆けつける、ここまではいつも通りだ。ただし、今回はCross Handerの『嫌な予感』だ。数名この広場に残す。敵の増援、または不測の事態へと備えるための隊だ。増援のあった場合は広場に残った隊、ダーナ隊が駆けつける。また、敵の攻め手によって適時、隊を分ける指示が出る。お前らが覚えとくのは2つだけ。ここで敵が来るまで待つ事、指揮官の指示に従い付いて行く事だ。行く先で敵と交戦するだろう。1人も侵入を許すなよ!分からない部分があるなら隊で聞いとけよ!長期戦を覚悟しとけよ!以上だ!」
「結構、シンプルだよな」
ケイジに言われてるくらいだけど、確かにそうだ。
「ん、そうね。でも、何回もこれで防衛に成功しているなら・・、でもスタンダード過ぎて。悪くはないと思うけど。」
相手の攻めを把握して対応していく、防戦一方の作戦だ。
相手が徒党を組んでも単純な作戦で来るならそれで十分だ。
「俺はどうでもいいけどな、敵を蹴散らしゃいいんだろ。・・本当に来るのか?」
「いえす、ケイジ」
わからないけど。
ケイジにはそう言っといたミリアだ。
「・・まあいいや、ふっはっはぁ、腕が鳴るぜぇー」
「ふむ」
作戦は悪くはない、ただし敵が単純な作戦で来るなら、だ。
敵の情報に一番詳しいアシャカさんたちがこの作戦を立てたのなら、これが私たちの現状でベストの作戦なんだろう。
私が口を挟めば混乱を呼ぶだけだろう。
これも、彼らを信じるしかない、っていうことか・・・。
「よし、では戦に向けての腹ごしらえだ。お待ちかねだろ、皆!」
やはり大低音の歓声が上がる。
「しっかり力を溜め込んどけよ!」
その声を合図に、テーブルと金属製の食器、良い匂いのする鍋、沢山のパンが運ばれてくる。
お待ちかねの夕食が始まるようだ。
戦う前の腹ごしらえ、沸き立つ空腹の男たちを尻目にミリアがちょこちょこっとアシャカさんの元へと小走りに駆け寄っていった。
アシャカさんはダーナさんと何か話していたようだが、ミリアに気付いて会話を止める。
「どうした?ミリア殿」
「あの、作戦会議の時に言ったあの案はやっぱり必要だと思うんですけど・・」
「あれか、あれなら頭に入れておいているぞ」
「そうなんですか?」
「ただし、当該者たちだけに伝えるつもりだ。ストレスは最小限に留めるべきだ」
「なるほど。了解です、失礼しました」
やっぱり、全員に伝えるのはシンプルなものだけだったようだ。
「気付いた事があったなら他にも言ってくれよ」
「はい、後は大丈夫だと思います」
ミリアは来た時と同じように小走りに駆け去っていった。
「『後は大丈夫』、か。言ってくれる」
アシャカは何故か嬉しそうに笑う。
「俺たちも確認した。不備は無いだろう」
「まぁそうなんだがな。うしっ、じゃあ、ああ言われた事だし集めてきてくれ、当該者たちをな。」
「了解」
ダーナは低く唸ってから、アシャカの側からのそりと離れていく。
大鍋にたくさん並び飯で喜んでいる群れの中へと入っていった。
―――――ケイジはそんな光景の中、知った顔を見つけた。
村中で知った顔は数少ないが、そのうちの1人、メレキである。
あの少女は忙しなく鍋の周りを駆け回っていて、配膳の手伝いなどをしているようだ。
声を掛けようとは思わなかったが、彼女が一生懸命動いていたのを見ていたい気がして、何となく見つめていた。
「俺らももらいに行くか」
ガイがミリアが戻ってきたのを見計らって声を出した。
「・・そうだな」
ケイジは、メレキへの視線を切って、ガイたちの方へ追っていった。
「腹減ったな」
「よく食うなお前。リースはどうだ?」
リースは手をお腹に当てて、お腹の空き具合を確かめたようだ。
「・・食べれそうだ。」
いま発見したよ、って言いそうに言っていた。
「なんだそれ」
ケイジが毒づいてたが。
「みんな、いつもよりも早いけど食べれそう?」
ミリアが近づいてきていた。
「俺らは大丈夫だ。」
「カウォさんとリタンさんもちゃんと食べてね。持続力に関わってくるから。」
「はい」
「うっす。」
ミリアは彼らの様子を確認して、息を大きく吸う。
「さて、たくさん食べますか!」
夕日の差し掛かる広場の真ん中で合流したミリアが大きく号令をしてた。
紅く焼けるような強烈な光が沈んでいく端の、沸き立って賑わう広場の中で、ミリアのその大きな声が通り抜けて何人かが振り返っていたようだった。
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