第24話

 ――――夕食を平らげた後、村の中を見て回っていた。

村が暗くなる中、彼らの荷物運びや作業等もそろそろ切り上げていくようだ。

食事はちゃんと食べた。

チームのみんなもしっかり食べたみたいで。

繊細なメンタルの人がいなかったのは良いことだ。

緊張などで食欲がなくなったとか、そういうことも有り得るから、良い意味でみんな図太い。

いつもの夜の景色より、ランプの灯りが多い中で、作業の声が何度か飛んでいた。

村の中で揉めるような様子は1度も見たことがない、雰囲気が良いんだと思う。

Cross Handerの彼らが信頼されているのだろう。

戦いになっても、彼らが何とかしてくれると信じてるのかもしれない。

子供が手伝ってて、走り回った子が危ないと注意されてた。

そんな光景を遠くに見ながら、私たちはボロの宿に戻った。


就寝前の支度をして。

私が身体を拭いている間は、男性メンバーたちに外で待ってもらったけれど。

それも毎度の事だからか、みんな素直に従ってた。

それから、早めだけれど寝る。

休める時に身体を休ませる、そう、みんなに伝えてベッドに横たわらせた。

一番文句を言いそうなケイジでも、何も言わずに従っていた。

それでも、しばらくしても寝息は聞こえてこない――――――――




 ――――――軒先で、ミリアは外の様子を眺めていた。

ベッドの上で横たわっていたけれど、なんだか寝付けなかったから。

1人でいると、考え事はいくらでも浮かんでくる。

1つ1つ整理することが、良いことなのかは、わからないけれど。

空気が寒くなってきた・・村の夜景はほぼ暗闇だけだ。

おぼろげなランプがいくつかあって、ほとんど何も見えないけれど、遠くで作業する人たちの明かりなんだと思う。


傍で音がして、家の扉が開いてガイが外へ出てきていた。

ジャケットの前を閉めるガイが、ミリアを見つけて寄ってくる。

「やっぱ眠れないもんだな。」

って。

「・・ケイジ達も?」

「イビキは聞こえなかったな。寝れてるかはわからないが、ちゃんとやるべき事はわかってるみたいだ。」

それなら、よかった。

・・・それから、作業が落ち着いてきたような村の、遠いランプのおぼろげな灯りが少なくなってきた景色を見ていた。


――――彼らは、何を想って、今夜を過ごしてるのだろう。

戦えない人たちは、戦う人たちを信じて、震えを抑え。

戦う人たちは、自分たちがやれる事を信じて。


「ま、準備はしてあるし、後は待つだけだろ?」

って、ガイが軽い声で言ってた。

「・・・」

・・・、ミリアは顔を上げてガイを見ていたけど。

「なんか気になることでもあるのか?」

「・・いや、べつに・・・」

遠くを見つめて口を閉じるミリアは、少ないランプの灯りがちらりと動く村の様子をずっと・・・。

彼らはまだ寝ないんだろう・・・見張りも警戒も強化されているだろうし、明日も明後日も。

もし敵が来なければ、ずっと続くこの時間を。

・・彼らが信じられなくなるその時まで過ごす・・・。

家の中でも、彼らの大きなテントでも、家族たちはどう過ごすのか・・・子供たちも眠りにつく中で・・。


―――――本当に、来るのだろうか・・・?

その一点だけが・・・心の中で、大きく刺さっている杭のような・・。

ここまで準備したのに、・・・信じ切れていない・・・・。

当たり前だ・・・証拠を見せていないのなら、そんなの信じられない。

この村では・・私だけが、『正常』なのか・・・。

ただ、村の人たちが発する感覚が、『異常』が『正常』へ溶かされていく感覚・・・。

『異常』へ・・・染まっていく・・感覚・・・私が・・?・・・――――――


「しっかし、変な事に巻き込まれたな、ほんとに。」

ガイが、そう少し笑いながら言ってた。

苦笑いの様に、夜を見上げている。

・・・ガイは、きっと、私と同じような『正常』・・みたいだ・・・。

きっと、ケイジも。

リースも・・・。

それでも、ケイジ達は戦うと言っている・・・。


「ケイジはなんであんなに戦いたがりなんだろう・・?」

――――ケイジは、なんか、変だ。

・・・子供のような。

・・命を懸けるか聞いても、まったく怖じ気づかない・・・。


「さぁな。」

・・・ガイは簡単な返事。

「あいつ単純そうだからな。」

って、屈託なくガイは笑ってた。

「さっきのも聞いたろ?ここで戦うって。すごいシンプルな理由だったよな。」

まあ、頭悪そうな理由だった。

『そうするべきだと思った』、って・・それだけで。

「でも、ただの『かっこつけたがり』、ってわけじゃなさそうだ」

って。

「そうなの?」

ミリアは傍のガイの顔を見上げ、ガイの表情は薄暗くてよく見えなくて。でも、たぶん、笑っているような気がした。

「そんなもんだろ。人間って」

って。


「リースなんて、もっと変だしな。」

って、たぶん、ガイはまた少し、笑ってるような気がした・・・。



「俺も気が紛れてきた。そろそろ寝るよ。ミリアも寝ようぜ?」

「・・うん。もう寝る」

その返事を聞いてガイは踵を返し、部屋に戻っていく。

・・そんなガイの背中を、しばらくミリアは見送っていた。

・・・村の夜はだいぶ静かになっていた。

冷たい砂の風がそよいでる。

ジャケットの上からでも冷えるような・・・。


「―――・・隊長、って・・・こんな・・・・・―――――」

小さなつぶやき。

誰にも聞こえない。


今夜は眠りに落ちない村の中で。

ミリアの、声は夜空に消えていく・・・――――。

――――息を深く吸って。

・・・吐いたミリアは―――――

2度目に、砂埃かなにかを吸って、「か、けほっ」って、ちょっと咳き込んだ。


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