第23話
周囲ではCross Handerの人たちが戦いの準備に動いている。
ミリア達4人が歩いて様子を見回す、昨日見た広場の様相が既に変わっていて、物資を運んだり、バリケードの制作準備や他の作業もあるらしくて、先ほど覗いた大型テントの中では弾薬の準備などもしていた。
その中には女性や子供もいて、作業を手伝っていた。
そんな様子を見回しながら、ミリア達4人はリーダーであるアシャカをようやく見つけ、その眼の前に立った。
「どうも、」
「おお、警備の。どうだい?しっかりした防衛準備ができてきてるだろう?」
「お話があります。」
ミリアが見据えるアシャカは、彼らを見据える目を返すように、何かを感じたようで口を閉じる。
「私たちは、もし戦闘になった場合に備えて、お手伝いできます。」
「・・・いいのか?」
聞き返すアシャカへ、ミリアは真っ直ぐに、微かに頷いた。
「元々、警備部というのはそういう仕事です。ですが、条件があります。」
「聞こう。だが、条件を飲む前に、1つ確認したい。」
「はい。」
「あなた方を巻き込んだら、ドームは動くと思うか?」
彼は率直に聞いてくる、本当に。
「動きます。少なくとも、私の権限内で正確に報告し、戦闘があれば救援を要請します。」
「わかった。突発的に何かがあっても、あなた方のフォローはできないぞ」
「わかってます。」
「ならば頼む。」
アシャカさんはあっさりと頷いた。
「こちらの条件はまだ言ってませんが?」
「ダーナと一緒にそれを聞く。なに、よほど無理な条件でなければ俺が良いって言ったんだ、守らせる。時間が必要な条件か?」
「いえ。こちらの部隊編成についての話で、」
「ならば後にしよう。会議前の時が良い、後で呼びに行く」
「了解です。」
あっさりと、拍子抜けする気持ちもあったけど、でも条件は飲んでくれそうな。
これである程度はやり易くなるかもしれない。
「作戦会議には今後も参加してくれ。」
「はい。」
「戦場で肩を並べるってことは、俺らは協力し合う関係だな。必要なものがあれば言ってくれ。こちらかも必要な事は頼む。」
「できる範囲で協力します。それでは。」
「異変があればすぐ連絡するが、まだ『嫌な予感』は無い。」
「というと?」
「『まだ来ない』ということだ。だが、警戒はする。」
「わかりました。あ、あと、銃を貸してください」
「ああ。あそこで受け取ってくれ。俺の名前を出せばいい」
「どうも。」
向こうへ歩いていく4人は、それから武器を管理しているチャナフの方へ向かっていく。
そんな彼らを見ていたアシャカの傍に寄ってきたCross Handerのメンバーだ。
「・・彼らはなんて?」
「協力をしてもらう。共闘だ。『制約』は多そうだがな。あとでダーナに上手くやってもらおう。ダーナは今どこだ?」
「西の確認って言ってました。
「ふむ、戻って来てから話すか」
「彼ら、役に立つんですか?」
「わからん。」
「わからんって・・・」
「おいアシャカ、武器まで渡すんだよな?」
「だが、このブルーレイクまで来るぐらいの力量は持ち合わせているだろう。」
「そう、ですかね。」
「言ったらなんですけど、子供の集まりにしか見えませんよ・・・」
「はっはっは、俺も同じ意見だ。」
アシャカは豪快に彼らに笑っていた。
「だが、『救いは、『与えられる者』しか与えられん』。彼らは制服を着ている。ドームでは認められた戦士であるのは間違いない。不服か?」
「・・ま、アシャカさんが信じたのなら。わかってますよ。」
「ああ。これから大きな戦いが来る。決して『
「わかっている。」
彼らは持ち場に戻っていく。
あの少女ら4人は無事に話し終えたらしく、借り受けたアサルトライフルを肩に掛け、踵を返して戻っていく。
その後ろ姿からアシャカは高い所を見る・・・空のあるブルーレイクの景色、目を細め、村が変わっていく感覚を肌で感じ取るように。
そして、ゆったりと踵を返してまた自分のやるべきことを成すために歩いていく。
「なあ。」
村を歩くケイジがミリアを呼んでいた。
「武器、借りる必要があったか?車にもっと良いやつあるだろ?」
振り返ったミリアは、肩に提げたアサルトライフルのベルトを調節しているところだ。
ミリアの体のサイズに合わせると、だいぶ短くしているが、なんとか邪魔にならないようにできそうだ。
「弾薬はこっちので使わせてもらうつもりだから。どれだけ必要になるかわからないからね。」
「弾切れしたら終わりだな。」
そうフォローするように言うガイに、リースも銃の操作確認をまだ続けているようだ。
「ケイジは確認しないのか?」
「いやいいや、」
「安全装置の場所くらいは確認しとけ?」
ケイジは答えないが、とりあえず言われた通りにその肩に掛けたアサルトライフルを持ち上げてマジマジと見始めた。
「重いんだよなぁ・・・」
ぶつぶつ言っているようだが。
ミリアは言わないけれど、弾薬が原因の動作不良もあるし、戦闘中の弾詰まりの危険も考えられるから。
「本来は、警備部のものしか使っちゃいけない規則だけど。」
なるべく保証がある方を使いたいんだけど。
「リプクマの気遣いに今は感謝したい気持ちでいっぱいだな」
「そういうこと」
ガイの素直な表現にミリアも相槌をうっといた。
もともと、想定外の事態に備えてリプクマから軽装甲車『PE-105:モビディックIII』などの装備を支給されている。
軽装甲車内には様々な状況に対応するための装備品も積まれており、そして、それを使うのが『今』であるのは間違いない。
受け渡されたアサルトライフルは、EAUでは扱わない旧型の銃機種なので、さっきある程度レクチャーを受けたけれど、手に馴染ませるためには何度も操作を確認して身体に覚えさせた方がいいだろう。
軍務経験があるガイは扱ったことはあるそうだが、リースはたぶん初めてだろう。
リースはいつもだるそうなのに、今はちゃんと真面目にそのライフル銃をいじっているようだ。
私もたぶん大丈夫そうだ、昔レクチャーを受けたときのものと似ている。
ケイジは、・・・まあ、置いておこう。
どうせ、ケイジはあれだ、銃は期待できないし。
そもそも、銃にはもう興味ないみたいで、肩でぷらぷらさせたまま村の騒がしめの様子にきょろきょろしているケイジだ。
ミリアも、顔を前に向けて、夕日の差し掛かる村を歩いている。
・・・子供たちは、遊んで走り回っていない。
お年寄りものんびりと、手仕事をしながら子供たちを眺める・・そんな昨日見たような光景が、今は無い。
「車から持ってくるものはスタン装備とライフルを抜いたA装備一式でいいんだよな?」
「そう。手投げ類も必要ないか」
「いいのか?」
「手投げは距離が出ないし、煙幕なんかは使い方が難しいと思う。今回は集団戦だから味方が多いし、邪魔するかもしれない。想定される交戦距離は基本300m程度かそれ以上。侵入された場合も距離は近づくけど、アシャカさんたちの指揮を邪魔しないのが最優先だから、連携は乱したくないね。だから手投げ類は使わないようにしたい。無傷で制圧する必要はないから、最低限、ライフルさえあればいい。重量も重くなるし。防御面は充分に考えるけど。催涙弾なんかあれば嫌がらせにいいんだけどね。今、車に取りに行こうか。」
「さすがに催涙なんか車に数を常備していないな。発炎筒は?」
「それはもう軍部の仕事だね。発炎筒なら使うかも。重さに余裕があるなら各自好きに携行していいよ。ただし、少しでも重さを感じるなら諦めて。」
「了解。」
「なぁ、あれ着んのか。」
「なんだケイジ?」
「あの防弾ベストとかさぁ。あれちょっと動きにくいんだよなぁ・・・」
「必要でしょう。このスーツだけじゃ心もとないよ。」
「ちゃんと耐弾プロテクタつけないと骨折ぐらいじゃすまねぇぞ」
「弾に当たんなきゃいいんだろ?」
「避けれんのかよ、」
「ケイジ、」
「わぁかってるよ。・・警備部のジャケットはいらないよな?」
「防弾ベスト着てりゃいいが、風邪ひくなよ」
「夜もか。寒そうだな」
「ベストに弾が当たっても凄く痛ぇんだぞ。ゴム弾の比じゃあない。」
「ゴム弾とかも食らった事ねぇもん。」
「はっ、これだからEAUは甘いんだよなぁ」
「撃たれたことあんのかよ?軍部はおっそろしいとこだなぁあ・・っ??」
「俺も噂だ。」
「なんで偉そうなんだよ」
「歩兵訓練でわざと撃たれるらしい。」
「マジか・・・」
「はぷしゅっ」
って、リースがなぜかくしゃみをしてた。
「どした?」
「・・鼻がむずむずする・・・」
ケイジが覗き込めば、リースは鼻を指で押さえてた。
ライフルに付いた砂埃が鼻に入ったのかもしれない、わからないけど。
そんな長銃の何度目かの確認をしながら、ミリアは目に入る村の人たちの作業を流し見ていた。
袋に砂を入れて
場所によっては穴を掘ったり、新たなバリケードなども作られていて、自分たちがこの村に到着した時の牧歌的な光景とは雰囲気が変わってきている。
村の人たちはCross Handerの人たちと協力し、大きな戦いに本気で備えている。
そのときが近づいてきているのを、彼らは感じている。
それから、村の崖の
車から降りた時には既に『リリー・スピアーズ警備部』のカラーとマークが入った戦闘用の装備を纏い、銃に加えてプロテクタも身体に装着し、防弾ヘルメットも携行バッグに固定していて、村の人たちからは明らかに浮いているので、少し奇異な目で見られてたかもしれない。
私にとっては、プロテクタは言うほど動きは阻害されないけど、ケイジにとってはなんか気になるらしい。
宿で、使う装備の確認をしていれば、無線機からアシャカさんとダーナトゥさんから連絡があって。
いくつかの情報交換と、さっき伝えようとした条件を掻い摘んで伝えた。
彼らの作戦は大まかには知っているし、条件は細かな事だったので、彼らはすぐに了承した。
それから、マダック村長から夕食へ丁寧に招待されて、時間が来たら迎えに来たジョッサさんへ付いていく。
食卓に上がった料理は質素なものになっていた。
「申し訳ない、村の状況が状況なだけに、」
マドック村長は申し訳なさそうに言っていた。
たぶんそれに他意は無いと思う。
それらの料理は、たぶん村の人たちが普段食べるようなもので、自分達はまだ村の大切な客人のままであろう。
私はそんな事を考えつつ、隣のケイジがマッシュポテトを何杯もがっついて食べているのを見ながら、パンを齧っていた。
料理は減ったけど、パンの味は変わらなく美味しい。
それにケイジは別に、待遇が変わったとか、そんなことまで考えてなさそうだ。
ガイやリース達も普通に食べているし、うちのチームにはそんな事で機嫌を損ねる人がいないのは、良いことなんだとも思う。
私がコップを手に取った時、ふとした時、目に入ったマダック村長たちの表情が少し緊張した面持ちを見せていた。
何回か気づいていたけど、私はスープを口へ運ぶ。
思いつく言葉は、いくつかある・・・、『この村は大丈夫』とか、『この村は絶対守ります』とか、でも・・そんなことは伝えられない。
適当な励ましは、彼らに言うべきじゃないと思う。
彼らには多分、見透かされる。
ただ、ご飯をたくさん頂いた。
うちのチームはたくさんご飯を食べるのがわかってるみたいだし、勧められるから、パックのオレンジジュースも頂いた。
酸っぱさと甘さで、やっぱり美味しい。
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