第7話

 ミリア達はブルーレイクでの駐留の許可をもらって、他の細かな話し合いもお茶やお菓子を頂きながら終えた後、村からの厚意で止めてもらえる空き家に向かうことになった。

その際に村中を観察しながら歩いてると、ルッソさんがまた案内してくれて色々な話をしてくれる。

村では家畜を飼っているとか畑があるとか、定期的にドームからの支援物資などが届くので助かっていることや、村で育てた野菜や家畜などは少量ながらもドームの方に送っている事、成果報告のためや研究用など用途は様々で。

初めてこういう場所に来た、とさっき零したのを覚えていたんだろう、色々親切に教えてくれた。

先ほどまでテーブルを囲んで話していた家が村長のお宅である事もその時に教えてもらった。


基本的に、ドームに認可されている各村はドームが管轄する補外区域に存在し、その過酷な環境で人が住むための研究開発を行っている。

住む環境は違えど、各村の人たちはドーム市民と同等の権利を持っていて、ドーム政府が保護すべき人たちである。

だから、村の人たちのそんな話を聞いてると、ますます虚偽申請をした理由がわからなくなってくるミリアだ。

まだ会って間もないけれど、別に悪だくみをするような人達じゃないように見えるし、ドームの方とも良い関係が築けているようだし。


そんな事を考えつつ気が付くミリアが眺めるのは、牧歌的でいて何とも言えない風情のある村の景色だ。

丁度、夕暮れと夜の狭間で、寂れたような村の景色の影が色濃くなり始めていっている。

砂埃に汚れた子供たちが走って楽しそうにしてて、こちらを気が付くと遠目からくりくりした目を珍しそうに向けてくる。

家屋の並びに沿って、家の明かりが灯り始める頃でもあった。

道中で見かける人はあまりいないけど、農作物の根野菜を手に家に帰るような村の人を見てると、これからそれらで晩御飯を作るのかなって思った。

ドームからの支援があっても、彼らの生活は自給自足に近いのかもしれない。

「ここですね」

と、村長宅から出てけっこうすぐだった、ルッソさんが隣へ指差す先にある家は、夕闇の暗い中でも色彩がちぐはぐな木造の小屋に見えた。

強い西日が変に反射しているのかとも思ったが、色彩というより、黒かったりでツギハギ補修を繰り返しているとしてもボロそうだった。

まあそれでも、駐留中に軽装甲車の中で夜を過ごすにもバッテリー等の消費も激しいし、4人が同じ空間に詰める事になるしで、ちょっとボロくてもそれなりに快適に過ごせるのなら助かる。

「ドームから来られる運輸の方々もよく泊まられるんですよ」

と、ルッソは歩きながら話してくれるけど。

やっぱり、最初から彼らは私たちをこの村に泊める気でいたような気がしてならないミリアは、とりあえず、こくこく頷いておいた。

「ボロいな。」

ケイジがはっきり言うけど。

「はは、見た目はすいません。」

ルッソさんも苦笑いだ。

ミリアも、余計な事を言うケイジのわき腹にパンチしようかとちょっと思ったけど。

「でもベッドもありますし、中の設備もちゃんとしているので、ちゃんと休めると思いますよ。」

地面は所々に草の生えた砂地と土の中間のような固さで、その小屋へルッソを含めた5人はのんびり歩いていく。

散歩気分でよくよく見てると、村長の家や他の家屋もツギハギがあって木でできた部分と金属や布地などでふさがれた部分が見える。

見栄えは少し悪いが、この布地で隙間から入る砂埃を防いでいるのだろうか。

村長宅とか他の家屋でもそんな感じだし、まぁ、少しくらい小屋の方がボロボロなのも仕方ないか。

そんな事も考えてたミリアは、その小屋の前までたどり着いて、みんなとその建物を見上げる。

近くで見たらよりツギハギだらけだった。



ルッソが一歩進んで、一段高くなったステップを踏み小屋のドアを開ける。

「さぁ、どうぞ」

と、ルッソが言い終わらないうちに中を覗いたケイジが、すぐ中へ入っていった。

続いてミリア、リース、ガイも追って入っていって、目に入ったのが、窓から入る夕焼け色に染まった4つのベッド。

寝転がった時に顔が付き合わせられるような配置で枕が置かれている。

室内に棚なども配置されているが、一通りの家具があっても目を引く物といったらそれぐらいではあった。

一泊、二泊用の場所と割り切っているようだ。

今も、ぐいぐいとケイジがベッドを押したりして感触を確かめているけれど。

「悪くなさそうだ、」

ガイやリースたちも小屋の中を見回しながら、ちょっと嬉しそうだ。

小屋の壁も確かにツギハギだが、隙間から風は入って来てないようだ。

壁は見たまんまで薄そうだし、ベッドも簡単な造りのようだが、寝る分には申し分ないようだ。

小屋の見た目より快適そうな室内には2か所のガラス窓があって、外の村の夕日に陰る光景が見えるけどカーテンを閉めれば問題なさそうだ。

つまり、全体的に簡素な造りだが、車中泊やテントで野営するよりは全然良さそうだ。

奥の仕切りまで覗いて一通り見回したミリアが、ちょっと笑顔で傍のベッドに腰掛けてた。

「うん、今日はぐっすり寝れそう」

程よく押し返してくるベッドの弾力で、寝心地もきっと気持ちいいだろう。

「あっ!?待て!まだ何処で寝るか決めてねぇだろ!?」

って、ケイジが怒ってるけど。

「じゃぁ、あたしここ~♪」

笑顔になるミリアはベッドをぽんぽん叩いてた。

「公平にじゃんけんだろ?まずは!おいリース!ガイ!」

「そんなの、どこでもいいじゃん・・・」

めんどくさそうなミリアと、妙に興奮しているケイジだ。

「おまぇ、そういうこと言うならお前抜きで決めるぞ。残ったのがお前のだからな、」

「えぇ!?なんでよ!?」

「どこでもいいんだろ?」

「良くない!残ったのとかは!」

「じゃあ仕方ねぇからじゃんけんだな、」

「・・仕方ないな・・」

勝ち誇ったようにニヤリと笑うケイジに、ミリアは渋々だが立ち上がる。

「ほれ、リース、ガイも、やるぞ」

「ということらしい、悪いな、案内してもらって」

って、ガイが入口で苦笑いのルッソに伝えてた。

すっかり忘れられてるようなルッソに、ミリアも気が付いてちょっと照れ隠しに笑ったようだった。

「いや、楽しそうで。休んでてください。あとで、食事とかお風呂は村長のお宅で、ぜひしてください。後でまた呼びに来ますから」

これが、至れり尽くせり、ってヤツのようだ。

「そういやもう一つ、この辺を自由に歩いていいっすか?色々と調べた方がいいだろうから。」

「はい、勿論。いいですよ。けど何にも無い所ですが?」

「地形とかを知っときたいんですよ」

「あぁ、なるほど。ご自由にどうぞ。みんなにも伝えておきます。そうだ、案内はいりますか?」

「いや、大丈夫だ。な?」

って、話を進めるガイがミリアに振るから、ミリアもそのまま頷いておいた。

「はい、大丈夫です。」

「そうですか。それでは、皆さんゆっくり休んでてください」

「どーも、」

「ありがとうございました~」

ガイや、暢気なミリアの声がルッソの背中に届いて、少々、苦笑い気味かもしれないルッソが会釈をしてドアから外へ出て行った。

ぎぃっと軋むドアが閉まった後、小屋のどこかがまた軋んだみたいだけど。

風の音か、何かの軋みか、顔を上げたミリアがいる3人の方へ、ガイもベッドの横へと近寄っていった。



 ミリアは、ケイジの牽制に身構えている。

「ふふふ、パー出すからね、パー」

そんな零れる不敵な笑みを浮かべて。

「じゃぁ、俺は・・チョキだ・・」

「言ったからには絶対に出してよ?」

「当たり前だろ、お前こそナ?」

「当たり前じゃなイ?」

じりじりとお互いの挙動を警戒して顔を突き合わせている2人だが。

その近くで立っていても相手にされてないリースが、その2人の様子を見ていて。

「いつ決めるんだよ、」

そんな事を言ったガイへ不意に、リースが無気力そうな顔を向けてた。

「なんだ?」

「・・眠い、」

「お前はどこがいい?」

「・・どこでもいい。」

「ま、そうだよな。」

って、言葉を交わしたガイもリースも同意見のようだ。

「あれって、何か意味あるの?」

「あぁ・・、気分は乗るな、気分は・・、それ以外の意味は無いだろ」

ガイの冷静で落ち着いた返答を聞いて、リースはまた対峙する2人に視線を戻した。



「何処を狙ってるのケイジハ?」

「俺の聞いてどうするんだヨ?」

「いいじゃない別に、減る物じゃないでしょ?」

ジリジリしてるミリアとケイジをよそに、リースがあくびをしてた。

「あいつらの邪魔をしちゃ悪いしな」

って、ガイも欠伸をして適当にベッドに座って待っている。

「言い方!」

びしっとガイを鋭く指差すミリアだ。

その急な勢いに横のリースの方がびくっと身体を震わしてた。

ガイは可笑しそうに笑ってたが。

「そんな事より早く決めるぞ」

ケイジが至極真っ当な意見を言って寄越すから。

「お前らを待ってたんだろ。」

「そうだよ」

「なんで俺なんだよ、」

「はい、いくぞ、じゃんけん・・・―――――強制的にガイの声で熾烈なじゃんけんが始まるのだった。




 結局、ガイがグーで一発で勝ち抜けたので。

「よーし。」

熾烈でもなかった勝負から抜けたガイは両手を上げて喜びのポーズのまま、座ってたベッドに転がってた。

次に決まったのはビリのケイジで、やる気を無くして不満そうだが。

最後の勝負はリース対ミリアにまた、一回あいこを挟んで、リースが勝った。

出したチョキを見つめて少し反省しているようなミリアだが。

結局、動かないガイとリースがベッドの上に転がっているので、ミリアが最初から選んでいたベッドを使うのだから、残ったベッドがケイジの寝床になった。

「俺は最初からここが良かったんだ」

とケイジが愚痴るのを、ははん、とミリアは鼻で笑ってたけど。

「結局動いてねぇじゃねぇか、」

って、ガイは笑ってた。

そんな2人の様子をリースは興味なさげな、眠そうな視線で暫く見つめていた。



 ―――――・・のんびりしているガイは、ベッドの上で足を投げ出して仰向けに休んでいる。

天井の汚れた金属の骨組みを見ていたようだが、ふと口を開いた。

「必需品は後で持ってくるとして、そういやミリア、本部への報告はいいのか?」

と、そのガイの一言にぴくっと反応して、仰向けになって低めの天井を見ていたミリアも一言返した。

「そろそろ行こうと思ってた。」

「そうか。」

・・ミリアは、すっと上半身を起こしていた。

「忘れてたんじゃねぇのかー?」

ケイジがすかさず言ってくるのをミリアは、無視してベッドから立ち上がった。

「日、落ちちゃってるね・・・、行ってきます」

そう言い置いてミリアが出て行くのを、ガイも立ち上がろうとしたが、ケイジが先に立ち上がったのに気が付いて。

ガイは、ベッドの上の体勢を変えるのに留めといた。

扉を開けて出て行ったミリアを、追いかけてケイジが出て行くので。

ガイは、既に日が落ちて暗くなりかけている窓の外を一瞥いちべつしてから。

・・ごろりとベッドに寝転んだ。

静かな室内になった。

目を閉じて、少しの間、意識を彼の考え事の方へ傾ける。

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