第6話

 空気が鋭くなった。

ミリアもそれは感じた。

ダーナトゥの顔をまっすぐ見つめていたが。

隊の仲間、ガイやケイジ達3人も変化を感じ取ったように、それぞれの目で周囲を確かめたようだ。

「恐らく、3つの集団が手を組んで襲ってくる。日時は不明。戦力不明。だが、集団が3つとなりうちの戦力が足りない。なので、救援要請を村長に進めてもらった。だが、期待外れだ。応援の数が少なすぎる。4人は少ない。悪く取らないでくれ。ただの不満だ。」

黙ってダーナトゥの目を見つめながら、彼の言葉を聞いていたミリアだ。

『不満』と発した時に、傍のケイジの眉がぴくりと動いたのはダーナトゥにしか気づかれなかったが・・・。

周りの人は様子を窺う・・・こちらの反応などを気にしているようだ。

・・・三息ほどの間を挟んで、思案をまとめたミリアは口を開いた。

「ありがとうございます。シンプルに言ってもらえて。現状は理解できました。ただ、不明な点がいくつか。」

表情を変えずにダーナトゥは、ミリアを見下ろしている。

「その情報、一体何処から手に入れたんですか?」

その言葉、見せ付けるように、一言一言を丁寧にミリアは紡ぎ出す。

ミリアは瞳をダーナトゥに捉えたまま、どんなサイン兆候も見逃さないつもりだ。

だが、ダーナトゥはふてぶてしいとも思えるほどに落ち着いた態度で答える。

「言う事はできない」

淡々と、その質問が来ることは当然わかっているようだった。

「どうしてもですか?」

「・・・」

ミリアは・・一応、首領らしいアシャカへ視線を移すが、彼もそのミリアの視線を受け止めたまま、肩を大仰に竦めた。

仕方ないといった風で、彼もうっかり口を滑らせることは無いだろう。

まあ、そりゃそうだろう。

こんなに穴だらけの情報を真正面からぶつけてくるのだから、向こうの立場からは何か理由があるのかは知らないが、これを突き通すのみという考えだろう。

そして、彼らはわかっているはずだ、こちらの返答を。

は警備隊であるミリアにはそれを正確に伝える義務がある。

充分に待ったと思う、ミリアはだから、息を吸った。

「沈黙、肯定と受け取ります。その上で、こちらの見解を正直に伝えます。」

ミリアは再度の一息を吸う、その間もその場の全員がミリアに注目していた。

「それだけの情報では、現場権限では緊急の応援は呼べません。これは規定で決まっています。情報の真偽は、情報源が明らかにできなければ判断材料にはできません。そもそも、我々は警護要請を受けて参りました。何かしらの事件、事故が発生していない上に、起こる見込みも無いのなら、これは虚偽申請としてあなた方に罰則が発生します。」

・・沈黙で、・・・ミリアの言葉を聞いていたその場の全員の中で、ダーナトゥが静かに口を開いた。

「・・賢明だな」

聞いて、ミリアはちょっと、口を閉じていた。

その言葉、当然だ、とやはりわかっていたようだ。

では、ミリアが疑問に思うのは、彼らがなぜそんなことをしたか、だ。

ダーナトゥがその黒い瞳で、ミリアを見つめ返していた。

その様子は・・・ミリアの続きの言葉を待っているようだった。

「・・当然ですが、本部にはありのままを報告します。いま私が話したことはあくまで私の見解ですが、どう判断されるかはわかりません。ですが、『ブルーレイク』には罰則が発生する可能性があります。それは心してください。そして、我々は本部から具体的な指示が来るまでの間、この村で待機するつもりです。村の皆さんが承諾してくれるなら、の話ですが」

――――ほっ・・・とする周囲の、『賢き役』と言っていた村の人たちの、様子をミリアは感じ取っていた・・・これは・・・。

「1つ聞いていいか?」

アシャカさんが、口を挟む。

「何でしょう?」

「君達は戦えるのか?」

それは・・・単刀直入に、戦力を尋ねてきたように聞こえた。

「・・我々は、パトロール、警備隊です。」

当然、それに見合う能力はある、と言いたいところだが・・彼が何を要求してくるのかわからないなら、軽々しく返答はしない方が良いか・・・。

「では、もし危機が迫った時、共に戦ってくれるのか」

「それは、」

・・それは、想定しにくい状況だが。

・・・何があるかわからない状況で、答えていい要求ではないのかもしれないけど。

・・でも。

「・・当然です」

村の人たちに危険が及ぶのなら、私たちの仕事の範疇であり、当然の義務だ。

その言葉を聞き、アシャカがそう口元を僅かに緩めたのを、ミリアは見ていた。

「ふむ・・今の所それで充分だ。マダック、問題無いだろ?」

「私としては、人数が多ければ多いほど安心なんだが、まぁ、警護は君たちに一任しておるし、信頼しとるよ」

村長は、気前よく、了承したようだ。

「ということだ。たったの数時間か、それとも数日後か、その時まで・・、ようこそ『ブルーレイク』へ」

アシャカはミリアに手を差し出す。

アシャカの差し出された太い手を、顔をきょとんとした顔でミリアは一度見比べたが。

「・・数日も居るかは、わかりませんよ?」

ミリアは、小さなその手で彼の手を握り返した。

「はい、よろしくお願いします。」

アシャカの背後でマダック村長が、にこやかな笑顔を浮かべる。

ミリアには、最初の印象とは全く違う風に映ったけど、小さく鼻を鳴らすように肩を竦めるしかなかった。

「ブルーレイクへようこそって、私の台詞じゃないかそれは・・」

などと、拗ねたようにぼやいていたマダック村長だけど、代表して言いたかった言葉なのかもしれないけど、この際、誰も触れないみたいだった。

「さて、先ずは客室へ案内しよう」

って。

「お、くつろげそうだな」

「それぐらい当然だろ」

って、ふてぶてしい隊の仲間のケイジたちに、ミリアは肩をすくめていたけど。

「お茶のお代わりどうだい?」

「お菓子食べる?ちょうどお昼に焼いたマドレーヌがあってねぇ」

って、急に、村のみなさんから、ちやほやされ始めたのは、大事な相談が良い感じに終わったからみたいだった。


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