第9話 闇②

 俺は―――どうなったんだ――――――何も分からない。

 目の前に広がるのは真っ暗な闇だけだ。だが、不思議と心地が良い。

 もうこのまま何も考えずに、永遠にこの闇の中で微睡まどろんで居たくなるような、そんな場所だ。


「―――――――い」


 何だ――――何か聞こえる―――――――誰か俺を呼んでるのか――――


「―――――なさい」


 俺を呼ぶ声―――暖かく、包み込まれるような――――優しい声。


「目を覚ましなさい」

 闇の中に響く、女性の声。

 この声―――何処かで――――

「目を覚ましなさい□□――いえ、今はリトラと名乗っていましたね」

 リトラ…………俺の名前か………?

「そうです………あなたの名、そして使命を思い出しなさい――――」

 ――――思い出した………俺の名前…そして、俺のやらなくちゃいけないこと。

 夢の中に出て来る光景、そして―――俺の名を呼ぶ一人の少女――――


 ――――――――俺はあの子を救いたい――――――――


「そう………思い出しましたね………」

「ああ!あんたのおかげだ!」

 俺は真っ暗な闇へと礼を告げる。

「……ところで、あんた誰だ?」

 何処かで聞いたことがある、優しい声―――俺は彼女に問いかける。

「私は□□□□□□□」

 その闇は名前を告げるが、ノイズのようなものが走りよく聞き取れない。

「えっと…」

「ふふっ……大丈夫ですよ………今は分からなくても。あなたが真実を求める時、いずれ私たちの運命は交わります」

 彼女がそう言い終わると、真っ暗な闇の中に一筋の光が差し込む。

 そして、再び俺を呼ぶ声が聞こえて来る。

「―――アニキッ!―――リトラのアニキッ!」

 この声………マグナッ!

 こんな所で寝ている場合じゃねぇ!帰らないと………皆の所へ!

「さぁ……行きなさいリトラ………」

「ああ……ありがとうな!行って来る!」

 俺はマグナの声がする方向、一筋の光へと手を伸ばす。

 そして、眩い光に包まれると同時に俺の意識が段々と薄くなっていった。



「「あなたを召喚して良かった―――生きて―――生きなさい―――□□」」


 闇の中に響いたのは、とても悲しく、とても寂しく、そして慈愛に満ちた女性の声だった。

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