第8話 リトラVSデスパイダー②
◇
「はぁっ……はぁっ………はぁっ…………」
リルの住処へ向け走り出した俺は、モップを抱えながら、木々の間を突き進んでいた。
俺がどんなに狭い道を行こうが、デスパイダーはお構い無く木々を薙ぎ倒しながら追いかけて来る。
だが、モップとの鬼ごっこの成果なのか、俺とデスパイダーの距離は全然埋まらない。むしろ引き離している様にも感じる。
(このまま行けばっ……!)
そう思っていたのも束の間、腕の中から左肩へと移動したモップが「もきゅっ!もきゅ!」と言い、俺の肩を叩く。
その瞬間…
「うぉっ!?何だっ!?」
俺の真横を白い物体が通り過ぎていく。
その白い物体は、目の前の木にぶつかると、ベッタリと付着する。
「…っ!…まじかよっ……蜘蛛の糸かっ!」
さらに、ベチャッ…ベチャッ…と次々に蜘蛛の糸が通り過ぎていく。
あれに当たれば、すぐさま絡め取られてしまう。そうなればゲームオーバーだ。
リルの住処までは、まだ距離がある。
蜘蛛の糸に気を取られて、走るスピードが落ちているのを感じる。
……このまま逃げ切る事が出来るのか……?
いや、そんな事を考えては駄目だ!俺は生きたいっ!
………だからっ………!!!
「うおおおぉぉぉぉおおおおっっっ!!!!!!」
俺は足に力を込め、さらにスピードを上げる。
修行の成果なのか、自分でも驚くほどの速度が出ている。
「これならっ……!」
この時、俺は一瞬だけ気を緩めてしまった……
そう、ほんの僅かな一瞬だけだったが、デスパイダーはその隙を見逃さなかった。
「なっ………!?」
気づけば俺は地面に勢いよく転んでしまう。
……油断していた……
「も…もきゅっ!」
モップは俺が転んだ近くに着地し、俺の方へと駆け寄ってくる。
俺はすぐさま後ろを振り返ると、そこには地面に付着した蜘蛛の糸と、そこに張り付いた俺の右靴があった。
恐らく、デスパイダーは俺の足を狙って蜘蛛の糸を飛ばしたんだろう。
「くそっ………マジかよっ!」
俺は起き上がり、デスパイダーの方へと目をやる。
「もきゅ!」
直後、獲物を仕留めるためにデスパイダーは一気に距離を詰め、さらに糸をこれでもかと飛ばす。
「……っ!!!」
俺は何とか避けるので精一杯で、あっという間に周囲は蜘蛛の糸だらけになる。
まるで蜘蛛の巣の中に閉じ込められたようだ。
完全に逃げ道を失った俺はため息をつく。
「……やるしかないのか」
大きく息を吸い込み、呼吸を整え、両
「よしっ」
そして、近くにいたモップを見つめる。
「もきゅう……」
モップは悲し気な表情をしており、じっと俺の方を見ていた。
そんなモップに俺は告げる。
「モップ、お前に頼みがある……マグナとリルを呼んで来てくれないか?」
「も、もきゅっ!?もきゅもきゅ!もっきゅう!」
モップは驚き、地団太を踏んでいる。
何て言っているかは分からないが、怒っていることは分かる。
「すまねぇ…何て言ってるか分からん!でも、お前なら糸の隙間を通れるだろ?」
「も…もきゅう……」
モップは納得がいかない様子だ。
「頼む……俺たちが生き残れる可能性は、これしかねぇんだ」
俺がもう少し強ければ……俺に力があれば……こいつに勝てたかもしれない。
でも、俺はまだ弱い……一人じゃ勝つことは出来ない。
「もきゅ!もきゅう!!!」
そんな俺の思いが伝わったのか、モップは大きく頷き、糸の隙間をくぐり抜けて走り出す。
そんなモップを見送り、デスパイダーへと向き直る。
「………覚悟を決めるか」
異世界に来て二度目の強敵との邂逅、そして戦い。
全身に冷や汗をかきつつも、高鳴る胸の鼓動、そして思わず笑みがこぼれてしまう。
これも戦闘民族としての
これは勝つための戦いじゃなく、生き残るために時間を稼ぐ戦いだ。
だが、自身の中の抑えられない衝動を感じながら、俺は拳を構えるのだった。
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