第7話 白兎を捕まえろ!地獄の鬼ごっこ開幕②

「……モップのやつ、どこに行ったんだ?」

 修行開始から十日程が経過した。

 相変わらずモップの速さに追いつけず、未だにあいつを捕まえることが出来ていない。

 そして今現在、モップの姿を見失ってしまった所だ。

 周囲を見渡しても、ドリルサギが大量にいるだけで、モップの姿がない。

 この数日で動体視力がかなり強化された(モップのスピードに慣れたからだ)が、それでも見つけられない。

「……おかしい………」

 そう、おかしいのだ。

 朝食の時はいた。その後から一度も姿を見ていない。

 もうすぐ昼だというのに、一向に姿を見せないというのは、やはり何かがあったとしか思えない。

「心配し過ぎか?いや、でもなぁ…う~ん……」

 俺はしばらく考え込んだ後に、一つの結論を出す。


「よし、こんな時はリルに聞くのが一番だな!」

 そう、考えることの放棄………つまりは、他人任せである。

 そうして俺は、恐らく昼食を作っているであろうリルのいる食堂へと歩いて行くのだった。

「ん〜?モップがおらん?……またか………」

 食堂へついた俺は、スープを作っているリルに今の状況を説明する。

 スープからはいい匂いが漂って来ており、非常にお腹が空いてくる………じゃなかった、モップの事が優先だ。

 またか、ということはモップは以前にも忽然と姿を消すときがあったということか。

「前にもあったのか?」

 リルは大きなため息をつき、顔をしかめている。

「前の住処でな。あの子はたまに、自分の大好きな野草を住処の外から調達してくるんや」

「住処の外からか!?」

 あの小さいウサギが外に出れば、肉食の魔獣に食べられるんじゃないのか?いや、そもそもあのスピードがあれば大丈夫なんじゃないか?

 と思ったのも束の間、リルの顔が深刻そうな表情になっているのに気がついた。

「あの子はな………魔獣が怖いんや」

「!?!?!?」

 何でだよ!!!!!………と、叫ばなかった自分を褒めてやりたい。

 いや、何で魔獣が怖いのに外に野草を取りに行くんだよ………

「兄ちゃんは薄々気づいてると思うけど、あの子はワイの本当の子やないねん……」

 ………いや、それはモップが初対面のときに言っていたし、知っている。

「そうだったのか………」

「せや、一年ぐらい前に森の中で出会ってな。ワイを見て気絶したところを保護したら懐いてもて」

「なるほど。それで今一緒に暮らしているのか」

「そうなんや。でも、例え血が繋がってなくても、あの子は……モップはワイの子や」

 そっか……リルは本当に良いやつだな。

 よし!じゃあ俺が人肌脱ぐか!

「俺が探してくるよ!」

「ええ!?兄ちゃんが?ワイが行こうか思てたけど………う~ん…………せやな、うん、じゃあ兄ちゃんに頼もうかな」

「おっしゃ!任せとけ!必ずモップを連れて帰るよ」

「兄ちゃんやったら安心やわ~。ほな頼むわ」

 リルは険しい顔からパッと花が咲いたような笑顔を見せる。

 ………リルと戦ったから分かるが、リルは恐らく足を怪我している。縄張り争いか何かで負った傷だろう。

 そんな友に無理はさせられない。俺が変わりにやればいい。

「よし!じゃあ行ってくる」

 俺は食堂の出口へと向かう。

 そんな俺にリルは声をかけてくる。

「兄ちゃん………モップは何でか魔獣に好かれよるから気をつけてな!」

 魔獣に好かれる?気をつける?

 …………何かちょっと嫌な予感がする。

 俺は一抹の不安を抱きながら、森の外へと向かうのだった。








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