第6話 修行の開始と兎の師匠②
白モフを追いかけて階段を下ること数分、やっと地上に降りた俺は周囲を見渡した。
「あいつ、どこ行ったんだ?」
地上近くで白モフは急にスピードを上げ、俺を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。
周囲は数多くのドリルサギたちがいて、まるで雪が積もったかのように見える。この中からあの小さな白モフを見つけるのは大変だろうな。
「ん?あれは…まさか!」
俺がいた木の向かい側、同じくらい大きな木の根元の空洞に、空を飛ぶ茶色い生物の姿が俺の目に映った。
俺はドリルサギたちを踏まないように、気を付けながら近づいて行き、その生物…俺の相棒の姿を確認する。
「マグナッ!」
「っ!ア…ニキ…?アニキィィィ!!!」
マグナは俺の姿を見た瞬間、物凄い勢いで俺の元へと飛んできて、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を俺の胸に押し付ける。
「アニキッ!良かったっ!アッシは、アッシは…」
「また心配かけちまったな…でも、もう大丈夫だ!」
「アニキ……」
マグナが俺の胸で泣きながら、鼻をかむ。
こういう時こそハンカチ………使おうな………………
なんてことは言えず、マグナが落ち着くまでしばらく待とうと決めた時、木の根元の空洞から大きな兎の顔をしたゴリラが出て来た。…………いや、ゴリラの体を持った兎が正しい……のか?
「おっ…兄ちゃん、復活したんか?」
関西弁訛りの喋り方の兎ゴリラ…ゴリルサギのリルが、空洞の奥から姿を現す。
「ああ、心配かけたみたいだな」
「そうやなぁ…兄ちゃんはまる一日寝たきりやったから心配やったけど、それよりも兄ちゃんの回復力が高すぎてびっくりしてるわ」
そうだったのか……あれから一日も経っているなんて、実感が湧かないな。
「マグナちゃんが何回起こそうとしても起きひんから、めちゃくちゃ心配しとったで。でも良かったわ、無事目が覚めて」
「そうなのか…」
マグナとリルは俺のことを心配してくれていたんだな。
前世じゃ心配してくれる人なんていなかったからな…前世のことを思い出して、少しだけ寂しくなる。
「兄ちゃん?大丈夫か?」
そんな俺を見かねてかリルが声をかけてくる。
確かにあの世界にはいい思い出があまりない。でも、この世界は違う。
俺はこの世界でマグナ、そしてリルと出会った。俺のことを心配してくれる、俺の大切な相棒と友達。この出会いだけでも、俺はこの世界に来てよかったと思う。
「ああ!大丈夫だ!ありがとうな、二人とも!」
こういう時は心配かけてごめん…じゃなくて、ありがとうの方が相手も自分も気持ちがいいと聞いたことがある。
「いえいえ!そんな、いいんすよ!」
「せや、元々ワイのせいやしな!ガハハハッ!」
いや、まぁ…確かにリルの攻撃で寝込んだんだが……何で大笑いしてるんだよ………………
まぁ…先に手を出したのは俺だしな、細かいことは言わないでおこう。
「はぁ…やれやれ………ん?」
そこで俺は自らの鼻孔をくすぐるいい匂いに気づく。
この匂い……何処かで嗅いだことがある。………………そうだ!あれだ…………!コンソメスープの匂いだ!!!
いや、似てるけどちょっと違う………少しだけ、スパイスのようなものが混じっている。
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